きゅうそく。

新学期が始まった学校は、今日も残暑により暑い。
放課後、一応クーラーのある部屋として、私は図書室で本を借りた。
それなりに涼んだ後、借りた本を鞄に入れ音楽室に行く。
今日は、部活も無い。
でも、あの部屋にはクーラーがついているからついつい行ってしまう。
むーさんに頼まれた編曲を嫌々引き受けた筈なのに、いつの間にか楽しくなっている最近
渡されたのはこの前見に行った花火大会でインスピレーションでも受けたのか、花火らしい曲
いつも一緒にいる呉羽にアドバイスをして貰いながら試行錯誤している今日この頃
まず、むーさんの原曲をピアノで弾く。
そこからは、足し算引き算の世界
どのフレーズを削るか、または自分の作ったフレーズを付け足すか。
出来上がった編曲を全部弾いてみる。
弾き終わればピアノの上に座っていた呉羽が小さく手を鳴らした。
まだまだ明るい空を視界に入れ、私は呉羽へ手を差し出した。

「帰ろっか、呉羽」

「いい出来だったわよ、詩津」

「有難う」

素直に褒めてくれた呉羽に嬉しく思いつつ、私は音楽室の鍵を閉めた。
職員室で鍵を返して、昇降口で靴を履き変える。
正門へ歩いてくる人物を見つけ、声を掛ける。

「的場君」

振り返った彼に少し早足で追いつく。

「一緒に帰ろう?」

誘ったはいいが、断られたらどうしようか。
そんな疑問が自分の中にある。

「いいですよ」

「有難う」

でも、優しい彼は当たり前の様に肯定してくれた。
歩き出した的場君に私は声を掛ける。

「ねぇ、的場君!」

「何ですか?」

少し後ろを歩いていた私に、彼は振り返ってくれた。

「静司さん、って呼んでいい?」

私が言えば、彼は一瞬目を見開かせた後、ふと微笑んだ。

「じゃ、詩津さんと呼ばせていただきます」

その言葉を肯定と受け取って、私はまた歩き出した。


秋の気配が混じり始めたこの時期に、
二人の距離は縮まった。


まえ / つぎ
モドル?