いろめきたつ。

呉羽が出雲へ行ってから一ヶ月が経過した今日、詩津の肩はまた呉羽の定位置に戻っていた。

「詩津、何だか今日は楽しそうねぇ」

今にも鼻歌を歌い出しそうな詩津に、呉羽は声を掛けた。

「今日は、静司さんと一緒に模擬店を回る約束してるのよ。
 今から楽しみで仕方がないの」

本当に嬉しそうに笑いながら準備する詩津に、呉羽も肩の上で足を揺らした。
今日は全校生徒が楽しみにしていた文化祭
一般公開日と言うだけあり、全員気合が入っている。
午前は、詩津、的場ともに店員として仕事をこなす。
当たり前だが、二人は教室内で一番和装が似合っているだろう。

「会長、的場君、お昼休憩行っていいよー」

「もう会長じゃないけどね」

クラスの者に笑いながら言葉を返し、的場とクラスを出ようとする。

「ちょっと待って」

「どうかした、むーさん?」

急に話し掛けて来た夢鴉に、詩津は振り返る。

「これ、ついでに持って校内回って。
 どうせ、そのままの格好で行くでしょ?」

渡されたのは、手に持てるサイズの看板
どうやら、売り上げを伸ばす為の作戦だろうか。

「はいはい」

苦笑しながらも看板を受け取る。
詩津が受け取った看板を当たり前の様に的場が持った。

「有難う」

「いえ、これ位普通です」

笑い合う二人を見て、笑顔で送り出す夢鴉

「…これはひょっとしたらひょっとするかも」

一人、教室の入り口で楽しげな笑みを浮かべた。

「模擬店ってどれも面白いのね」

戦利品であろうたこ焼きを持ってベンチに座る詩津と的場

「インパクトが強い方が客も引き寄せられますからね」

「匂いも良いけど、似たり寄ったりだとインパクトの方が最後の決め手になるね」

たこ焼きを食べつつ話すのは、模擬店の屋台の事
初めて文化祭の店をまじまじと見た詩津は、驚いてばかりだった。

「あのっ!!」

たこ焼きを食べ終え、のんびりとしていた二人に声が掛けられた。
中学生位の少女二人組は手にカメラを持ち、真っ赤な顔で二人を見る。

「写真、撮ってもいいですか?」

その言葉に詩津は微笑を携え聞く。

「静司さんの、かしら?」

「いえ、お二人の…」

詩津の言葉に少女二人は更に顔を赤く染めながら言う。

「ですって、静司さんはどうする?」

「詩津さんが良ければ、どちらでも構いませんよ」

「そう?
 なら、撮ってもらって良いですよ」

了承の言葉に少女二人の顔は途端、花が咲いた様に笑った。
詩津と的場の写真を撮り終えた二人は、何度も頭を下げて雑踏の中に消えた。

「可愛いね、彼女達
 最初、静司さんを撮りに来たんだと思っちゃった」

ふふ、笑う詩津はさらりと言葉を紡ぐ。

「静司さんは、格好良いものね」

その言葉に的場は目を見開いた後、笑う。
そのまま詩津の耳元に口を寄せ、紡いだ。

「詩津さんの方が、綺麗ですよ」

詩津は少しだけ赤い頬を隠す様に、笑った。


色めき立つ雑踏の中、
彼の言葉だけが私の頭の中を支配した。


まえ / つぎ
モドル?