詩津さんのお店に着けば、丁度詩津さんのお母さんがお店を開けていた。
「明けましておめでとう御座います」
「御丁寧に」
さらりとお辞儀を返すその仕種が、詩津さんと重なって見えた。
「詩津、もう少しで準備出来るから待っててね。
静司君、その着物とても似合ってるわよ」
ウインク付きで言われた言葉に一瞬驚いたがお礼を言う。
それから数分後、小さく鳴った連なる鈴の音に顔を上げれば、振袖を着た詩津さんがいた。
暗い赤地に紅白の梅が描かれており、帯は白地に金や様々な色の糸で刺繍が施されている。
帯紐などは黄緑色でシンプルに纏められている。
髪飾りは赤を基調とし、枝垂れたその先には小さな鈴が数個付いていた。
夏祭りの浴衣姿とは全く違うその姿に、見惚れた。
少しだけ伏せられた瞳に、いつもの少し大人引いた雰囲気はなりを潜め、もっと上、本当の大人の様な雰囲気に圧倒されそうになる。
「静司さん、待たせてごめんなさい」
ふわり、私の知っているいつも通りの詩津さんの笑顔に私も笑みが零れた。
「行きましょうか、詩津さん」
「はい」
雪が舞う中を、この前と同じ様に番傘を差して歩く。
早朝と言う事もあり、冷え込みは厳しい。
「寒くないですか?」
「大丈夫、結構寒さには強い方なんだよ」
傘を持たない方の手で握り拳を作る詩津さんに笑みが零れた。
〜 的場視点 終了 〜
〜 主視点 〜
くすくすと笑う静司さんに、私は一瞬状況が理解できなかった。
自分の傘を持たない方の手を見て理解
ついしてしまったガッツポーズの様なものに恥ずかしくなる。
「そんなに笑わなくても…」
少しだけ拗ねた私に、静司さんは笑うのをやめて頭に手を載せた。
「拗ねないで下さい」
少しだけ笑う静司さんの表情に、私の心が躍るのを感じた。
そして認識、私は静司さんの事が好きなのだと。
今日も着ている着物は落ち着いているもので静司さんに似合っている。
姿を見た瞬間、私が子供の様に思えてしまった。
それ位、お店で待っていた静司さんは素敵だったのだ。
「拗ねてないです」
こう言って顔を背ける私は可愛くないけれど、嘘は吐きたくないから。
自分の飾らない姿を見ていて欲しいなんて、我が儘だろうか?
そう言えば、まだ言っていなかった。
「明けましておめでとう御座います、静司さん」
私の言葉にきょとりとしたけれど、静司さんはふわりと笑ってくれた。
「おめでとう御座います、詩津さん」
その笑顔に、私も笑った。