年下のきみ
ピピピッと鳴り続けるスマホのアラームを止め、もぞもぞとまた布団に潜り込む。起きなければ遅刻することくらいわかってる、わかってるんだ。でも、そうだとしてももう少しぐらい微睡んでいたいじゃないか。
あーそういえば、学生時代にも同じようなことして遅刻したことあったし、遅刻しかけたことあったなー…微睡んでいるうちにガチの二度寝しちゃうんだよね。
学生時代はそれでもまだ何とかなっていたけれど、今は無事に卒業して社会人です。ウチの職場は緩いというか…風の噂で聞くような厳しい職場ではないけれど、それでも社会に出た身としてはなるべく遅刻するのは避けたいのである。
「そんなことをつらつらと考えているうちにお時間ですよ、っと」
こういうのは勢いが大事だ!と布団を蹴っ飛ばすようにして起きれば、時刻は6時15分。普段と何ら変わらない起床時間です。
本当はもう少し遅く起きても問題ないんだけど、まぁ…ひとり暮らしだからこそ、食事くらいはきっちり食べようかなって思って。忙しかったり、あんまりにも眠気に勝てない時は睡眠を優先することもあるけど、けど今の所は睡眠欲が勝つことはあんまり多くないかもしれない。
さて、今日は何を食べようかなぁと考えながら歯磨きと洗顔を済ませていく。着替えまでを順調に済ませ、そういえば開けていなかったっけ…とカーテンを思いきり開ければ、そこに広がったのは雲ひとつない晴天だった。太陽がキラキラ輝いていて、漠然と写真が撮りたいなって思った。
就職してもうすぐ2年が経つけれど、毎日仕事を片付けるのに精いっぱいで写真なんて全然撮っていない。学生時代はカメラ片手にたくさんの所に行って、飽きることなく毎日のように撮っていたのに。まぁ、単純にあの頃は時間の融通が利きやすかったってことなんだけども。講義とバイト以外の時間は、割と自由だったからなぁ。
その時に比べるとやっぱりなぁ…休日に時間作れば、と思ったりもするんだけど、いざ休日となると惰眠を貪って気がつくともう夕方ーなんてことも少なくないわけで。それを繰り返していたら、いつの間にか全く撮らなくなっていたという現実。必死にバイトをして貯めたお金で買った一眼レフも、今ではクローゼットで眠ったままだ。手入れだけはしているけれど、そろそろ陽の光を見せてあげたいと思ってしまう。宝の持ち腐れだしね、このままじゃ。
使わないなら売ってしまえ、と言われるかもしれないけれど、さすがにそれはできないししたくないんです。
「今週末、近くの公園にでも行ってみようかな…」
そろそろこの辺りも紅葉が綺麗になってきている頃だろう。たまには買い物以外で外に出かけてみるのもいいかもしれない。そうでもしないとインドア生活まっしぐらだし。インドア生活もいいものだけどね、読書とか好きな音楽聴いたりとか。
天鵞絨町にいた頃は写真撮りに行ったり、友人達と買い物とかテーマパークに行ったりとか、割と外に出ることが多かったんだけどなぁ…気がつけば仕事と日用品・食料品を買いに行くくらいしかしなくなっていた。まぁ、社会人2年目に入って少しだけ余裕も出てきたように思うけど…さすがにあの頃みたいに休日になる度に出かける元気はもうないなぁ。たった2年かもしれないけれど、それが案外長いんだよね。
ふっとよぎった臣の顔を思い出して、元気にしているだろうか―――なんて思いを馳せる。決して遠い場所にいるわけではないけれど、天鵞絨町を離れてから2年。会った回数は多分、片手で事足りるほどだ。
一応、恋人という立場ではあるものの…社会人と学生だとこんなにもすれ違ってしまうものなのかって頭を抱えるほどに、時間が合わない。地元を離れなければもう少し時間を合わせることもできたのかもしれないけれど、それはまぁ言っても仕方がないことだ。配属先に新入社員である私が意見できるわけでもないし。
「それでも交際2年目になるっていうんだから…」
着替えを済ませ、トーストをかじりながら独り言ちる。
このままでいいんだろうか、と何度考えたかわからないけれど、それでも好きなんだとあんなに真っ直ぐな瞳で見つめられたら、真剣な声音で伝えられてしまったら…断るなんて選択肢はあっという間に霧散してしまったのだ。押しに弱いとも言うけど。―――だけど、私自身も臣に片思いしていたから…断りたくないと心の片隅で思ってしまったんだよねぇ。
最後の一口を放り込み、それを甘めのカフェオレで流し込んでいたらピロン、とスマホが鳴った。ロック画面に映し出された名前に、自然と笑みが零れる。相変わらず早起きだなぁ、臣は。
連絡自体は毎日取っているけれど、今日はアイツのことを考えてしまっていたせいか会いたくて会いたくて仕方がない。たまにはサプライズでもしてやろうか。臣はどんな反応をするだろう、と思いながら、おはようとメッセージを返した。
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