噛み合わない想い


寂しいとか、会いたいとか、そういう不満…って言えばいいのか?そういうの、遠慮なくぶつけてくれりゃあいいのにって…アメリカに来てからずっと思ってる。そりゃあすぐに飛んでいくことは出来ねぇけど、アイツの為なら話を聞く時間だっていくらでも作るし、それで不安を解消してやれんなら何でもしてやりたいって思ってんのに。…まぁ、俺が出来る範囲内で、って条件付きにはなっちまうけど。





終了のチャイムが鳴り、教授や講義を受けていた生徒達がパタパタと講義室から出て行くのをぼんやりと眺めていた。時計を見てみればちょうどお昼の時間。早く食堂に行かないと座る場所がなくなってしまうのはわかってるし、パンも売り切れちゃうんだろうなぁ…とは思ってるんだけど、何だか動く気になれなくて座ったままだ。
でもいいかなぁ、今日くらい。お腹空いてないし、食欲もわいてこない。今日はさっきの講義で終わりだし…お腹空いたらコンビニに買いに行くことにしよう。

うーん、と伸びをして何となしに携帯に目をやる。待ち受け画面は1時間半前と何ら変わりなく、私と大好きなあの人が笑ってる写真だけを映し出している。
…この写真、いつぞやの試合の後に撮った写真で私の大のお気に入りなんだ。携帯の待ち受けにされるのは恥ずかしい!と言われてしまったけど、こっそり設定していまだに変えられずにいる。
別れたわけじゃないんだし、無理に変える必要もないと無理矢理自分を納得させようとしてるけど…でも心のどこかで変えた方がいいんじゃないか、って思ってる私がいるのも本当で。ああ、こんなにもぐだぐだ悩んでしまうのは私らしくないのに情けないなぁ。


「あら、北川ちゃん?」
「え?あ…リコ先輩、それに日向先輩も。こんにちは」
「おう。会うの久しぶりだな」
「学部が違いますからね、黒子くんとはよく会いますけど」
「そういや、黒子もお前と同じ学部だったか」


日向先輩と取り留めのない話をしていると、リコ先輩が何も発してないことに気が付いた。具合でも悪いのだろうか、と先輩に目を向けてみると鋭い視線でこっちを見ていました
。あ…あれ?どうしてリコ先輩ってば私のこと、そんなにも鋭い視線で見ていらっしゃるのでしょうか…!な、なにもしていないと思うんだけど、この人の綺麗な目で睨まれてしまうと、どうにも萎縮してしまう。高校の時もそうだったなぁ、と頭の片隅で考えていた。
お互い何も言わずに見つめ合うこと数分。いい加減どうにかしないといけない、と思ったらしい日向先輩が「北川が怯えてんぞ、カントク」と呆れたように息を吐いた。その言葉と溜息に我に返ったらしいリコ先輩は、苦笑を浮かべてごめんねと言ってくれたけれど。
でもすぐにさっきのような鋭い視線に変わって、元気ないわねと一言。


「へ…?」
「何か悩み事?表情も暗いし、顔色もあんまり良くないけど」
「…カントク、俺先に行ってる。北川の話、聞いてやれよ」
「そうする。また後でね、日向くん」
「ん。じゃあな、北川」


私の頭を軽く撫でてそのまま日向先輩は何処かへ行ってしまった。その場に残された私とリコ先輩は、食堂はきっと人がいっぱいだろうから近くの喫茶店に行くことに。
案内されたお店はレトロ、というか…所謂、純喫茶と呼ばれる内装ですごく落ち着く雰囲気。大学の近くにこんなお店があったなんて知らなかった、と漏らせば、どうやら此処はリコ先輩の行きつけのお店なんだそうだ。落ち込んだ時とか、リフレッシュしたい時なんかによく来るんだって笑顔で教えてくれた。


「それでどうしたの?…と言っても、何となく予想はついてるけど」
「あはは…さすがリコ先輩。鋭いですね」
「黒子くんにも相談受けてるのもあるけどね。今度、貴方の話を聞いてあげてほしいって」
「え、黒子くんが?」
「火神くんと貴方の一番近くにいたのは彼だからねぇ…いまだに気になって仕方ないみたい」


知らなかった…心配かけちゃってるんだろうなぁ、というのは何となく思ってたけど、そこまでだったとは。本当に優しいんだなぁ黒子くんって。
もし彼を好きになっていたとしたら、…私は今頃、幸せだと笑っていたのだろうか?
とても下らないもしも、の話。黒子くんを好きになる自分、黒子くんと付き合う自分を想像してみたけど、どうにも上手くいかない。
…というか、想像がつかないんだ。私の隣にいるのが大我くん以外の人、ということに。それくらい私は彼が好きで、彼以上に好きになれる人はいないって自覚してる。つまり、これは考えるだけ無駄だということなわけで。


「大我くん、が…アメリカに行ってからほとんど連絡取ってないんです。練習とか、色々忙しいのはわかってるから仕方ないって頭ではわかってるんですけど…」
「心がついていってないのね?」


リコ先輩の言葉に素直に頷く。
理解ある彼女でいたい、彼の夢の邪魔をする彼女ではいたくない…でもやっぱり、傍にいてくれないことがこんなにも寂しくて苦しくて悲しい。


「北川ちゃんから連絡はしないの?」
「…してない、です。何か怖くて」
「どうして?」
「―――…何で連絡してくんだよ、って言われるのが、怖いんです」


元々アメリカで生活していた彼はきっと、すぐに向こうの生活にも慣れてしまうだろう。友達だってたくさん出来るだろうし、たくさんの仲間に囲まれて大好きなバスケに打ち込んでると思う。そんな彼の心に私が入り込める隙間は残ってるのだろうか、と思うと…怖くて仕方ないの。
リコ先輩はそんなことないって言ってくれた。黒子くんも同じ言葉を返してくれて、大丈夫ですよって微笑んでくれた。でもそれでも私は、信じ切ることが出来ないでいる。自分の彼氏の気持ちくらい、って言われちゃうかもしれないけど、私自身が一番こんな気持ちでいるのが辛いしびっくりしてる。
離れてしまった2年でこんなにも弱くなってしまった心に、いい加減嫌気がさしてしまった。
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