浸る余韻と多幸感


とてつもない大きな音がして、ガバリと勢い良く体を起こした。パチパチと瞬きを数回繰り返し、ゆっくりとカーテンが閉められている窓を見た。
ザァザァと響く雨音、時折混じるのは雷の音だろうか。…そういえば、雨が降っていたんだ。いつからか雨音なんて聞こえなくなっていて、耳に届くのは微かな水音と呼吸音と―――臣くんの、声だけで。今の今まで雨が降っていたことなんて、すっかり忘れてしまっていた。

(いつの間にか雷まで鳴り始めてたんだ…)

きっと目が覚めたのは雷の音がしたからなんだろう。多分、落ちた音だったんだろうな。まだ僅かに霞んだ意識の中、ボケッと窓を見上げたままでいたら頭を撫でられた気がした。

「おはよう」
「うん、おはよ………おみくん…?」
「おう。…まだ寝ぼけてるだろ、お前」
「んん、…頭撫でられるの気持ちいい…」

寝ぼけてるわけじゃないと思うんだけど、なんだかふわふわしている気がする。あと僅かな倦怠感。それらがまるで夢のような出来事だったあの時間は、現実なんだぞって言っているようで。気恥ずかしいような、嬉しいような…何だか複雑な気持ちがぐるぐると胸の中を渦巻いている。
シたことを後悔しているとか、最悪だったとか、そんなことは全然ないんだけど、………そんなことを考えていたら急に恥ずかしくなってきて、顔が熱い。臣くんのことも直視できなくなって、起きたばかりなのにまた布団の中に潜り込んで丸まった。

「急にどうしたんだよ、はる」
「な、なんか急に恥ずかしくなってきちゃって……!」

素直に口にすれば1拍間が開いた後、臣くんが吹き出した音がした。いや、うん、多分笑われるだろうな〜とは思っていたけれど、案の定かい。ますます恥ずかしさが増して、余計に布団の中から出られなくなりました。
いいんだ、もうこのまま布団虫になってやるから。それで困ればいいんだ、臣くんのバーカ。―――いや、どんな八つ当たりの仕方だよ私。子どもか。自分の行動や思考に呆れはすれど、引っ込みがつかなくなってしまっているので…どうしよう、これうんうん唸っていたら、その声が聞こえたのか布団ごとぎゅっと抱きしめられました。抱きしめられたというか、のしっと乗っかかられているというか…そっちの方が見た目的には正しそうだけど。

「さすがに暑いだろ。出てきたらどうだ?」
「…やだ」
「やだって、…可愛いなぁ」

そんなしみじみ言わないでくださいますか?!余計に熱くなるじゃないか、バカ…!!もっと出にくくなったし。
くすくす笑う臣くんの声と、いまだ激しく振り続けている雨音と、ずいぶん遠くなった雷の音…それ以外には聞こえない部屋の中。そういえば、今は何時くらいなんだろう…まだ私達以外に帰ってきた人はいないんだろうか。
もそり、と顔を少しだけ出すと、こっちを見ていたらしい臣くんとバッチリ目が合った。その瞬間にゆるりと細められた瞳に、心臓がドクリと音をたてる。こいつのこういう顔は、いまだに慣れない。
元々甘い色の瞳が、より甘くなるこの瞬間が苦手で、でもそれ以上に嬉しく思ってしまう。目は口ほどにものを言うとは、よく言ったものだよね。本当に。

「体、辛くないか?」
「ちょっと疲れてるくらい…へーき」
「そうか。悪かった、無理させたな」

無理をさせられた、という実感はあまりない。というか、ついていくのに必死であまり覚えてないというか何というか…臣くんの色気がすごかったなとか、カッコ良かったなとか、あと…気持ち良かったなとか…断片的には覚えているんだけど。
何しろ何もかもが初めてだったので、あれが無理なことだったのかどうなのかすらわからないというのが本音。比較するものが何もないから、当たり前なんだろうけど。…いいか、比較なんてしなくても。そんなものを知ったって何の得もない。知らないままでいいんだ。

「臣くんは、…」
「うん?」
「ちゃんと、気持ち良かった…?」

サッと頬を赤く染めてビックリした表情を浮かべた臣くんは、溜息を吐いて頭を抱えてしまった。「急に何を言い出すんだ」とか、ブツブツ言いながら。
うん、自分でも何を聞いてるんだろうなって思ってる。ああ、まだ寝ぼけているのかもしれない。ふわふわとして夢見心地で、どこか熱に浮かされたままなのかも。
布団にくるまって横になっていたからか、段々と瞼が重くなってくる。このまま寝てしまいたいが、下手すると夜眠れなくなりそう…それにそろそろ夕食の支度…あれ、今日の当番って誰だったっけ。いづみさんだったっけ…朝に見たはずだけど、もう思考回路が上手く働かなくなっている。
瞼が閉じかけた時、頬に大きくて温かい手が触れて意識が少しだけ浮上する。

「半分寝てるだろ、もう少し寝るか?」
「んん〜……夕食の準備、」
「今日はカントクが当番だったはずだから、大丈夫だよ」
「そ、っか……」
「なぁ、はる」

そっと頬を撫でられて、それが気持ち良くて擦り寄ればゆっくりと唇を塞がれた。啄むようなキスを数回、シている時のような激しさは欠片もないけれど、十分気持ちが良くてボーッとしてきてしまう。
臣くんとのキスはまるで麻薬みたいで、もっと欲しくなるし、いつかどろどろに溶かされてしまいそうだと思う。

「俺も気持ち良かったよ。―――だから、何も心配しなくていい」
「ッ!」

耳元で聞こえる甘い声。甘い言葉。まだ余韻を引きずっているかのように、全身に甘い痺れが走り、お腹の奥がきゅんと疼いた。
文句を言いたいけれど、とろとろと落ちかけている意識ではもう何も言葉が紡げない。おやすみ、と囁かれ、優しく頭を撫でられてしまったら…もう抗う術はなくて。
ゆっくりと目を閉じれば、あっという間に夢の世界へ落ちていった。
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