「会いに来たよ、サトシ」
「………………へ??」
休日の昼下がり、本来なら友人であるカスミとショッピングに出掛ける予定だったが、カスミに急用が出来てキャンセルになったのはつい先程のことだった。
手持ちぶさたになったサトシの目に入ったのは掃除機で、天気もいいことだし午後は掃除に勤しむか、と掃除機をかけていた。
「久しぶりに掃除機かけたから結構埃たまってんな」
物を寄せながら寝室から居間へ、そして廊下へと移ろうとした時だ。
サトシの耳にインターホンの音が届いた。一瞬動きを止めたが、どうせ商品の売り込みか何かだろ、と掃除機の電源を切り、居留守を決め込んだ。
「………………………」
数分か経った後、様子を伺いながらゆっくりと手に持っていた掃除機を床に置く。
忍び足で足跡をたてないようにしてそっと扉の覗き穴を見ようとした。
ピンポーン
「…………………」
まだいたのかと眉を潜めながら覗き穴を見る。
もしくは宅配とかだったのだろうかと期待を込めて見てみたが、そこに立っているのは見知らぬ男だった。しかもとても顔が整っている。
「えっ……全く知らない」
ちなみに服も宅配業者のそれではない。
私服にしか見えない上に立ち去る気配もなかった。顔は穏やかである。
そして三度目のインターホンを鳴らした彼は再び扉が開くのを待った。
「……部屋間違ったのかな」
だとしたら教えてやるべきか………、ずっとここに居られても困るし。
念のためチェーンをかけて扉を開ける。少しの間から声をかけた。
「……………は、はい」
「ああ良かった。そろそろ流石にいないかと思い始めてたんだ」
「え、あ、…………はぁ」
自分の顔を見たら部屋を間違えたことに気付くだろうと踏んでいたサトシは、向こうのサトシの顔を見た上でのその反応に戸惑いを隠せなかった。
分かっててここに来た??
それに何故タメ口??
「えっと、人違いと言うか……、部屋、間違ってません??」
「え??君、サトシじゃないのかい??」
「……………」
ガッ!!!
「ちょ、せっかく開けてくれたのに急に閉めないでくれないかな!?」
「本当に誰だお前何で俺の名前知ってんの!?手を離せー!!」
「そうやってすぐ怒るとこは相変わらずなんだね……!!変わってなくて安心したよ!!」
「俺は今不安しかない!!て言うかお前のことなんか知らない!!」
「と、とりあえずそれを今から説明するから、家に上げてもらっていいかな」
「っ!!、む、無駄にイケメンオーラ放つなー!!」
ギリギリ、ミシミシと扉が悲鳴をあげる。
その攻防は1時間程続いた。
「本当に扉開けなきゃ良かった」