はじめまして、こんにちは
物心ついた頃から、他人には見えるはずのないものが見えていた。けれど、それが生きていないモノ・良くないモノと認識できるようになったのは…大分大きくなってからだったと思う。
どうやら私はそういうモノを惹きつけるらしく、何をしなくても、ただそこにボーッと突っ立っているだけで何かしら寄ってくるという。…私からしてみれば、迷惑極まりないのだけれど、それでも実害がなかったからこうして今も笑って生きていられるんだけどね。
だけど、それが高校に入ってから一変した。今まで襲ってくる気配すらなかったモノ達が、すぐ近くまで寄ってくるようになった。声をかけてくるようになった。じーっと見つめて、ニヤリと不気味な笑みを向けられるようになった。
どれもこれも今まではなかったことなのに、急にどうしたんだろう?誰かに相談したいけど、こんなこと相談できる人なんてもうどこにもいないし…困ったな、と溜息を1つ。
「碧衣、溜息なんてついてどうした」
「あ、静…」
静が目の前に現れた瞬間、空気が晴れた。さっきまであんなにどんよりしていたのに、一気に変わって…それにあんなにいたはずの姿が、ひとつ残らず消えている。心なしか体も軽くなったような気さえするね。
「…ごめん、何でもないの」
「―――お前。またナニか見えてたのか?」
ドキリ、と心臓が跳ねた。静は私の幼なじみで、お寺の息子。彼のおじいさんである遥さん(もう亡くなってしまったけど)は、御払いもできるすごい人でよく相談にのってもらっていたり助けてもらってたの。
だから、静も私が得体の知れないモノが見えるということは、ずっと昔から知っている。知っているから気味悪がったり、引いたりしないでいてくれているんだけど…その分、心配もさせてしまっているらしい。
「わっ…し、静?!」
「来い。昼飯、食うぞ」
確かに今は昼休みの時間だけどっ…な、何で私はそのまま引きずられてるの!というか、いつも購買で買ってるから買いに行かないと食べるものも飲み物も、一切ない状態なんだけど!
引っ張られながらも必死に訴えているのに、静は聞こえないフリ。そのままずんずん歩みを進め、辿り着いたのは中庭。彼の歩幅に合わせるようにしていたから、私はもう息切れしちゃってて…だって教室から此処まで、ずっと早歩きっていうか小走りだったからね。疲れるに決まってるじゃないか。足の長さが全く違うんだから。
ぜえぜえ言いながら踏み入れた中庭には、2人の男女がシートを敷いて仲良く座っている。あの子達、…よく静と一緒にいる所を見るかも。さすがに違うクラスだから名前はわからないけど。
高校に入学してからはあまり一緒にいなくなっちゃったから、静の交友関係を知るのは初めてかもしれない。
「おっせーよ、百目鬼……って、その子は?」
「碧衣。俺の幼なじみだ」
「あ…初めまして、古橋碧衣です」
「俺は四月一日君尋。よろしくね、古橋さん」
「私は九軒ひまわり」
「よ、よろしくです。四月一日くん、九軒さん」
私達が自己紹介をしている間に、静はシートの上に広げられていたお弁当に手を付けていた。これ、すっごいなぁ…九軒さんが作ったのかな?お重に入っているお弁当なんて、滅多に見ないよ。上がっていいのかもわからず、突っ立ったまま豪華なお弁当を眺めていると、静にグイッと引っ張られて座れ、と言われちゃった。
いや、座れって言われても…だから私はお昼ご飯を買いに行かないと食べるものがないんだって、さっきから何度も言っているじゃないか。聞けよ、この野郎。無理矢理に座らせた張本人をジト目で見るけれど、当人はどこ吹く風。美味しそうなお弁当をもっきゅもっきゅと頬張っていらっしゃる。
はあ…こういう奴だっていうのは昔からわかってはいるけど、最近、一緒にいる時間が減っていたからどっと疲れたような気がする。それにしても静がこんなにも無言で食べ続けてるってことは、このお弁当ってすごく美味しいんだね。
「碧衣さん、どうぞ」
「あ、ありがと…」
「早く食べないと百目鬼に全部食べられちゃうからね、ひまわりちゃんも」
「うん、いただきます」
……うん?四月一日くんがお弁当を勧めてくれたってことは…このお弁当を作ったの、九軒さんではなく四月一日くんってこと?!
す、すごい…女子顔負け、というか、プロ顔負け…彩りも綺麗だし、どれもこれも美味しそうだし。私もお菓子作りするし、料理もちょっとだけ齧ってるけど、こんなに目でも楽しめるような盛り付けなんかできないよ!
「美味しい…!」
「口に合ったなら良かったよ。たくさん食べて」
「でも良かったの?3人のお昼でしょ…?」
「いいの、いいの!その分、百目鬼が我慢すりゃいいんだから」
そ、それでいいのか…でもきっと、言っても静は食べ続けると思うんですけどね。四月一日くんがそう言っている間も、我関せず状態で食べ続けてますし。そしてそれを見た四月一日くんが「てめぇはもうちょっと遠慮しろー!!」って怒ってる。
ああ、校内でよく見る光景だ…これ。
「ねぇ、碧衣ちゃんって呼んでもいいかな?」
「う、うん、大丈夫」
「嬉しい!私のこともひまわりって呼んでね」
にっこり笑った九軒さん―――じゃなくて、ひまわりちゃんはとっても可愛い。人気があるのも、よくわかるかもしれない。同じ女の私でも彼女の笑顔にはキュンってするもんね。
「碧衣、明日からもここで食え」
「え?一緒に?」
「一緒に」
「私はいいけど、」
「おれ達のこと気にしてる?」
「あ、えっと…!」
「一緒に食べようよ。人数が多い方が楽しいから」
四月一日くんの言葉に甘えることにして、明日からは私もこの3人の輪に入ることになった。初めてできた友達というわけではないし、クラスにも友達はいるけど…何故かこの時の私は、初めて友達ができた時のように心が踊っていたのだ。
その理由は、いまだにわからないけれど。
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