ひらりと私に手を振って、迎えに来ていた雲に乗って呉羽は行ってしまった。
10月、昔の暦で言うと神無月
その名の通り、神無し月である。
全国の大体の神が出雲大社へと向かい、一年の事を決めると言われている。
「またね、呉羽」
もう姿の見えない彼女に向けて紡ぐ。
と言うか、彼女はただの妖ではないのか?
ふと疑問に思ったそれについて家にある彼女の住処、または祠を見れば、しっかりと神の名が綴られていた。
と言う事は、呉羽と言う名前はどうやら私達で言うあだ名の様なモノだと認識した。
さて、そろそろ出なければ学校に遅れてしまうだろう。
「いってきます」
彼女のいない家、彼女が乗っていない肩、その全てが、なぜだか新鮮に感じた。
毎年、毎年、彼女がいない一ヶ月が当たり前になっていたのに。
珍しい事があるものだと思いながら、私は学校への道を急いだ。
〜 主視点 終了 〜
〜 的場視点 〜
朝晩は涼しくなって来たと思う10月初め。
前を歩く彼女、詩津さんの肩を見れば、いつもいる筈の妖がいなかった。
なぜいないのか、不思議に思いながら思い出すのは今が10月だと言う事
あの妖が神だったと言う事にも驚きつつ、詩津さんに声を掛ける。
「詩津さん、おはよう御座います」
「おはよう、静司さん」
相変わらず、嘘偽りなく笑う彼女を見て私も自然と笑みが零れる。
「そう言えば、もうすぐ文化祭だね。
うちのクラスは何やるんだろうね?」
首を傾げながら聞いて来た詩津さんに先日決まったクラスの出し物の説明をする。
「和装の喫茶店だそうですよ。
全員、浴衣着用だそうです」
「喫茶店なんだ」
楽しそうに笑い出す詩津さんを不思議に思いつつ、文化祭前も当日も、きっと彼女は大変なのだろう。
「生徒会と両立だと、やはり大変ですか?」
「大変と言えば大変だけど、遣り甲斐があって面白いと言えば面白いよね。
と言っても、もう私は生徒会の人間じゃないけどね」
くすくすと笑いながら言う詩津さんに言われて思い出す。
この前会長選が行われた事に。
「今年は生徒会もないから、一日ずっと自分の時間と思うと嬉しいな。
初の模擬店参加だし」
今にも飛び跳ねそうな彼女に、私はまた笑みを零した。
「なら、一緒にお店回りましょうか?」
私の提案に詩津さんは両手を顔の前で合わせて、本当に嬉しそうに笑った。
「有難う、静司さん」