温い風が絡まるから

桜が少しずつ散り始める四月初旬
高校三年生となった私は、着慣れたセーラー服に身を包んでいた。
新学期が始まる今日、人ごみが苦手な私はいつも普通の人より早く家を出る。
そのお蔭で、ほんとんど人がいないといえるクラス発表の掲示板の前に立つ。
自分の名前が入ったクラスを見つけ、そのままクラスメイトを確認する。
ふと目に留まった名前、"的場 静司"

「匂うわねぇ」

私の左耳元で喋るのは、着物を着た本当に小さな人物
手のひらサイズの普通の人には見えない"妖"と呼ばれる存在
私の守り神みたいなもので、名前は呉羽
顔立ちは美人で所作も美しい。
着ている着物も時たま違うので何着か持っているようだ。
呉羽から学ぶ事が多い気がするのは気のせいではないだろう。
掲示板から離れ、新しいクラスへと足を向ける。

「的場家はよく家を御贔屓にして下さる家よ」

誰一人としていない廊下を歩きながら、私は呉羽と話す。
呉羽の名前の通り、家は代々続く呉服屋だったりする。
そのお客様の中に"的場"と言う名前があるので少し気になった。
三年目にして初めて一緒のクラスになるし、お客様の子息とどう付き合うべきなのだろうか。
私の中でぐるりと渦巻いた疑問に頭を悩ませつつ、教室の中へ入る。
黒板に磁石で止められた座席表を見れば、先生がランダムに決めたのか番号順と言うベタな座席ではなかった。
窓側の席から自分の名前を探して行く。
すぐに見つかった自分の名前は窓際の後ろから二番目の席
机に近付いて鞄を掛ける。
ふと、視線を窓の外に向ければ立派に咲く桜がすぐ横に見えた。
舞い散る花びらに、人知れず笑みがこぼれた。

〜 主視点 終了 〜


〜 的場視点 〜

生徒が登校し始めてこの掲示板が混雑するまで後数分
然程混雑はしていない掲示板でクラスを見てから歩き出す。
目の前をひらりと舞った桜に足を止め、傍でその存在を主張している桜の樹を見上げる。
桜の向こう、ふわりと微笑んでいるその人物に私は口元が上がるのがわかった。
一度だけ校外で見掛けたのは、父に連れられて行った呉服店で。
校内では行事の度に壇上で挨拶をする人物、篠崎 詩津
この学校の生徒会長だ。
二年前、一年生ながらにも生徒会長になった彼女に、私は少なからず興味を抱いた。
なぜなら、彼女の肩に座っている妖を見てしまったからだ。
果たして彼女はその存在を知っているのか。
私が興味だと思い込んでいるこの感情は恋心なのか、まだわからない。 

桜舞うその季節、確かに二人は知り合った。



まえ / つぎ
モドル?