きっかけなんていくらでも転がっている
大学生にでもなれば、自然と好きな人くらいできるだろうと思っていた。でも相変わらず、私が情熱を注ぐのは写真だけだった。
周りは恋人ができてデートしたりとか、恋バナに花を咲かせているけれど。でもそれを微笑ましいと思いこそすれ、羨ましいと思ったことは一度もないんだよなぁ。楽しそうだなぁとも思うけど、私も恋人ほしい!ってなったことない気がする。
「クリスマスとか自分の誕生日とか、イベントごとに直面するとほしくなったりしない?」
「ないかも…?」
「ええ〜…」
「でも天音は写真に全力と情熱を注いでるから、他に目がいかないのかもね」
ああ…確かにそうかもしれない。目の前のことに精一杯ではあるのかも。
「真っ直ぐ突き進むのは天音の長所ではあると思うよ」
「そうだけどさぁ…私はそろそろ天音の浮ついた話を聞きたい!!」
「そんなこと言われてもなぁ…」
確かに一度も恋バナで話す側に回ったことはない。いつだって聞く側で。その度に「天音は何かないの?」って聞かれるけど、答えはいつだって同じ。「何もありません」なんだよね。
さすがに初恋は経験済みだし、中学の時に先輩とつき合ったこともあるけど…それっきり。好きな人もそれっきりで、今に至るわけです。とはいえ、頑張った所で好きな人ができるわけでもないしなぁ。無理矢理恋人を作ろうと思ったこともないから、まぁいいかなって思っている。
「好きな人じゃなくてもさ、気になるな〜とかいいな〜って思う人もいないの?」
「うーん………」
パッと頭に浮かんだのは、半年前に新入部員として入ってきた伏見くんだった。素直にカッコいいと思うし、笑った顔は可愛いと思うし、いい子だと思う。常盤先輩、と呼んでくれるあの声もいい声だと思う。
…でも好きかとか、気になるかと言われてしまうとクエスチョンマークが大量発生してしまうんだよな。多分、少し特別な後輩っていうのが一番しっくりくる気がします。少し特別ってどんなんだ、と我ながら思うけど。それ以外に適切な言葉が見つからないんだ。
「先輩、こんにちは」
「こんにちは。君も終わり?」
「はい。急に休講になってしまったので…」
あーなるほど。小中高だとそんなことは滅多にないけど、大学はたまーにあるんだよね。教授の都合とか体調不良で休講になること。その代わりに課題を出されたり、振替の授業が休日にあったりするからものすっごく面倒ではあるんだけど。
自然と歩くスピードを私に合わせてくれる彼は、年下だとは思えないくらいに紳士的だと思う。そのうえ、面倒見も良いとくればモテそうだなぁ。後輩ができたら確実に伏見くんに恋をする子もでてきそうだと思う。
とりとめのない話をしながら歩いていたからか、段差があることに気がつかなかったらしい。思いっきり躓いて、そのまま顔面からダイブする―――そう覚悟をして目をつぶったのに、いつまで経っても衝撃も痛みもやってこない。
「―――っぶねぇ…大丈夫ですか?常盤先輩」
「へ、え?う、うん、大丈夫…!」
どうやら私は伏見くんに助けられたらしい。軽々と抱き留めたその腕は逞しく、力強い。
今の一瞬でこの子は、伏見くんは立派な男性なのだと、そう理解してしまった。そんな当たり前のことはずっと前から知っていたはずなのに、まるで鈍器で殴られたような衝撃で。
ブワッと血が逆流しているような錯覚に陥る。体も、顔も、めちゃくちゃ熱い。
「ご、ごめん、ありがとう伏見くん!じゃっまたサークルで!」
「あっ…足元気をつけてくださいね!」
後ろから飛んでくる心配の声に答える余裕なんて、これっぽっちもない。赤くなっているであろう顔を隠すように、私はそこから逃げ出した。
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