恋愛にはサプライズを!
リコ先輩と話をして少しだけ心が軽くなったような気もするけど、でもそれでも自分から彼に連絡をする勇気だけは出なくて。相も変わらず携帯は彼からの連絡を受信してくれない日々が続いている。
寂しいとか、会いたいとか、…そんな不安を口にしたら大我くんは―――私の元へ飛んできてくれたりするのだろうか。
side:火神
2年半ぶりに日本に帰ってきた。黒子とかフリ達にはあらかじめ帰ることを連絡してたけど、彼女である鈴には連絡してねぇ。何つーか、…驚かせたい気持ちのが大きくてよ。大学の場所は知ってるし、黒子にアイツの講義の日程も聞いたから何も言わずに会いに行こうと思ってる。
『あのねぇ、火神くん…サプライズしたい気持ちはわかりますけど、彼女に予定があったらどうするつもりなんですか?』
俺の計画を話した時に言われたアイツからの言葉が脳裏を過る。そうなんだよなぁ…本人に連絡してねぇし、了承もとってねぇから鈴自身の予定がわかんねぇんだ。黒子から聞いた講義の予定では、そろそろ今日ラストの講義が終わるはずなんだけどな。
…ここまできて緊張、っつーか…怖くなってきた。本当に此処にいて会えるのかどうか、ってことに。
結局、開き直ることも出来ずに「正門で待ってる。」ってだけメールして携帯をジーンズのポケットに押し込んだ。あとは…彼女が来てくれることを祈るのみ、だ。メールに気が付かないってことはないだろうけど、でももし見てなかったとしても此処にいればきっと見つけられるはず。俺は絶対にアイツの、鈴の姿を見失うことはしねぇから。
メールを送って10分足らず。さっきまでまばらだった人の数が増えてきた。時間的にも講義が終わって帰る奴らが多いんだろうな。ってことは、そろそろ鈴の奴も…
「っ大我くん!」
人混みをかき分けるようにして、驚いた顔をした鈴が走ってきた。
久しぶりに見る彼女の顔にホッとして、そんですげー嬉しくなった。ああ帰ってきたんだな、って思える。
「よ。久しぶりだな」
「ひ、久しぶり…!何でこっちにいるの?!」
「んー?ちょっと長い休みもらえたからさ、帰ってきたんだ。今日」
「今日?!」
さっきから驚いた表情のまま会話をしてるもんだから、いまだにコイツは笑った顔を見せてくれねぇ。少しは喜んでくれっかなーと思ってたんだけど、んー、思っていた以上に驚かせすぎたか?でもまぁ、それもそっか…何の連絡もなしに急に遠恋してた奴が帰ってきたらこうなるよなぁ。
笑ってくれなかったのはちょっと残念だけど、少しの間、日本にいれんだし…すぐに笑顔、見せてくれんだろ。
「びっくりした…何の連絡もなかったのに、急に正門で待ってるなんてメールがきたから」
「驚かせたくてさ、内緒にしてた。黒子達には知らせてあったけど」
「そうなの?黒子くん、何も言ってなかったよ…」
「教えんな、って念押してあったからな」
っと、…正門で立ったまま話してたら邪魔になっちまうか。夕方だから冷えてきたし、どっか店にでも入るとするか。
「どっか店入ってゆっくり話そうぜ」
「あ、じゃあ近くに喫茶店あるからそこ行こ。リコ先輩オススメのお店なんだよ」
「カントクの?」
自然と繋がった手。ただそれだけなのに舞い上がりそうになるほど嬉しくなっちまうのは、久しぶりに会ったからなんだろうな。2年半前に離してしまった小さな彼女の手は、あの頃と変わらずに暖かいままだ。
鈴に連れられてきたのは古風?な喫茶店。鈴曰く、純喫茶と呼ばれる所らしい。カントクと来たのが最初だけど、えらく気に入ってしまったらしく最近はよく此処で本を読んだりしてるって教えてくれた。
会った時より笑ってくれるようになったけど、でもどこか無理して笑ってる気がするっつーか…上手く言えねーけど違和感が残るんだよな。俺が覚えてるコイツの笑顔は太陽みてぇに眩しくって、こんな笑い方をしてんのは見たことがねーんだもん。何か、…あったのか?
「私、ココアにしようかな。大我くんはどうする?」
「んー…コーヒーと、これ。サンドイッチ」
「お腹空いてるの?」
「機内食食ったっきりだかんな。お前は飲み物だけでいいのか?」
「うん、平気」
「じゃあサンドイッチ半分こしようぜ」
店員に注文を済ませて店内を見回してみれば、鈴が気に入ったのもわかるような気がする。客はそこそこいるけど、でも静かでクラシック?が流れてて落ち着いた雰囲気だ。鈴は元気で明るい奴だけど、こういう落ち着いたっつーか静かな空間も好きな奴だったしな。図書館とか。俺は苦手でほとんど近寄らなかったけど。
「…なぁ、鈴」
「んー?」
「お前さ、何かあったろ」
「え?」
「会った時は驚いてたからだろうと思ってたけど、笑顔がぎこちない」
そう言えば鈴はピタリ、と動きを止めてしまった。相変わらず顔にはぎこちない笑みが浮かべられていて、頑張って笑おうとしてくれてんのはわかるけどそんな風に笑うくらいなら…真顔の方がずっといい。
笑顔がぎこちない、と言ってから一向に口を開こうとしない。無理矢理に聞く方法もあるし、昔の俺ならそうしてたかもしんねーけど今は待つってことも覚えた。聞いてほしくなったら鈴から話してくれんだろうし、それを待つのが一番いい。こういう時は尚更。
ひたすら待って話してもらえなかったらさすがに傷つくけどな。悩んでる時はやっぱり、…頼ってほしいし。
「ずっとね、…怖かったの。大我くんにいらないって言われることが」
「…は?」
「アメリカに行っちゃうって聞いた時も寂しくて、悲しくて…応援したいのに自分の寂しい気持ちの方が勝っちゃって。いまだに何で行っちゃったんだろう、って思うこともあるんだ」
静かに話してくれる鈴の顔には、寂しげな笑顔が浮かんでいた。
「こんな苦しい気持ちをずーっと持ってるくらいなら、…別れちゃえば良かったのかもね」
弱くてごめんね。
そう言って鈴は、パタパタと店を出て行った。
-3-
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