大好きな親友が、先生のことを想っていることは知っていた。
そして最近気付いてしまったのだ。先生も彼女を、一人の女として見ていることに。

「ごめんなさいなまえちゃん、ちょっと買い出し頼んでもいいかしら。」
「妙ちゃん。全然いいよ〜!買い出し担当だし。何買って来ればいいかな?」
文化祭を来週に控え、みんな浮き足立ってる中妙ちゃんがそう頼んできた。3Zでは簡易的なカフェを行うことになったのだが、料理も、当日着る衣装製作も出来ない私は買い出しや飾りつけといった裏方担当になったのだ。ちなみに妙ちゃんは衣装製作の担当。本人は料理をしたがってたんだけど、まあその、料理の腕前がアレだったので、みんなで止めた結果、渋々だが変更してくれたのだ。

「お〜みょうじ買い出し行くなら先生も着いてってやるよ。荷物持ち。」
「銀ちゃん」
「あらやだ先生、いたんですか?というか荷物持ちだ何だ言ってサボりたいだけでしょう貴方は」
「あまりにも罵りすぎじゃねえ?いや確かに準備も面倒だが俺はみょうじのためを思ってだなあ…」
いつも以上に気の抜けた声を出しつつ、背後から声をかけてきたのは担任である銀八先生だ。神楽ちゃんの銀ちゃん呼びが可愛くて真似をしていたら、いつの間にか周りにも定着してしまっていて、みんな結構銀ちゃんって呼んでいる。先生も優しいから「先生って呼べよ」なんて言いつつもなんだかんだ気にせず接してくれるのだ。

文化祭前は本来なら先生も率先して作業するはずなのに、さっきまで教室にいなかったことや寝癖のついた頭を見る限り、どっかで居眠りでもしてたんだろうな。教師のくせに。
でも先生が買い出し着いてきてくれるなら確かに楽だなあなんてぼんやり考えていたら、妙ちゃんとの言い争い(?)も終わったのか「行くぞ〜みょうじ」なんて言いながら先生が廊下を歩いていっていた。荷物が多くなるから、妙ちゃんも折れてくれたんだろうなあ。

先生と妙ちゃん。二人の関係は、まるで日常の一部のようだった。よくある少女マンガのような甘い雰囲気とか、思春期にありがちな気の迷いとか、大人の悪戯とかじゃなくて。二人で寄り添って、そばにいて、それが当たり前のような関係。あまりにも自然すぎて雰囲気も全く甘くないし、むしろ熟年夫婦のようで、言われたら「ああ確かに一緒にいるな」って分かるような。多分、先生の気持ちに気付かなかったら気にも留めなかっただろう。
私も、本当は先生が好きだ。だからこそ目で追う内に先生の気持ちにも気付いてしまったし、ちょっとだけ妙ちゃんが羨ましくなった。けど、私の感情はそれこそ思春期の気の迷いなのだ。卒業したらきっと、忘れてしまうような感情。



「ん〜アイス美味しい!ありがと銀ちゃん」
「銀八先生な。今回だけだぞ〜先生の財布もう空っぽなんだから」
「ふふ、はーい!」
買い出しを終えて、他のやつらには内緒な、なんて悪戯っこみたいな笑顔を携えながら先生がアイスを奢ってくれた。まだ外は暑くて、少し歩いただけでじんわり汗をかいてしまっていたから冷たいアイスがとても美味しく感じる。
シャクシャク、なんて咀嚼音と足音だけの静かな空間が心地良い反面気まずくて、なんとなくちらりと先生を覗き見た。暑さでぼんやりしながらアイスを食べる先生の横顔が、なんだか知らない男の人みたいで。妙ちゃんとの距離よりちょっと広い距離と、こっちを見ない瞳が、胸にチクリと刺さった。これも、いつかは忘れる感情なのかな。
ねぇ先生、本当は、このアイスもただの買出しのご褒美じゃないんでしょ?妙ちゃんも先生も、誰よりも大事だから、誰にも言うことはないのに。

「…せんせ、こんなことしなくていいよ」
「……あ?何のことだ?先生ちっとも分かんねぇんだけど」
「…ごめん、なんでもない」

ぼそっと呟いた嫌味混じりの一言に先生がちらりと目線だけをこちらに向けた。その一瞬だけでも嬉しく感じてしまって、そんな自分に嫌気がさした。本当は自分でも分かっているのだ、忘れられない感情なのを。

「……ありがとな。みょうじ」

ねぇせんせ、私も名前で呼んでよ、思わず出そうになった言葉を、のどの奥に飲み込んだ。

おもいあい

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