最高の友人


グリエが突然訪ねてくることは、そう珍しいことではなかったりする。それは今回も例外ではなく、上等なお酒の瓶とおつまみを抱え、彼が私達の自室にひょっこり顔を出したのは夜も大分更けた頃でした。
私はちょうどお風呂に入っていたのだけれど、体を拭いていたらコンラートの不機嫌そうな声が聞こえたの。あの人がそんな声を出すなんて珍しいし(普段はそういうのを全て笑顔で隠してしまうから)、何事だろうと思ったのだけれど…浴室から出て目に入った光景に納得がいってしまった。あの人が不機嫌そうな声を出した理由も、不機嫌を隠そうとしなかった理由も。

「お、お邪魔してんぜフェリシアちゃん」
「いらっしゃい、グリエ。でも何故またこんな夜更けに?」

ソファに腰掛けながらそう問いかけてみれば、つい先ほど仕事が終わった所らしい。それで美味しそうなお酒とおつまみを見つけたから私達と飲もう、と思って訪ねてきてくれたらしいの。
あ、誤解がないように言っておくけれど、決してコンラートはグリエのことが嫌いなわけではないのよ?きっと、一番信頼していている仲間で友人だと思っているはずだから。その証拠が不機嫌を隠そうとしない所、だったりするのです。彼にはそういう部分も出すことが出来る、ってことだから。
…とは言っても、こんな夜更けに何の連絡もなしに来られたらいくら気の許せる友人であっても不機嫌にはなってしまうのでしょうけど。私がお風呂から上がったら寝よう、って話になっていたし。

「別に来るのは構わないけど、時間は考慮しろよヨザ」
「あー、次から気を付けますって。それに反応がなかったら自室に帰ろうと思ってたさ、勝手に入ったりしねーよ」
「当たり前だろ。勝手に入ってきたりしたら斬りかかるぞ」
「いやーん、グリ江こわぁ〜い!」
「…相変わらずそのキャラを維持しているのね…」

突然のグリ江ちゃん口調に苦笑を零しながらも、お酒を飲む準備をするべく立ち上がる。ええっとグラスが3つに、おつまみを広げるお皿が…1枚でいいかしらね、少し大きめの。
上の方にあるお皿を取ろうと必死に背伸びをしていたら、後ろから誰かの腕が伸びてきてそれをあっさりと取ってくれた。視線だけをそっちに向けてみれば、予想通り、コンラートの姿があって自然と笑顔になる。ふふ、相変わらず優しい人だこと。

「グリエ、そっちの棚の引き出しにコルク抜きが入っているわ。開けてもらってもいいかしら?」
「リョーカイ。ええっと、…お、あったあった」
「つまみはどれを出す?」
「そうね、…お酒の銘柄からして、この辺りのチーズとかがいいんじゃないかしら」
「その辺が合う、って酒屋のおっちゃんも言ってたぜ」

ようやくお酒を飲み始めた頃にはもう日付が変わっていた。…そういえば、コンラートは毎日陛下とロードワークをしているのにこんな時間にお酒なんか飲んで大丈夫なのかしら?酔いつぶれるようなことはしないと思うけれど、ちょっと心配になってきたわ。
素直に疑問を投げかけてみれば、グリエが持ってきたのは瓶1本だけだし、3人で飲んでいる分には大した量ではないから支障は出ないよ、と穏やかな笑みと声が返ってきた。まぁ、この人はお酒に強いし自身で加減も出来る人だから、私が心配することでもなかったわね。そう思い直して、私も久しぶりのお酒を楽しむことにしました。
酒屋の店主オススメの上等なお酒、とグリエが言っていただけあって、とても飲みやすくて美味しい。グリエが試飲して美味しい、と感じるくらいだから度数が高いかもしれないと思っていたんだけれど…思っていたより飲みやすいわね。あまりお酒には強くない方だから、この方が有難いのだけれど。

「…フェリシア、髪の毛乾かしてないの?」
「え?簡単には拭いたけれど…」
「まだ湿ってる。タオル貸して、拭くから」
「あら、ありがとう」

零さないように、とグラスをテーブルに置いてからタオルをコンラートに渡せば、わしゃわしゃと強すぎない力で拭かれる。たまにこうしてもらうのだけれど、意外と気持ち良いし心地良くてこっそりお気に入りだったりするんです。最後に軽く手で髪を梳かれて終了、のようです。
では残りのお酒を、とテーブルに体を向き直せば、向かいのソファに座っていたグリエが何とも言えない表情でおつまみであるチーズを食べて、一気にお酒を飲み干していた。彼もお酒強い人だから一気に飲んだ所で潰れたりしないことは知ってるから、恐らく大丈夫だとは思うけれど…急にどうしたのかしら?さっきまでは味を楽しむかのように少しずつ、少しずつ飲んでいたというのに。

「あんたらって俺がいても変わんねぇよなぁ…」
「?何のことかしら」
「普段はめちゃくちゃ鋭いくせに、たまーに鈍感よねフェリシアちゃん」
「…お前の前だから、だろ。飾る必要がない」

グリエと同じようにグッと飲み干してしまったコンラートのグラスにお酒を注ぐ。そしてグリエのグラスにも。2人からありがとう、とお礼をもらったと思ったら、すぐにさっきの話の続きを始めてしまった。何だか私は蚊帳の外のようで、少しだけ、ほんの少しだけ面白くない。でも何の話をしているのかいまいちわかっていなかったから、お酒をチビチビ飲んだり、おつまみを食べながら何となしにコンラートとグリエの会話に耳を傾ける。
聞いているうちにようやくグリエの問いかけの意味が理解できた。先程の髪の毛を拭いてもらっている時、ね。確かにグリエの前ではあまり遠慮はしていないかも…それはきっと、付き合っている頃から変わっていないと思う。
もちろん、彼の前で抱き合ったりキスしたりはしないわよ?けれど、手は…繋いだことあるし、他の人達の前よりはくっついている方だとも自覚していますわ。そしてグリエ曰く、他の人達がいる時はそうでもないけど、彼と3人だけだと雰囲気が甘くなっているとげんなりした顔で言われてしまいました。

「ヨザは全部知ってるだろう?何となくな、甘えてるのかもしれない」
「まぁ、フェリシアちゃんからよーく相談という名のノロケ聞かされてるし、別にいいんだけどさぁ…あんたら幸せそうだしぃ?」

楽しそうに、幸せそうに笑ってくれてるからいいよ。
最後にはそう笑ってくれた。こうやってグリエ自身が無意識に私達を受け入れて、あまつさえ甘やかしたりしてくれてしまうから、つい甘えちゃうのよねぇ。ふふ、彼からすればいい加減にしてくれって思うことも多々あるんでしょうけど、それでも私達との付き合いを止めないでくれているのだから感謝しないといけないわよね。
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