「…よし、準備出来た。」
明日、8月22日は私にとっては体育祭以上に気合の入る日だ。何故なら私が中学の時から片想いしている飯田天哉くんのお誕生日なのである。それも、ちゃんと祝うのはこれが初めてだ。
「うわあ明日のことなのにもう緊張してきた…っていつの間にこんな時間!?寝なきゃ!」
明日、緊張しないでちゃんとお祝い出来るといいなぁ。
ーなんて思っていたのがまさかフラグになるなんてこの時の私は当然思いもしていなかった。
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「なっんで今日に限って誰も起こしてくれないの〜!!寝坊だよ最悪だよもー!!!」
「なまえったらそんなに急いで。まだ全然遅刻の時間じゃないでしょ。」
「私にとってはもう遅刻なの!わああ急がなきゃ次のも乗り遅れちゃう!行ってきます!」
ああもうほんと最悪だ!普段だって早めの電車に乗って、朝誰よりも早くに来る飯田くんとお話をするのが日課だと言うのに、今日に限ってそれが叶わないなんて…。もうこの時間じゃ次に早い轟くんや八百万さん辺りは着く頃だろう。…学校で1番にお祝い、したかったのになぁ。
「…そんなこと言ってる場合じゃない!1番じゃなくても祝えたら十分だよ、なまえ!シャンとしなきゃ!」
怪しい女になっていると自覚はしつつも自分に気合をいれ、駅から学校までの道のりを再び走り出した。
駅から学校まではそんなに遠くはない上、走ってきたおかげか普段よりはだいぶ遅いものの、早めの時間には無事着くことが出来た。まあ、教室から緑谷くんやお茶子ちゃんたちの声までする辺り、確実に飯田くん1人ではないんだけど…。
そんなことを考えつつ、昨日の夜ぶりに訪れた緊張を抑えるため少し深呼吸をして、他の学校より大きめであろう教室の扉を開けた。
「お、おはよう!」
「わ、なまえちゃんおはよ〜!」
「おはようみょうじさん」
「おはようお茶子ちゃん、緑谷くん!」
「おはようみょうじくん!今日は珍しく遅かったみたいだな?今朝登校してきたら君がいなくて吃驚したよ。」
「う、お、おはよう飯田くん!えと、今日寝坊しちゃって…へへ」
「そうだったのか!通常なら寝坊は良くないが君はいつも早いからな。たまには今日みたいな日があっても良いのかもしれない。」
ああ、飯田くんは本当に優しいなあ。
いつもみたいにちょっと謎な動きをしながら話す飯田くんを見てると、胸がとても暖かい気持ちになれた。本当に、好き、だなあ。
でも、今日は寝坊しちゃダメな日だったんだよ。
そんな言葉は所詮自分の問題でしかないので喉の奥へと飲み込んで、1番大事で、言いたかった言葉を口にした。
「あの、その、飯田くん。あのね…
お、お誕生日!おめでとう!」
「………へ!?飯田くん今日誕生日だったん!?」
「…そうだったのか飯田。」
「あわわわわご、ごめん!僕何も知らなくて…!なんて言い訳にしかならないよね…。あ、そうだ今日のお昼僕が払うよ!って飯田くん?大丈夫?」
一瞬空気が静まり返ったと思ったら、みんなが一斉に話し出した。…って、え?みんな知らなかった…の…?
…ってことは、もしかして私、1番にお祝い、出来たのかな…
少し嬉しい気持ちになりながら、肝心の飯田くんを見ると、何故かぽかんとした顔で固まっていた。…え!?
「い、飯田くん?大丈夫…?も、もしかして誕生日間違えてた!?!?」
「…いや、今日であっている。すまない、ちょっと驚いてしまって…。ありがとう、みょうじくん、みんな。まさか祝ってもらえると思っていなくて…とても、嬉しく思うよ。」
そう言って本当に嬉しそうに笑う飯田くんを見て、また胸が暖かくなった。ちゃんと祝えて、良かったなあ…。
って違う!肝心のプレゼント渡せてない!
そう。しっかりお祝いがしたくてちゃんとプレゼントだって用意したのである。だが真面目な飯田くんのことだ、「気持ちは有難いが学校に不要な物は持って来てはいけないぞ!」なんて言いかねないので、不要な物と言われない上実用性もある文房具セットと眼鏡拭きにしたのだ。女子としてはもっとこう…女子力の高いものをプレゼントしたい気持ちもあったが、それはまたいつかの機会に。
「い、飯田くん!あのね、実は私プレゼントも…」
「む!みょうじくん、気持ちは有難いが学校に不要な物を持ち込むのは感心しないぞ!…みょうじくん?」
やばい。嘘だ嘘だ嘘だ…!もしかしなくてもプレゼントを忘れて来ている…?な、なんで!?昨日の夜ちゃんとチェックして鞄の横に用意してたのに…!
と、焦る脳内でそこまで考えてから思い出した。そうだ、私寝坊したばっかりに鞄だけ持って来ちゃったんだ…!
気付いた途端に体からサーッと血の気が引くのが分かって、目の前で不思議そうな顔をしている飯田くんに対しても何も言えなくなってしまっていた。
「みょうじくん…?ほ、本当に大丈夫か?どうかしたのかい?」
「…ごごご、ごめんなさ、あの、その…」
「なまえちゃん?大丈夫なん?」
「どうかした?」
「う、あの……飯田くんごめんなさい!プレゼント、お家に忘れちゃったみたいで…」
せっかくお祝い出来たと思ったらこれだ…。しかも先にプレゼントがあるなんて言ったばっかりに今更ありませんでしたなんて失礼でしかない。ああ本当に最悪だ…。もういっそ穴に埋まりたい…。
「…みょうじくん、気にしないでくれ。と言いたいところだが、せっかく用意してくれたのであれば気持ちを無下にする訳にもいかない。だが学校に不要な物を持ち込むのも勧めるのも委員長として出来かねる。…だから、もし良ければなんだが…」
今度の日曜、改めて直接貰っても良いだろうか?
それってもしかしなくても休日にわざわざ会ってくれるってことで、それは、世間一般的にはデートって言われるものじゃないのかな。私が自意識過剰なだけかな。
でも、真っ赤な顔をしてそう言った飯田くんを見ていたら、さっきまでの最悪だった気持ちも、ぐるぐる考え混んでた脳内も、周りで騒いでる声さえも全部何処かへ行っちゃって、今日は飯田くんの誕生日なのに私がこんなに幸せで良いのかなぁと、呑気にそう思えてしまった。
恋の訪れ
happy birthday!Tennya Iida
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