タッパのでかい新入部員
父親が写真をよく撮っていた影響なのか、物心ついた頃からよく写真を撮っていた。インスタントカメラから始まり、両親からプレゼントされたポラロイドカメラ、そしてコツコツとお金を貯めて買った一眼レフのカメラ…たくさんたくさん撮ってきたと思う。
気がつけば大学に進学した今でも写真は唯一の趣味と呼べるものとなっており、サークルに入ってしまったほどです。仲間達と撮るのも、ひとりで黙々と撮るのも楽しい。何よりファインダー越しの世界を残しておけるというのが、私にとっては最大の魅力だったから。
日常の一部だったり、綺麗な風景だったり、スマホのカメラで撮ることだってあるけど…やっぱりカメラで撮るのが一番綺麗で、楽しいなって私は思う。
(あれ…?)
サークル活動の一環としてテーマを決めた写真を撮り、それを校内の掲示板に張り出してるんだけど…その写真達をじっと見つめている男の子がいた。時期的に新入生かな…でも大分でっかい子だなぁ。何を食べたらそんなにでかくなるのよ、ってくらい。
声をかけてみるか?いや、でもでっかいからか威圧感すごそうで怖いなぁ…凄まれたらどうしよう。さすがに自分では対処できない気がするぞ。スルーしてもいいんだけど、彼が立っている掲示板のすぐ横にある部室に用事があるんだよね。スルーしようにもできないやつなんです。
どうしたものか、彼が立ち去るまでどこかで時間を潰してくるか?…あ、ダメだ。今日は次の撮影テーマを決めるって話だったわ。そろそろ皆集まってくる時間だし、あんまり遅れるのもやだなぁ。
不躾にもじっと名も知らぬ彼を見つめたまま考え込んでいると、ふっと視線がこっちに向いて綺麗な蜂蜜色の瞳が僅かに見開いた。あ、その顔はちょっと幼く見えて可愛いかも…?
「えっと、…」
「あ、ごめんね。熱心に写真見てたから興味あるのかな、って」
「そう、ですね…」
ちょっと煮え切らない返事ではあるけれど、興味ゼロってわけではないみたいだ。そして話してみると何ともまぁ穏やかな…そして適度な低さのいい声をしていらっしゃる。
「興味があるなら今度見学においでよ。今日はちょっとテーマを決めるミーティングが活動内容だからあれだけど…」
「じゃあ…また、今度来てみます」
「うん、お待ちしておりますよ!…あ、名前って聞いても大丈夫?」
「1年の伏見臣です」
「伏見くんね、覚えた。私は常盤天音、3年生です」
一応、と自己紹介をしておくと、伏見くんは目をぱちぱちと瞬かせて「常盤…?」と私の名字を復唱した。んん?私、この子と実は知り合いだったりするのか?覚えてないだけで。
でもこんなに顔立ちの整った子、知り合いにいた覚えはないなぁ。物覚えは悪い方ではないし、人の名前や顔を覚えるのだって苦手ではない方だ。さすがに小さい頃のことは記憶が朧気だし、あの頃の知り合いだとしたら今会ってもすぐには一致しそうにはないが…名前聞けばわかる気はする。
けれど、彼の名前には一切聞き覚えがない。だから多分、知り合いではないはずなんだけど…?
「この、空の写真撮ったのって…」
「え?ああ、その写真?うん、私が撮ったやつだね」
ああ!私の名字を復唱したのってそういう理由?聞き覚えがあるとか、実は知り合いでしたーとかではなく、掲示板に貼ってあった写真のことだったのね。写真の下にタイトルと名前書いてあるもんな、そういえば。
良かった、一安心だ。
「人物撮るのももちろん好きだけど、風景の写真の方が得意なんだ」
「へぇ…先輩の撮った写真、もっと見てみたい気がします。綺麗ですね」
「本当?嬉しいなぁ」
写真を褒めてもらえるのは単純に嬉しい。嬉しくて満面の笑みを浮かべると、伏見くんが少しだけ口元を緩めて笑ったような気がした。
おお、そんな顔もできるんだね。さっきまでの表情はカッコいいし、驚いた表情は少し幼くなって可愛い。でも笑った顔もいいなぁ、この子をモデルに写真を撮ってみたくなる。さすがに出会ったばかりの子にそんなお願いはしないけども。
この縁がこの先も続くのならいつか―――撮らせてもらいたいと、強く思った。
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