XX
「なぁ角名。これ何?」

 ある日の部活終わり。侑と治、銀島と角名しか残っていない部室で銀島が不思議そうに声を放つ。その視線は自分たちよりも遥かに下――足元に置いてあった鞄へと注がれており、銀島の声を聞いた侑と治も、釣られるようにして下を向く。

「お、何やこれ。ノートちゃうよな?」
「中に入っとんの、写真か?」

 普段とは異なる鞄の中身に興味を示した双子が、面白半分にそれを取り出した。「おいやめろ」と角名が慌てて手を伸ばそうとしたものの「着替え終わってへんの角名だけやで。はよせぇや」と侑に言われてしまえば、中途半端に伸びた手を引っ込めるしかない。
 角名がそそくさと着替えを進める中、双子と銀島は暇つぶしだと言わんばかりにそれをまじまじと見つめる。

 侑の手のひらにあるそれは、ミニアルバムだった。先日、角名の母親が「懐かしいの出てきたからそっちに送るね」と送ってきたもので、昼休みになまえと開いたばかりのものだ。
 当然写っているのは幼い頃の角名となまえで、中身を見た三人は「角名変わらんなぁ」「いや、昔のが愛嬌あるで」「ほんまよう笑っとるわ」と散々な感想を述べている。

「隣に写っとる子いつも一緒やん。仲良しやなぁ」
「つか誰やねん。妹?」
「なわけ。なまえだよ」

 角名がシャツのボタンを閉め終える。いいから早く返して、と三人に振り返ると、三人は驚いたような顔でこちらを唖然と見つめていた。
「はぁ!?」と仲良く声が揃ったところで、角名は侑からアルバムを取り上げる。「あ、ちょ!」と侑からは抗議の声が上がったが、角名はそれを無視して鞄にアルバムを入れ直した。

「いやいや。みょうじさん変わりすぎやろ」
「少年が少女になっとる」
「劇的ビフォーアフターはほんまやったんか」

 三者三様の言葉に、角名は首を傾げる。いや、なまえどこも変わってないと思うけど。思わず確認したくなって、角名は閉まったばかりのアルバムを取り出し開く。
 「どれ?」と疑問を投げかければ、それを覗き込むように見た三人が「これとか?」「これも」と指をさしていく。

「木登りしとる」
「こっちは虫籠に蝉ぎょうさん入れとるな」
「これなんかキャップ帽のツバひっくり返して木の枝持っとるで」

 角名は、驚いた顔で言う三人の言葉を聞きながら、該当の写真に目を向ける。一通り見終えたところで、「…で?」と言葉を返した。

「いや、で?ちゃうやろ。これほんまにみょうじさん?」
「だからそうだって言ってんじゃん」

 角名は呆れた表情で彼らを見る。未だ信じられないのか、三人は他のページもとペラペラとアルバムをめくっていく。どんどん大きくなっていく二人が面白いのか「ここらへんから少し髪長いな」「ちょっとみょうじさんの面影出てきたやん」とまるで品定めをするかのように写真をまじまじと見ている。

「お、なんや。二人でバレー見とるやん!」

 侑の手がある一点で止まる。そこには某マスコットを片手にテレビに食いつくなまえと、カメラに気付き控えめにVサインを向ける俺がいた。確か、これはネーションズリーグの試合を見ていた時だ。なまえがバレーを見ている時の俺は本当につまらなそうな顔を全面に出している。
 
「へぇ。みょうじさん、バレー好きやったんや」
「むしろみょうじさんの方が楽しんでへん?」
「角名むっちゃ面白ないって顔しとる」

 銀島は「角名はこん時バレーしてたん?」と聞いてきたので、角名は首を横に振る。むしろ嫌いでした、なんて言えず「なまえも俺も見る専だったよ」と当たり障りない言葉で返した。
 
「へえ。でも、今角名はプレイヤーしとるやん。どこかで心境の変化でもあったん?」

 銀島の問いかけに「どうせみょうじさん関係やろ」と答えたのは治だった。特に間違いではないので、角名は素直に「まあね」と返事を返す。思い出すのは昔のなまえとの思い出。約束とも呼べない会話と、「なまえの一番になりたい」という当時の気持ちを思い出し、角名は口角を上げる。
 たとえその約束を、なまえが明確に覚えていなかったとしても、角名の気持ちは今もずっと気持ち変わっていない。むしろ、空白の期間があったからこそよりその気持ちは強く、バレーをする上での自分のモチベーションに繋がっているのを感じていた。
 まあ、そんなことをここで言ったところで、侑あたりから「それが何?」と言われ、治や銀島からは意味ありげな視線を向けられるのがオチなので絶対に言わないが。角名は乱暴にアルバムを取り上げると、「じゃあお先」とエナメルバッグを肩にかけ帰路についた。

20230504



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