願えば願うほど
高校3年生の夏、私達は人生の岐路にいた。
大げさだと思う?でも、でもね、私達にとってはそれくらい大事なもので、そう簡単に決められないものだったんだよ。一生懸命に悩んで、悩んで、悩んで、ようやく決めた進路。
ずぅっと真っ白だった進路希望調査票の第一希望を埋めて、担任に提出したあの日。これから頑張らなきゃ、と意気込んでいたあの日。私は貴方の言葉を聞いて絶望の底に落とされたような、そんな気がしたんだ。
『―――俺、卒業したらアメリカに行く』
ずっと一緒にいられると思っていたのに、そんな淡い思いは愛しい人の言葉によって砕け散ったのです。
「北川さん」
「あ、黒子くん。おはよう」
「おはようございます」
高校を卒業して、もう2年が経つ。私は教師になる夢を叶える為に必死で勉強して、何とか大学に進学することが出来ました。
通い始めてからしばらくして気が付いたんだけど、高校で同じクラスだった黒子くんも同じ学部に進学していてちょっとびっくりしちゃった。しかも同じ夢を持ってる、ってことで今も仲良くさせてもらってるの。
…でもね、時々。本当に時々だけど、黒子くんの姿を見つけるといつもその隣にいた彼の背中を捜しちゃうんだ。いないって頭ではわかってるのに、もう半分クセみたいなものなのかな?我ながら苦笑しちゃうほどバカだなぁっていつも思ってる。
火神大我くん。私の、大切な、大切な人。
高校で初めて出会って、3年間同じクラスで、…私の恋人だった人だ。いや、まだ別れてないから現在進行形なんだけど。でも遠距離だし、連絡も極々たまーに取ってるくらいだから付き合ってるって言っていいのか正直微妙な所なんだよね。好き、とか、そういうのあまり言ってくれない人だから余計不安になっちゃうんだよ。
無意識に溜息をついていたみたいで、隣を歩いていた黒子くんに大丈夫ですか?と聞かれてしまいました。無理矢理笑顔を作って大丈夫、と返せば、怪訝そうな顔をしたけどあまり深くは聞かないでいてくれる。黒子くんは高校時代の私達を知ってるから、きっとわかってるんだと思う。私が今、考えていたことも全部。
でもいつだって彼は深く入り込んでくることはせず、でも大丈夫ですよ、と元気づけてくれるんだ。そんな優しい黒子くんにはずっと甘えっぱなしだ。
「そろそろ講義始まっちゃうね、行かなくちゃ」
「そうですね、確か今日は1限、同じ講義取ってましたよね?」
「うん、行こう黒子くん」
「はい」
好きなのに。こんなにも好きなのに、どうして傍にいないの?どうして傍にいてくれないの?どうして―――…何の相談もせずにアメリカに行く、って決めちゃったのよ。
…わかってる。大我くんの人生で、将来だ。それを決める権利はいつだって彼にあって、彼にしか、ないものだ。私なんかが口を挟んでいいことじゃない。奥さんならともかく、私はただの彼女…別に将来を誓い合った深い仲でもないしね。
それにきっと、大我くんはわかってたの…決める前に私に言ったら泣いて引き留めてしまうってこと。行かないで、と縋ってしまうこと。わかってたから、余計に何も言わなかったんだろうね。
「…だって、一緒にいたかったんだもん」
予想していなかったわけじゃない。彼はいつかアメリカでプロの選手になるだろう、と思っていた。大我くんのパワーはきっとアメリカでなら尚、光るものだといつでも思ってたから。…だけど、もしかしたら私の為に日本に残ってるかもしれないって心のどこかで思ってた。望んでた。自惚れて、たんだ、彼は何処にも行かないって。バカがつくくらいバスケが大好きな彼が、世界を望まないはずがないのにね。
教授の言葉を右から左へ受け流しながら見上げた空は、憎らしいくらいに青くて涙が出そうになった。私の気持ちも知らないで、…なーんて。自然のモノに八つ当たりしたってどうにもならないのにね。
『鈴!』
ふと、愛しい彼の声が聞こえたような気がした。もちろんそれは空耳で、聞こえたとしても発信源は私の脳内…つまりは妄想で、思い出の中の彼ということでしかない。
あーあ、ここまでくるとさすがに重症だよねぇ。
「(…会いたいなぁ)」
もし私が学生じゃなかったら。すぐにでも会いに行けるほどのお金を持っていたら。そしたら私はきっと、何もかもを投げ捨てでも貴方の元へ行くだろう。
でもきっと、夢を諦めてアメリカへ旅立ったら貴方はきっと怒るのだろう。バカじゃないのか、ってまるで自分のことのように怒るに決まってる。自分の為に諦めるなんて、って思うんだろうなぁ…会いたい気持ちは本物で、寂しい気持ちだって本物だけど、大我くんを怒らせたり、悲しませたりするのは嫌だ。だから私は全てを捨てて貴方の元へ、だなんてマンガのヒロインみたいなことは一生出来やしないと思うんだ。
けど、本当に怖いのは…貴方の中で、私とのことがなかったことにされてることだ。連絡をくれるからそんなことないとは思ってるけど、もし大我くんにとって日本にいる私のことが重荷になっていたら―――そんな風に思うと、怖くて堪らない。
寂しい、会いたいと言っている割に自分から連絡をしようとしないのは、「何で連絡してきたんだよ」っていう貴方の冷たい言葉を聞きたくないから。
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