つもる。

朝晩は氷点下まで温度が下がる冬がやって来た。
朝は暖かい布団から出たくないのは誰もが同じ。
気合を入れて布団から出て上着に手を通す。
布団を畳んで仕舞ってから窓の外を見る。
その光景に、思わず感嘆の声を上げてしまった。
一面、銀世界なのだから。
まだ降る雪に、つい笑みが零れてしまった。
朝ご飯をしっかり食べ、いつも愛用している番傘を開いて、慎重に道を歩く。
積もり始めだからか、足が雪に埋まる事もなく雪の感触を確かめる。
その感触に、また笑みが零れた。

「詩津さん、おはよう御座います」

安心するその音に、私は笑顔で振り返った。

「静司さん、おはよう」

同じ番傘を持っている静司さんに、私はまた嬉しくなる。

「静司さんと同じ傘」

色は違うけれど、全校生徒の中でこんな傘を持って来るのが私達だけだから、揃いの物を持っている事に年甲斐もなく嬉しくて笑う。

「同じ傘、ですね。
 詩津さん、雪が降って嬉しいんですか?」

静司さんの言葉に、私は首を傾げた。

「毎年雪が降るのが当たり前なんだけど…。
 雪が降ると、なんだか冬が来たみたいで嬉しいの。
 冬本番!、みたいな」

へへ、と笑う私に静司さんも笑い返してくれた。

〜 主視点 終了 〜


〜 的場視点 〜

いつもは大人引いた印象を見せている詩津さんは、雪が降っているこの瞬間(とき)だけ、子供の様に楽しそうに笑う。
こんな詩津さんは初めて見る。
同じ番傘を持っているのだけど、本当に嬉しそうに笑う。
本当に、愛らしい人だ。

〜 的場視点 終了 〜


〜 渡会視点 〜

今日は一段と冷える中、降り積もる雪の上を歩く。

「さむっ…」

思わず呟いた言葉の後、顔を上げれば遠くに見慣れた傘が二つ。
ん?
いくら雪が降り積もってはしゃいでるからって、詩津が傘を二つも差す訳が無い。
一応、元会長だしね。
と言う事は…、もしかするともしかして?
考えてみれば、四月辺りからたまに一緒にいるの良く見るし。
この前だって一緒に回ってたの見たし。
的場と詩津…、お似合いよね。
いい曲出来そう。

〜 渡会視点 終了 〜


〜 的場視点 〜

少し寒気がしたのは、きっと寒さのせいだろう。

「静司さん、元旦は暇?
 良ければでいいんだけど、一緒に初詣に行きましょう。
 朝にいつでもいいから家に寄って」

ふわり、いつもと同じ笑みに戻った詩津さんの言葉に頷く。

「ええ、私で良ければ」

「有難う」

本当に嬉しそうに笑うから、私も笑みが零れる。


雪降る道、
地面に残るは二人が歩いた軌跡だった。


まえ / つぎ
モドル?