先に進むなんて、誰も言ってません


伏見くんを好きだと気がついたものの、そこから先へ進みたいと思うことはなく、何も変わらない日々を過ごしております。そして無事に4年生となり、就活真っ最中ですいえーい。

(そりゃまぁ、あんな子が恋人だったら幸せなんだろうけど…)

別に歳の差を気にしているというわけではない。ないけれど、私は来年の今頃は(恐らく)無事に卒業して新社会人となっている。伏見くんと一緒に過ごせる時間なんてそう長くはないし、学生と社会人なんて上手くいくとは思えなくて。そもそも彼が私を好きになってくれる、という未来もないと思っているので。当たって砕けろ精神で気持ちを告げて、気まずくなってしまうくらいなら―――言わない方がいい。
逃げていると思われようと、私はこの気持ちを自分の中にしまいこんで昇華すると決めたんだ。去年に比べれば距離はそこそこ縮まったし、それだけでも十分嬉しいことだもの。これ以上を望むのはよろしくない。

「ん?」

友人達は皆用事があり、今日は珍しくお昼はひとりきり。たまには食堂で食べよう、と思ってお弁当を広げていたら、席を探しているのかキョロキョロと辺りを見回しながら歩いている伏見くんを発見。グッドタイミングなのかはわからないけれど、私の向かいの席はまだ空いている。
声をかけようかどうしようか迷っているうちに、彼の瞳がこっちを向いてバチッと視線が絡み合った。このまま無視をしてしまうのはさすがに態度が悪いよな…手招きをしてみれば伏見くんは素直にこっちへ寄ってきた。なんか犬みたいで可愛い。

「そっち空いてるからひとりならどーぞ」
「すみません、助かりました。…先輩がひとりって珍しいですね」
「んー皆、選考会やらがあるからねぇ」
「…そうか、就活でしたっけ。先輩達」

そうなんですよー。3年生後半から少しずつ業種を絞ったりはしてきてはいたものの、本格的に動き出したのは4年になってからだからねぇ。何とか早めに内定をもらいたいものだけれど、果たしてどうなるやら。…こうして伏見くんとゆっくり話す時間も、減っていくんだろうなぁ。寂しいけれどそういうものなんだから仕方がない。
ふっと視線を感じたような気がして食べる手を止め、視線を上げると伏見くんがじっとこっちを見つめていた。何だろう、私の顔に何かついてる?ご飯粒とか?反射的に口周りを触ったけれど、何もついていないようだ。…え、ほんとなに?

「えーっと、…なにかな?伏見くん」
「あ、…すみません」
「いや、いいけど…何かついてる?」
「そうではないんですけど、…来年にはもう先輩はいないんだなぁと」
「卒業だからね、単位落とさなければ」

卵焼きを頬張りながら返せば、そこは頑張ってくださいと彼は困ったような笑みを浮かべた。そりゃそうだ、頑張らないとダメなやつだよね。運良く就職が決まっても卒業できなかったら、全てが水の泡になってしまう。
それが一番悔しくて悲しいから、そうならないように頑張らないとなぁ。就活も、単位を取るのも、卒論も。

「先輩って、」
「うん?」
「恋人って、います?」

ごくん、と勢い良く飲み込んでしまい、変な所に入った。
ゲホゲホ噎せている私にお茶を渡してくれるけれど、君が原因だからなこの野郎。急に何てことを聞いてくるんだ、この後輩は!!

「まさか伏見くんにそんなことを聞かれるとは思わなかった…!」
「俺はそんなに驚かれるとは思いませんでした」
「驚くよ。そんなに恋バナとか興味なさそうじゃない」
「興味というか、…うーん」

俺が気になるのは、常盤先輩のことだけなので。
またもや爆弾発言をした伏見くんは、顔を赤らめるでもなくただ淡々とご飯を口にしている。…あ、いや耳は赤くなってるから多少の照れはあるんだね。だからどうした、って感じだけれど。
ええええ…?ちょっと待って?伏見くんは今、告白まがいのことを言ってきたの?それとも面白いとかそういう意味での気になる、って言ったの?どっちなの?でも聞いたらダメなような気もする。

その後、さっきのことは話題にのぼることもなく、お互いに午後の講義を受ける為に食堂で別れたのでありました。
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