三年間を振り返る時が今では無いのはよくわかっている。
呼ばれた生徒会室で手紙やら花束やら色々と貰う。
手短に別れを済ませるのは、この後の事を考えて。
生徒会室から教室まで帰る間も、後輩も同輩も関係なく色々貰う。
持ち切れなくなって困る私に袋を渡してくれたのはむーさんだった。
しかも、何だかにやついている。
「渡した?」
「一応…」
「抜ける?」
「全部終わってからちょっと。
向こうも話があるって言ってたから」
私の言葉に、むーさんのにやけ顔は一層酷くなった。
「気持ち悪い」
脇腹を突けば、その部分を押さえながらも歩く。
でも、その顔はふわりとした微笑に変わっていた。
教室に置いてある鞄と一緒に、机の上の物も回収する。
クラスメートに声を掛けられて、むーさんと一緒に教室から講堂に行く。
私とむーさんが来たので最後だったのか、自主練習から全体練習へ変わる。
はもりの確認などをして開場時間が迫る。
「詩津、行くよ」
「はーい」
むーさんに呼ばれ、受付へと進む。
パンフレットとチケットの半券を渡す。
開演10分前まで受付に立っていた合唱部員を中に戻して、後の受付は生徒会の面々に任せる。
言葉が無くてもわかるのは、長年培ってきたものか。
ふと零れた笑みに、むーさんは不思議そうにしていた。
開演の合図の後、緞帳の向こう側では校長とむーさんの挨拶の声
緞帳の内側にいる私達は、定位置に着いた。
上がる緞帳の向こう側、特等席である真ん中の中央
渡したチケット通りの席番号に彼、静司さんは座っていた。
来てくれた事に安堵した私に、ピアノの上で体を揺らす呉羽が笑っているのが見えた。
順調に進んで、私のソロ曲を歌う。
大切な人の為に唄う一人の女の子
この曲を作った二人が策士にしか見えない。
歌い終わってお辞儀をする。
最後に、私達合唱部が歌い続ける歌を終えて、私は外に出た。
まだ固く閉じた桜の蕾の下
静司さんのところに行けば、ふわりと微笑まれた。
つられて私も笑う。
「詩津さん」
「何でしょう、静司さん」
何を言われるのか全くわからない。
「良ければ、私の隣にこれからもずっと」
その言葉に、無意識に一筋だけ涙が私の頬を滑り落ちた。
「私で良ければ」
泣き笑いの笑みを浮かべれば、静司さんも笑ってくれた。
手を伸ばされ、滑り落ちた涙を拭ってくれる静司さんの優しさに、また涙が落ちた。