付喪神のいるところ


ひょんなことから出会った壱原侑子さん。願いを叶えるミセの女主人。対価と引き換えに、彼女ができると言ったことは叶えてくれるという。
四月一日くんも願いを叶える為にあそこにいたのだ、と話してくれました。対価は渡したけれど、足りない分を体で払っているんだって。最初はまさか…?!と青褪めたけど、それに気がついた四月一日くんが家事とか力仕事をしてるんだよ!と慌てて説明してくれたのは記憶に新しい。

(所謂、アルバイトだって言ってったっけ…)

独り暮らしをしているらしい彼は、学校が終わった後、そのまま侑子さんの家に行って夕ご飯を作り、朝ご飯の準備をして帰っているそうな。あとおやつも。確かに彼の作るお弁当やお菓子は天下一品だと思う、何度食べても感動してしまうくらいに美味しいもんね。
まぁそれはさておき。願いを叶えて、と侑子さんにお願いをしたものの、私の日常は然程変わりないと思う。今まで通り静の家でお世話になっているし、学校にも通っているし、友達となった四月一日くんとひまわりちゃんとの中も相変わらず良好。
何も変わっていないように見えるけれど、…1つだけ、変わったことがある。それは私も侑子さんの所でアルバイトをし始めたこと、だろう。やることも彼と変わりなく、家事全般で。とは言っても、料理は四月一日くんに完全お任せをしてしまっているのだけれど。


「碧衣、部活が終わったら迎えに行く。待ってろ」
「あ、うん。わかった」


私が侑子さんの所でアルバイトをすることになったこと、彼女に願ったことは、ちゃんと静には説明済みだ。そうしたら心配だからなのか、迎えに行くから絶対に1人では帰るなって言われちゃったんだよね。
静が迎えに来るまで侑子さんの所で待っていること、それがアルバイトを許可する条件だって。静のご家族も一緒に帰ってくるなら、と許可してくれたのだけれど。

―――静は、前は侑子さんのお店には入れなかったらしい。

きっと彼には願うことがなかったんだと思う、だからお店なんて見えなかったし、入ることもできなかった。だけど、とある事故をきっかけにあのお店の客になったんだと教えてくれた。
私はその頃、まだ四月一日くんとひまわりちゃんと知り合ってなかった時だから噂で聞いただけだけど、四月一日くんが外れた窓と一緒に落下したらしくて、それを助ける為に…って。ひまわりちゃんもその1人だから、彼女も今ではあのお店のお客。
不思議な縁の下に私達は集まったようにしか、思えないんだよね。これも侑子さんの言葉を借りるならば、必然ってことになるのだろうか。


「こんにちはー」
「あっ碧衣、来た!」
「碧衣だ!主様と四月一日はお庭だよ」
「え、庭?」


マルちゃんとモロちゃんに引っ張られるようにして向かったのは、確かに庭だった。おお、すっごい広い…!
そこにはたくさんの……瀬戸物とか、見たことのないようなものがたくさん所狭しと並べられていた。これは一体どんな代物で、四月一日くんは何をしているんだろう?


「あ、古橋さん」
「いらっしゃい、碧衣ちゃん」
「こんにちは。四月一日くん、侑子さん」


って言っても、四月一日くんには学校で会っているのだけれど。何となくクセというか、何というか。
背負ったままだったカバンを下ろして何をしているの?と問いかけると、宝物庫にしまわれている物を全部出して陰干しと掃除をしてるんだよ、と教えてくれた。へぇ…侑子さんのお家というかお店ってすっごく不思議だなぁ。つまり、このたくさんの物達は何かしら曰くとかあるものなのかしら。


「これは願いの対価にもらった物達なの。曰くがあるものも、中にはあるけれどね」
「そうなんですか?」
「前に猿の手、だったかな…そういうものもあったよ」
「猿の手って3つの願いを叶えてくれるとかいうやつだよね?でもあれって小説の中でのことでしょう?」
「いいえ、本物よ。代償ももちろんあるのだけれど」


代償?首を傾げると、願いを叶える為には何かを差し出さなければならないから、と侑子さんは微笑んだ。無からは何も生まれない、と。
雨雲がひとつもない時に雨が降らないかな、と願えば、どこかの水がなくなるし、あれが欲しいな、と願えば、そのお店から忽然と姿を消す―――そういったように、1つの願いを叶える為には何かがなくなるということ…らしいです。四月一日くんが言った『猿の手』はそういう代物なんだって。


「…何だか夢を見ているみたい」


庭に並べられている全てがそういうものではない、と侑子さんは言うけれど、私からしてみれば、どれがそうで、どれがそうでないのかがわからない。どれもこれも普通の物にしか見えない。
だから、何だか夢を見ているみたいだと思う。…けれど、アヤカシが視えるのも似たようなものなのかな。視えない人からすれば。


「さて、これで手入れは終わりかな…古橋さん、しまうの手伝ってもらってもいい?」
「あっうん!もちろん!」


ボソリ、と呟いた言葉は誰にも届くことはなく、ふわりと消えた。


「ねぇ、四月一日〜おやつは?」
「用意してありますけど、しまい終わるまではお預けです!」
「え〜!」
「モコナもか?!」
「お前は特に、だ!少しは手伝えよ!」


四月一日くんと侑子さんとモコナくんの会話は、いつ聞いても漫才のようだ。静との会話を聞いている時も、漫才だなぁって思うけれど。でも言ったら悪いけど、ツッコミをいれている四月一日くんは何だかイキイキしているような気がする。こっちが素…なのかな?ひまわりちゃんや静がいない時の四月一日くんって、何だか物静かな少年って感じがとても強いから。

(まだ知り合って間もないけど、ツッコミをいれたりしている彼の方が…やっぱりらしい、と思う)

モコナくんや侑子さんと漫才のような言い争いをしながらも、手と足はテキパキと動いている。私は口を開いたら手が止まっちゃうし、手を動かすと口を閉じちゃうし…両方を一辺に、というのは難しくてなかなかできないの。四月一日くんって器用なんだなぁ。こういうのを器用だと言っていいのかはわからないけれど。
ギャンギャンと響く声をBGMに私は黙々と広げられていた物達を宝物庫の中に運び入れる。あ、しまった、四月一日くんか侑子さんの助言がないと、何処に何が置いてあったのかわからないや。適当に置いても問題はないだろうか、でも四月一日くんって意外と几帳面っぽいから怒られるような気がする。
宝物庫の真ん中で立ち尽くし、しばらく考え込んだ後に2人を呼びに行こうと踵を返した。


「わた、」

―――こっちだよ

「…え?」


クスクスと笑い声が響き渡って、またこっちだよ―――と幼い声が聞こえた。普通なら怖い、と思うのかもしれないけれど、小さい頃から培われてきた勘というものが冴えに冴えているらしい私は、この声が良くないモノではないと判断できる。何の声かまでは判断できないけど、私に危害を加えようとしているモノじゃないのは確かだよね。
でも宝物庫の中には誰もいない…一体、どこから聞こえてきたんだろう?恐る恐る一歩踏み出してみたら、今度は左側から声が聞こえてきたから、そっちに足を向けてみた。ゆっくり歩みを進めていくと、リーンと鈴のような音が持っている物の中から聞こえて足を止める。もしかして、ここに置いてってことなのかな…?


「鈴の音だから、…あ、これかな」


まるで小学校で使った楽器のようなフォルム…でもこれも侑子さんのお宝、なんだよね。きっと。やっぱり私には価値がわからないなぁ、と思いながらそれをコトリ、と置くと、また鈴がリ――――ンと鳴った。うん、どうやら合っていたらしいです。良かった。
それから私は何故か聞こえる声に誘導されるがまま、持っている物達を次々と置いていく。外から聞こえていたはずの四月一日くんの声が聞こえなくなったな、と思った時には、持ってきていた物は1つ残らずなくなっていた。
さて、次を持ってこよう。振り返ると、割烹着姿の四月一日くんが唖然とした顔で私を凝視中。何でそんな顔をしているんだろう?


「え、碧衣さんって此処に入るの初めてだよね…?」
「?うん」
「だよね?!…じゃ、じゃあ何で場所がわかったの……?」


何度か掃除をしている俺でさえ、記憶が曖昧な所もあるのに。
不思議そうな顔でそう問いかけられて、私はさっき起きた出来事を包み隠さず話すことにしました。四月一日くんも私と同じでアヤカシが見える人だから、こういう話をしても引いたりしないからとても助かる。静とひまわりちゃんもそうだけど。


「何かね、声が聞こえたの。それで誘導されるがままに置いていったんだけど…」
「…声?」
「そう、声。こっちだよ、って教えてくれたんです」
「ゆっ……侑子さあああぁああああんっ!!」


えっ何故に大声?!


「なぁに?四月一日。おっきな声出しちゃって…碧衣ちゃんもビックリしてるじゃない」
「あっごめんね古橋さん!!でも今はそれ所じゃなくって…っ!」
「んー?」
「古橋さんが声を、聞いたって」


四月一日くん。それはいくら何でも端的過ぎやしないでしょうか。それだけ聞くと、まるで私が不可思議な声を聞いたってことに―――あれ?それで間違ってないのか、別に。不可思議な声を聞いたのは、確かだもんね。
四月一日くんからそう告げられた侑子さんは、別段驚いた顔はせず、聞こえたの、と穏やかな笑みを浮かべているだけ。


「…何か悪いモノじゃねーんすか?」
「違うわよ。碧衣ちゃんが聞いたのは物達の声、アヤカシでも何でもないわ」
「もの?」
「宝物庫に眠るコ達は意思を持っていることが多いの。だから、自分の居場所を教えて連れて行ってもらおう!―――って魂胆なワケ」
「そんなことが…」


世の中には常識ばかりが溢れているわけじゃない、こうした非常識だってたくさん転がっているのだと…小さい頃からわかっていたつもりだったけれど、四月一日くんや侑子さんに出会って、またそれが色濃くなったような気さえする。
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