「貴方、最近ずっとここにいるよね?」
山の中にいれば、どこからともなくその子供は現れた。
子供特有の大きな瞳にあどけない笑顔
それよりも、どうやらこの子供には私の事が見えているらしい。
「なんだお前、私が見えるのか?」
「うん。
綺麗な毛だね」
私の毛を撫でる手は優しく、落ち着きを与えてくれる。
「私は斑だ」
顔を寄せて言えば、その子供は一瞬きょとりとした後無邪気な笑顔を浮かべた。
「私は名前
よろしくね、斑」
その笑顔が眩しくて、私は目を細めた。
それからと言うもの、その子供、名前は毎日私のもとへと来るのが日課となっていた。
名前は私に、あそこの花畑が綺麗だ、などという風景の話しかしない。
人が通う学校と言うものについては、全く話そうとしなかった。
私が、そんな事を考えていた次の日から名前は私のところへ来なくなった。
気になって名前が言っていた家に行ってみる。
そこには立派な日本家屋が広がっており、どこの部屋も窓と障子が開け放たれていた。
散歩がてら家の庭を歩いていれば、ふと見た屋敷の中には名前の姿があった。
「名前」
私が呼べば、上半身だけ起こし、こちらを見る。
「斑、来てくれたんだね」
本当に嬉しそうに笑う名前に、私も笑みを作る。
数日後、名前はこの屋敷からも旅立った。
たった一枚の書置きをして。
でも、それは人の文字で書かれていて私には読めなかった。