追うメロディの儚さよ

秋のコンクールに向けて練習をしているのは、私が入部する合唱部
最近では新入生の体験入部も終わり、本格的に活動している。
何と、全国大会常連校のこの学校の合唱部は本当に凄いと思う。
そんな歴史ある部を束ねているのが、渡会 夢鴉(わたらい むあ)
通称、むーさん
実力のある彼女が部を纏めてくれているので、私は安心している。
いつも生徒会の仕事が終わって、部に行く時間が遅くなる私をむーさんは他の子と同じ様に扱ってくれる。
生徒会長だからと言って特別待遇など無い。
新入部員が入ったばかりなので、どの部も下校時刻が早い。
まだ夕陽が音楽室を照らす頃、私は一人練習をしていた。
色々なところでコンサートを開催する合唱部
次のコンサートで、私はソロを担当する事になった。
決めたのはむーさんだ。
この曲のイメージは私がぴったりなのだとか。
むーさんがソロを決める時は技量よりもインスピレーションを専行する。
イメージに合う人が歌うから、心に響いたり情景が思い浮かんだりするらしい。
むーさんの方針は、私達合唱部に等しくチャンスを与えていると思う。
部内で喧嘩がなければそれでいい。
で、明らかに練習の量も時間も足りない私は練習に励む。
紡ぎだす音が、聴いてくれている人の心に届く様に。

〜 主視点 終了 〜


〜 的場視点 〜

特に部活に入っていない私は、夕暮れ色に染まる校舎を歩いていた。
図書室で本を読んでいたところ、いつの間にかこんな時間になっていたのだ。
時を忘れて本を読み耽るなど、いつ振りだろうか。
どうでもいい事を考えながら廊下を進む。
階段を降りようと足を踏み出した時、微かに旋律が聴こえた。
部活の時間はもう終わった筈だ。
なぜ興味がわいたのか、そんな事はわからないが階段を上る。
行き着いた場所は音楽室
開け放たれた教室のドアから入れば、ピアノの上で体を揺らす妖がいた。
名は知らないが、彼女に憑いている妖で間違いない。
音楽室の壁に背を預け、篠崎さんの歌を聴く。
歌が終わったのを確認してから私は手を鳴らした。

〜 的場視点 終了 〜


〜 主視点 〜

誰もいない筈の音楽室で拍手の音がした。
視線を巡らせば、入り口に立つ生徒が一人

「的場君?」

意外過ぎる人物に、私は声を上げた。

「歌、お上手ですね」

「有難う。
 私よりも上手い人がいるけどね」

苦笑しながら言う。
本当、むーさんとか凄い上手い。
さて、今日はここまでにして帰ろう。
私が窓を閉め始めたのを見て的場君も閉めてくれる。

「窓、閉めるの手伝ってくれて有難う。
 私、鍵返しに行くからまた明日」

音楽室の鍵を掛けて的場君と別れる。

「ええ、また明日」

微笑みながら言ってくれた的場君に手を振った。

少し暖かい風が告げる初夏の始まり、
聴き惚れたのは綺麗な旋律だった。


まえ / つぎ
モドル?