出会い
異世界から新しい魔王陛下がやってきた。
本当ならば、すぐ挨拶をするべきなんだろうが…残念ながら私の仕事は諜報員だ。眞魔国に留まっていることの方が少ない。
そんな中、同じ諜報員で幼なじみのヨザから陛下の話を聞くことができた。
今までの魔王陛下とは、何かが違うと。何かって何だよ、コラ。
「ふーん…コンラート閣下がねぇ」
「あぁ、珍しいと思うぜ?隊長があんなにご執心なのは」
「それだけ魅力的なのだろう?新しい魔王陛下は。私も会ってみたいよ」
コンラート閣下が執心しているワケ。
それを、この国で知ってる者はほとんどいないだろう。私はその数少ない中の1人だ。
閣下の幼なじみのヨザでさえ、知らない事実。…きっと、その理由が語られることはないだろう。この先ずっと。
それにヨザの話を聞く限り、悪い印象はない。
上司のフォンヴォルテール卿も、その弟のフォンビーレフェルト卿も認め始めているようだし。
時間はかかるだろうが、良い王になるのではないだろうか。……ま、会ってもいない私が言うのも何だけど。
「ルナはまだ会ってないのか、新陛下に」
「お前と同じ仕事をしているんだぞ?国を空けている時間の方が多いんだ」
「会う時間はない、か」
「そういうことだ」
会ってみたいとは、思う。私が命をかけるであろうお方だし、どんな人物か…この目で確かめたいしな。
だが、いかんせん時間がない。
それに一諜報員が、簡単に謁見できるとも思えない。任務や、陛下ご自身に呼ばれれば話は別だが。
「ま、焦らずともそのうち会えるだろ」
「だな。…んじゃ、俺は次の任務に行ってきますわ」
「相変わらずの仕事の量だな。私にも少し分けてくれよ」
「それは閣下に直接言えっての。じゃあねン、ルノアーナちゃん♪」
最後だけグリ江ちゃんになるな、気色悪い。
「(こうやってゆったり流れる時間も悪くないが…そろそろ飽きてくるな)」
国を空けている時間の方が多いのは確かだが、ここ数日は私は上司の城にいた。
ほとんど書類作成や、その確認をする仕事ばかりで正直、飽きた。
元々、机に向かっているより体を動かす方が私には向いているからな。細かい作業は面倒だ。頼まれれば、一応やるが。
ヨザも次の仕事に行ってしまったし、私もそろそろ仕事をするか。たっぷり休憩もしたしな。
そう思い、机に向かった矢先。扉をノックする音がした。
入室を許可すると、えらい丁寧な兵士が入ってきた。
「ルノアーナ閣下!フォンヴォルテール卿がお呼びです。すぐに自室に来るように、と」
「閣下はいらないんだが…わかった、すぐに向かう」
突然の呼び出し。仕事か、はたまたそれ以外の面倒事か…。
出来れば、前者を願いたいね。面倒事はごめんだ。
とりあえず向かうとするか。
「閣下、ルノアーナです」
「あぁ、入れ」
「失礼します」
「急に呼び出してすまんな」
「いいえー、構いませんよ。任務ですか?」
「まぁ、そんな所だ。とりあえず座れ」
この人が私の上司、フォンヴォルテール卿グウェンダル閣下。
眉間に刻まれてるシワが怖いけど、渋くて素敵ー!って評判なんだと。私には素敵かどうかはわからないけど、上司としては最高の人だと思う。
この人の部下で良かったと、本当に思うよ。顔に似合わず、小さくて可愛い物好きなとことかな。
「…閣下、まーたあみぐるみ増えました?」
「精神統一をせねば、この仕事はやってられん」
「ま、ストレス溜まる仕事ではあるけれどね。それで、本題は?」
「今日の夜、王都へ向かう。お前も同行しろ」
「ちょ…グウェン?!私は王都には行きたくないと言っただろう!」
あ、興奮し過ぎて敬語とか忘れてた。でも今は、それどころじゃないっての!
グウェンが王都に向かうのは構わない。うん、それは恐らく仕事だろうから。陛下の補佐(不本意だそうだが)をしているそうだから。
でも……何故私まで!!!
「今は仕事はないだろう?」
「確かにヨザみたいな仕事は入ってないが…っ」
「母上がお前に会いたいそうだ。もう何年も王都に行ってないだろうが」
そう、私は王都に行くのがあまり好きではない。別に嫌いな相手がいるわけではないが…色々と面倒なんだ。
それはグウェンも承知していたはずなのに…だけど、ツェリ様から直々の呼び出しときた。
ツェリ様からの呼び出しじゃ、断るわけにもいかないじゃないか…っ!
「ツェリ様、直々ですか…」
「そうだ。…気が向かないか?」
「向かないが、行かないわけにはいかないだろう。王都へ同行させる理由は、それだけですか?」
「さすがに察しがいいな、ルナ。実は、コンラートと共に陛下の護衛を頼みたい」
「…陛下の護衛を?」
「そうだ」
陛下の護衛なら、コンラートの実力なら1人でも十分だと思うんだが。我が師匠のフォンクライスト卿も、フォンビーレフェルト卿もいるだろうに。
この人達がいるなら、私がいずとも陛下のお命は護られるのではないのかねぇ。
恐らく顔に出ていたのだろう。グウェンが私の疑問を汲み取って答えてくれた。
「問題は全くないだろうが、事が起きる前に手を打っておいた方がいいだろう。今度の魔王陛下は手がかかるからな」
「へぇ…。でも貴方が見捨ててないトコを見ると、悪い方ではないんだろう?」
ニヤリと笑みを浮かべると、グウェンも珍しく口角を上げた。
彼をよく知ってる人じゃないとわからないくらいの、笑み。時々見られる、不敵な笑みだ。
きっと彼の弟達も、同じように笑うことがあるんだろうな。似てないように見えて、結構似ているところがあるんだ。彼ら3人は。
「ま、いーや。行かないとツェリ様に泣かれそうだ」
「理解したら準備をしておけ。この書類の束が終わり次第、城を出るぞ」
「リョーカイ、グウェンダル閣下」
軽く一礼をして、グウェンの執務室を後にした。
気は乗らないが…かなり長い間、王都に滞在することになりそうだな。
此処に戻ってくることも少なくなるだろうし、準備には時間がかかるか。
それにしても、王都…血盟城か。
グウェンの下で働くようになってからは、一度も帰っていないな。…しばらく会ってない人も、たくさんいる。
王都に行くのは気が向かないが、久しぶりに会えるのは嬉しいかもしれないな。
少しだけ気分が上がって、準備をする為に部屋に向かった。