続いた縁
入学式を終えた4月中旬―――部室横の掲示板で出会った新入生である伏見くんは、その後見学に現れ、他の数人の新入生と共に入部を果たした。それからしばらく経った頃には割とよく笑った顔を見せてくれるようになっていて、あの日感じた僅かな近寄りがたさは鳴りを潜めている。
あの時見た彼が本来の彼なのか、それとも今見ている彼が本来の彼なのか…それはつき合いの短すぎる私にはわかりはしないけれど。
でもまぁ、背が高いから一瞬威圧されてしまうけれど、慣れてしまえばそんなことはないから…割とすぐに溶け込んでしまいそうな感じはあるよね。面倒見もいい感じがするし、新歓の時を思い返せば。
「伏見くんって兄弟いたりする?特に弟とか妹」
「弟がいますよ、2人。でもどうしてです?」
「ん?面倒見がいいなぁ、と思ったことがあるので」
「ああ…」
苦笑を浮かべた彼が思い浮かべたのは、きっとさっきまで私が思い出していた光景と同じ―――少し前に行われた新歓だろう。
新入部員である子達は皆未成年で、もちろんお酒は厳禁。でもまぁ2年生以降の部員はお酒が飲める年齢なのがほとんどだから、やっぱりね、飲むわけですよ。飲まない人も中にはいるけど大半が飲むから、そりゃあ酔っ払いも出てくるわけで…さすがに店側に迷惑をかけるようなことにはならなかったんだけど、その時に酔っ払いの介抱を手伝ってくれたのが伏見くんというわけでして。ごめんね、新歓なのに酔っ払いの先輩の介抱手伝わせて。
「酒を飲めるようになったら気をつけよう、とは思いました」
「うん、程々がいいよ。何に関しても」
「先輩は強い方なんですか?」
「あー…どうだろ、限界まで飲んだことないなぁ」
サークルのメンバーや友人達と飲みに行く機会は多いけれど、周りが飲みすぎて酔っぱらうことの方が断然多いからいつも適度な所で止めるクセがあるんだよね。
だから実は自分の限界値をいまだに知らないままなのである。知っておいた方がいいとは思ってるんだけど、なかなか機会がなくってねー…でも外で試すのはちょっと怖いから、家でやってみるか?いやいや、ひとりで限界まで飲んで最悪の事態になったら嫌だわ。
「見た感じは強そうですけど」
「あはは、よく言われるーそれ」
見た目はめちゃくちゃ飲めそう、とは昔からよく言われてきたことだ。実際、両親はお酒に強い人達だからもしかしたらもしかするのかもしれないけど…祖父母は弱かったって話だからねぇ。隔世遺伝で私も弱い可能性はいまだ捨てきれていない。
一応、2杯までは飲んでも大丈夫ではあったけれども。…あ、そうだ。
「話はガラッと変わるんだけどさ」
「はい?」
すっかり忘れていた。私は伏見くんに渡したいものがあったんだった…ええっとどこにしまったんだっけ。財布の中?ファイル?手帳に挟んだ?
カバンの中をごそごそとし始めた私を、彼は不思議そうに見下ろしている。うん、ごめんねーすぐに見つけるからもう少しだけ―――あ、あったあった!
はい、と見つけたばかりのチケットを差し出すと、少し戸惑いながらも受け取ってくれました。
「…チケット、ですか?」
「うん。時々、サークルに送られてくるんだよ。写真展の優待券とか招待券とかが」
「へぇ…」
「そういうのは大体希望者か、新入部員に配ってるの。今回のは新入部員全員分あったから君にも」
プロの写真家の撮った写真はめちゃくちゃ綺麗だし、勉強にもなるから見て損はないと思うよ。写真に興味があるのならきっと楽しめると思う。
特に今回の写真家の人は綺麗な風景写真を撮るって有名な人だしね!
「どんな写真を撮ってる人なのか気になるなら、部室にポスター貼ってあるし、写真集も置いてあるから見てみるといいよ」
「そうなんですね、教えてくれてありがとうございます」
「いーえ!行くなら楽しんでおいで」
「はい」
渡したチケットを見つめる伏見くんの瞳は、キラキラと輝いているように見えた。
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