救いの貴方


『私、貴方達のこと嫌いです』
そう口走ってしまったのはいつのことだったか。別にその人達の性格が悪いとか、何かされたとか、そういうことは一切なかったのだけれど…腹違いとは言え、自分の兄弟のことを悪く言ったり距離を置くことがどうしても許せなかったんです。
話には聞いていたけれど、それを目の当たりにした時はプチンッと何かが切れるような音が聞こえて、気が付いたら2人の傍にツカツカと近寄って嫌いだ、と断言してしまっていた。その言葉に本人達はもちろん、一緒にいたコンラートやグリエもあんぐりと口を開けて驚いていたのを今でも覚えてる。あの顔はとても間抜け面だったわね、面白かったけど。

「ああ、あったなそんなこと」
「フェリシアって優しそうに見えるのに、案外ハッキリ言うんだね…」
「義姉上は怒らせたら一番怖いぞ、ユーリ」
「あら、そんなことないわよ?ヴォルフラム」

その後、僕と兄上と大喧嘩したのはどこの誰ですか。
ええ、それは間違いなく私ね。だって言い返されたら、その倍言い返したくなるのは人の性でしょう?にっこり笑ってそう答えれば、陛下は苦笑しつつも若干、引いているように見えた。あら、やっぱり物事をハッキリ言って、殿方と喧嘩をしてしまう女性というのは敬遠されるのかしら。
うーん…でもそれが私だし、今更この性格を変えるとなると至難の技よね。無理だと思うわ。

「いや、何て言うか…思ってたイメージとは違うんだな、って思っただけなんだ。フェリシアが悪いわけじゃないよ」
「ふふ。イメージが違う、というのはよく言われますわ」
「黙って笑っている分には、可憐な花のようなおしとやかさだからな。義姉上に憧れている人は多いと思いますよ」
「中身がこんななのに?」
「え、いや、あの、…まぁ、ほとんどの人は義姉上の性格を知らないでしょう」

うん、ヴォルフラムの言う通りなのよね。きっと戦争に出ていた頃の私を知っている人なら、性格もよくご存じでしょうけど…それ以外の知り合いの方達は私の性格なんて露知らず。陛下のように中身を知ってイメージが違う!と声を荒げた殿方達が今までに何人いたことか…別にね、私にどんなイメージや夢や理想を持とうと構いやしませんけど、それが崩されたからって私に怒りをぶつけるのは筋違いだと思うんです。
はぁ、と溜息を吐けば、陛下が少しだけ眉間にシワを寄せてそれは嫌だよなぁごめん、と謝られてしまいました。ああごめんなさい、貴方にそんな顔をさせたかったわけではないのだけれど…これはさすがに私の胸の内に留めておくべきことでしたわね、失敗してしまったわ。
違うんです、ごめんなさい。と謝罪の言葉を口にすれば、フェリシアが謝ることないよ!と慌ててらしたけれど。でも私からすれば、陛下が謝ることもなかったんですのよ?だって貴方は私に怒りなどぶつけなかったでしょう?貴方が口に出したのは、純粋な疑問というか…感想だったのですから。

「けれど、コンラートが好きになったのは義姉上のそういう所だ、と言っていたぞ」
「そういう所?」
「物事をハッキリ言って、思いっきりぶつかってきてくれる所。そういう所に惹かれた、と前に」
「まぁ、それは初耳。ふふ、何だか嬉しいわね」
「コンラッドってそういうの言ったりしないんだ?」
「いいえ、そっちではなくて…あの人とヴォルフがそんな話をしていたことが、ですわ」

私が知っているコンラートとヴォルフの関係は、あまりよろしくないものだったから。話をするどころか、視線すら合わせようとしていなかったんですもの…何度怒っても、それが直ることはなかったの。だから余計に嬉しいのよ、コンラートと話をしてくれていたことが。
きっと、それを良い方向へ変えてくれたのは―――目の前に座っている、ユーリ陛下なのでしょうね。
久しぶりに戻って来た眞魔国はとても平和になっていたし、彼ら兄弟の仲もあの頃より格段に改善されていた。陛下は無意識なのかもしれませんが、この御方と関わり始めたことで少しずつ良い方向へ変わっていっているのは確かだと思うのです。

「…陛下、ありがとうございます」
「へっ?!お、俺、お礼を言われるようなことしてないと思うんだけど…!」
「いいんです、私が言いたいだけなんですから。そのまま受け取ってくださいな」

この国を平和に導いてくれて、そしてコンラートを絶望の淵から救ってくれて本当にありがとう。心から、感謝しておりますわ。
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