知らないもの


考えてもどうしようもないことというのは、この世にはたくさん存在すると思う。いや、するはずだ。なので、わからないことはこの際、放っておくことにしました。
それで解決するわけじゃないし、私は誰なんだっていう問いに答えてくれる人もいるはずないんだけど。でもいつまでも考えても仕方ない、と開き直ってしまえば、意外と大丈夫なものだと気がついたのです。…いや、そんな気になっているだけでやっぱりグダグダ考えちゃうんだけど。それはもう私の性格のようなものなんだろう。性格となると、もうどうしようもない気がするのでやっぱり放っておくしかできないのだ。


「ね、碧衣ちゃんもどうかな?」
「……へ?」


あ、しまった。完全に意識が別の所へいってしまっていた。考え事していればそうなるのも仕方ないのだろうけど。我に返ったのはひまわりちゃんの笑顔が、ドアップで視界に入ったから。そして自分の名前を呼ばれたから。
ええっと、何の話をされていたのでしょうか。ダラダラと冷や汗をかきながら思い出そうと努力してみるものの、どうやら私は話の序盤から聞いていなかったらしいです。全く思い出せない!
なので、申し訳ない気持ちを前面に出して聞いてなかった、ごめんね、と口にした。そしてもう一度、何を話していたのか聞いてみると…この後、甘味処へ寄っていかないかというお誘い。うん?甘味処?


「駅前に新しいカフェできたの知らない?和カフェらしいんだけど」
「…あ、そういえばクラスの子達がそんなこと言っていたかも」
「そこのあんみつが美味しいって評判なの!碧衣ちゃんも一緒に行かない?」


行ってみたい。とんでもなく気になる。
けれど、私は今も侑子さんのお店で働いている身で…それなのに寄り道をしていってもいいのだろうか。


「もしかしてバイトのこと気にしてる?」
「え、あ、…うん」
「大丈夫。さっき俺が連絡しておいたから」


許可ももらえたから、一緒にどうかな?
四月一日くんがにっこり笑ってそう言った。雇い主である侑子さんが許可してくれたのなら、大丈夫なのかな…この話の流れだと、四月一日くんも行くような感じだし。ううん、でもなぁ…といまだ渋っていると、頭の上にポン、と何かが置かれた。視線を上げてみると、それは静の手のようで。


「…静?」
「ここ最近、元気がねぇだろう。美味いもん食って元気出せ。甘いもん好きだろ」
「うん、大好きだけど…」
「古橋さん、一緒に息抜きしようよ」


静と四月一日くんの言葉が決定打となり、私はようやく頷いた。残念ながら静は大会が近い為、甘味処へは一緒に行けないらしいけれど。でもあんみつは気になるらしく、お土産に買って帰るね、と約束して私達は別れた。
それにしても友達と寄り道なんて、あんまり経験ないかも。というのも、帰り道は色んな良くないものがそこら中にいるから、誰かと一緒に帰るなんてことしなかったんだよね。絶対に挙動不審になるから。そんな所を見られてしまったら、私はきっと変な人扱いされちゃう。学校で見えちゃった時だって、反応しないようにするの大変なんだから。
そんなことを考えながら歩いていたら、あっという間に目的地であるカフェに着いたらしい。おお、話に聞いていた通り、外装から和っぽい感じだ。けれど、内装は和と洋が混じり合った感じというか…飾ってあるものは和なんだけど、椅子とテーブルが設置されてるからそんな風に感じるのかなぁ。でも、うん、雰囲気はとても良い。小物とか可愛いし。


「いい雰囲気だね、可愛い!」
「うん。クラスの子達が話題にするのも納得かも」
「ひまわりちゃん、古橋さん。メニューどうぞ」
「ありがとう、四月一日くん!」


受け取ったメニューをひまわりちゃんと開くと、思っていたよりずっと品数が多い。あんみつが美味しい、と聞いていたし、和カフェだって話だったから和菓子専門なのだと勝手に思っていたんだけどね?全くそんなことなかった。
カフェ、と名がつくのに相応しく、抹茶のロールケーキとかパフェとか、それから和三盆を使ったケーキとかもあるのです。あれだね、まさしく和と洋がコラボした感じだね。あんみつ一択だったはずの心は、あっという間に他のメニューに奪われつつある。どれも美味しそうで悩んじゃう…!


「思ったよりメニューが豊富なんだね」
「私も同じこと思った。和菓子だけだと思ってたのに…」
「和と洋を織り交ぜたメニューが売りなんだ、って雑誌にも書いてあったよ」
「そうなんだ…ひまわりちゃんと四月一日くんは、もう決めた?」


もう決めているのなら参考にさせてもらおう、と2人に問いかけてみたけれど、ひまわりちゃん達もたくさんあるし、どれも美味しそうで悩んじゃってるんだって。まぁ、そうだよね。悩むよね、この品数だと。


「碧衣ちゃんは?決まった?」
「ううん、私も悩んでて…」
「あ、じゃあ3人でシェアしない?そしたら色んな味が楽しめるし」
「ナイスアイディアだよひまわりちゃーん!」


それは私も賛成です。イチオシのあんみつは頼むとして、あと一品ずつ選ぶことにしました。それでもなかなかに悩むんだけどね…!3人でうんうん唸りながら、抹茶のロールケーキ・黒蜜ときなこのパフェ・おしるこにけってーい!!
ちなみにお冷の代わりに出されたのは、温かいほうじ茶。夏だと冷たい麦茶が出てくるそうな。もちろん、お願いすればお冷も頂けるそうなんだけど。でもやっぱりそこは和カフェ、ということで、まずはお茶を出すことにしているんだそうです。あ、香ばしくて美味しい。

(居候している静の家がお寺だからか、お茶を飲む機会が多いし…こういう方がやっぱり落ち着く)

年寄りみたい、と言われようとも、私はコーヒーや紅茶よりも緑茶やほうじ茶の方が好きだなぁと改めて思う。別にそれ以外全く受け付けない!というわけではないし、緑茶とかがないカフェに行けば紅茶も飲むけれど…でもメニューにあれば、緑茶とかを頼みます。悩むことなく。だって美味しいもん。
だから和菓子も好き。甘いものなら和でも洋でも、結構関係なく食べるし好きだけど。なので、家でケーキを食べる時はお供に緑茶、なーんてことも多々あるわけでして。でも合うよ?意外と。


「ん、黒蜜とバニラアイスって合う…!」
「あんみつにのってる寒天、ほうじ茶の寒天だ。これいいな、今度作ってみるかな」
「侑子さんもこういうの好きそうだもんね」
「でもお酒の肴にはならないよね?あんみつだと」
「まぁ、お酒以外も飲む人だから。お茶とか紅茶でも問題ないんだよ」


そういえば、初めて会った時は紅茶飲んでたっけ。お酒はー?って四月一日くんに言っていた記憶も、あるけど。


「碧衣ちゃん、ロールケーキ食べた?美味しいよ!」
「まだ食べてない。いただきまーす」
「ね?美味しいでしょ?」
「うん、生クリームと抹茶の苦みが絶妙だ…!!」
「古橋さんって美味しそうに食べるね」


ケーキやパフェの美味しさを噛みしめていたら、四月一日くんが穏やかな笑みを浮かべてこっちを見ていることに気がついた。美味しいものも、甘いものも大好きだけど、…そんなに顔に出てたかな。
恥ずかしい、と思っていると、「美味しそうに食べてくれてるのを見るのって嬉しいんだよ」ってまた笑って。彼も料理を作って提供する側に回ることが多いから、美味しそうに食べてくれるのを見るの嬉しいって思うんだって教えてくれました。


「今度、ミセで和菓子作ってみるから、味見してくれる?」
「う、うん!もちろん!!」
「じゃあお願いする。上手く出来たらデザートに持ってくるから、その時はひまわりちゃんも食べてね」
「もちろんだよ、四月一日くん」


…何か、夢みたいな時間だと思う。
何気ない風景のはずなのに、会話のはずなのに、それなのにどうして―――こんなにも、胸がぎゅうっと締め付けられるのだろう。
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