もうすぐ。

「そんじゃ、卒業式まで問題起こすなよー」

担任の先生の気の抜けた言葉の後、私達は家庭学習期間に入った。
ちなみに、私の進路は家業を継ぐので、一応就職になる。

「詩津ー、一緒に帰ろ」

むーさんに呼ばれ。何も入っていない鞄を持って立ち上がる。

「うん、いいよ」

ちなみに、むーさんは音楽系の大学に推薦で決まっているらしい。
昇降口で靴を履き変えたところでむーさんが口を開いた。

「最後のコンサート、卒業式の日になったから」

その言葉に、一瞬フリーズ。

「えっと、会場は」

「講堂」

「観客は?」

「卒業式の後だから、学校関連と保護者がメインかな」

「そうですか…」

静司さん、誘えるかな?
なんて、私が計画を組み立てていればむーさんが紙切れを差し出して来た。

「詩津にこれあげる」

差し出されたのはチケットで、座席番号を見れば特等席だった。

「貰っていいの!?」

頷いたむーさんに、私は両手でチケットを受け取る。
思わず両手を差し出してしまった。
子供の様に喜んでいた私は、むーさんの意味有り気に笑った顔を見ていなかった。
お蔭で、その後すぐに爆弾を落とされた。

「それで、的場でも誘ったら?」

むーさんの言葉に、私は固まった。
私が静司さんを好きなのって結構わかり易かったのだろうか?
どうしよう、これで静司さんに迷惑が掛かってたら向ける顔が無い…。

「そんな百面相してどうしたのさ。
 あっ、多分、それわかってるの私位だと思うから」

叩かれた背中のお蔭で私は行動を再開した。

「良かった。
 それ聞いて安心したよ」

安堵の溜息を漏らして、私は晴天の空を見上げる。

「心配しなくても、詩津と的場はお似合いよ」

「有難う、むーさん!」

私は満面の笑みでお礼を言った。

「曲の方、練習頑張ってね」

爽やかな笑顔を残して去ったむーさんに、私は手を振った。
むーさんが言ってくれた一言で、私は少しだけ自信が持てた。


卒業式を控えたこの時期、
友人からの大切な一言が自信につながる。


まえ / つぎ
モドル?