運命の分かれ道
確かに工藤くん、蘭ちゃん、園子ちゃん、私の4人で行く予定でした。彼も2人に声をかけ、OKをもらったって金曜日に言っていたのを覚えている。それなのに…
どうして今、私は工藤くんと2人きりなのでしょうか。
日曜日の午前10時半に駅前集合。そう連絡があったのは昨日の夕方だ、連絡をくれたのはもちろん計画を立ててくれた工藤くん本人で。
実は本のことで仲良くなってから連絡先を交換したの。蘭ちゃんと園子ちゃんとも交換したんだよ。何かあった時に連絡先を知らないと色々と不便かもしれないから、って。
「あ、おはよう工藤くん」
「はよ。…あれ、蘭と園子は?」
「まだ来てないの。もう来る頃だと思うんだけど…」
腕時計を確認してみると時計の針はもうすぐ10時半を指そうとしている。本来ならもう来ていてもいいはずなのに、一向に来る気配がない。携帯に連絡も入ってないし、遅れるとか来れなくなったというわけではなさそうだけど…一体、どうしたんだろう?蘭ちゃんも園子ちゃんも。
もう少し待ってみよう、と工藤くんと話したんだけど、10分経っても20分経っても2人の影すら見えないのです。そこにきてようやく蘭ちゃんに電話をしてみたのだけれど、彼女が教えてくれた事実にあんぐり開いた口が塞がりません…!
『ごめんね、美緒ちゃん…いきなり行かないっていうのはアレかなと思ったんだけど』
「えええ…!今からでもいいから来てよ蘭ちゃん〜っ」
『うーん…せっかくだから2人で楽しんできて?いい機会だと思うし』
お互いに、ね?
え?お互いに、って誰と誰のこと?でもその理由を聞く前にプツッと電話は切れてしまった。事態が飲み込めなくて携帯を握りしめたまま呆然と立ち尽くしていると、少し離れた所で待ってくれていた工藤くんが心配そうな声で私の名前を呼んだ。
あああ、どうしよう…これ、どう説明するのが正解?やっぱりあれかな、色々伏せて蘭ちゃんも園子ちゃんも来れなくなったってことだけ言うのが一番いいかな。…だって深く突っ込まれたら答えらんないもん。
なので、急用ができて来れなくなっちゃったみたいとだけ伝えました。そしたらんなこと言ってなかったのに、とブツブツ文句を言いながらも仕方ないか、と苦笑を浮かべてる。
「あー…俺と2人きりっつーのは嫌かもしんねぇけど、」
「いっ嫌じゃないよ!むしろ嬉しいよっ!!……あ。」
「…ふはっんな必死にならなくてもいいって!本当に面白いよな、七瀬って」
工藤くんが笑って流してくれたから良かったけど、もしまともに受け取ってしまわれていたら…私は此処から即座に逃げ出してしまっていたかもしれない。きっと今、顔が真っ赤になってると思う…すごくあっついもん。誤解してほしくない、って思ったからって、あの言い方は告白してるようにも見えて明らかにやり過ぎちゃったよなぁ。笑ってくれてたから大丈夫だと思いたいけど、引かれてないといいなーと願うばかり。
…とりあえず、今は映画を楽しもう。観終わった後をどうするかとか、2人きりだけど緊張しないようにしたいとか、色々頭の中を巡ってるけどそれはまたあとで考えればいいよね。うん。
私はひとまず歩き出していた工藤くんの背中を追いかけた。
「はー…すっごく良かったね!」
「ああいうのって初めて観たけど、結構いいな。原作も良かったけど、映画も良かった」
「うんうん!映像になるとより感動するっていう感じがするなぁ」
「七瀬、後半泣きっぱなしだったもんな」
うう、そうなんです…恥ずかしながら、ずーっと泣きっぱなしで工藤くんも苦笑気味。自分でも引くくらい泣いちゃってたから工藤くんの反応は致し方ないと思いますです、はい。
せっかく化粧もしてきたのにボロボロ泣いちゃったから、物の見事に崩れちゃったもん。ある程度はトイレで直したけど、泣いてる顔はきっといつも以上にブサイクだったんだろうなぁ…それを工藤くんに見られちゃったんだと思うと、より恥ずかしくて仕方ない。
いまだに鼻をグスグス鳴らしながら、カフェで休憩をして感想を言い合っています。…正直、とっても幸せ。幸せすぎて、もう今なら何でも頑張れるような気がしてるくらい。だって最初は挨拶すらすることができなかったのに、それが今ではこうやって普通に話せるようになってるんだもの。何度も思ってるけど、びっくりする状況がずっと続いてるような気がする。
「でもさ、小説は小説の世界のままで楽しみたいと思ってたけど、でもこうやっていい映画になってるのもあるんならもっと見てみてぇかも」
「先に原作の小説を読んでから見ると、また違う発見があって楽しいと思うよ。私はそういう楽しみ方が結構好き」
「あ、それは今回思った!あのシーンは少し原作と違う、とか」
「そうそう!原作にはなかったシーンが追加されてたりとかね」
色んなことを話した。映画の感想から、この間彼から借りた本の感想とか、とにかくたくさん話してて、気が付いたら外はとっぷり日が暮れて真っ暗になっていた。
映画を観終わってこのカフェに入ったのがお昼過ぎだったはずだから、…わ、軽く3時間ちょっとは話し続けてたんだね。ちょっと調子に乗り過ぎちゃったかも…工藤くん、迷惑じゃなかったかな。
「ごっごめん!工藤くん!!私、すっかり調子に乗ってベラベラと…!」
「?何で謝んだよ、俺楽しかったけど」
「だ、だって…ずいぶんと長い間、喋ってたみたいだし」
「んなのは俺も同じだって、気にしなくて大丈夫。…とりあえず出るか」
とても自然な流れで伝票を持って、私の分まで会計をしてしまわれました。うーん、こういうのをスマートって言うんだろうなぁきっと。
「七瀬、今日は来てくれてサンキューな!すげー楽しかった」
「私もすごく楽しかった。誘ってくれてありがとう」
また遊びに行けたら、と思うけれど、まだどこか臆病な私はきっと自分から誘うことなんてできないんだと思う。だからこそ、今日の思い出をずっと大事に胸に抱いていたいんだ。…なんて、我ながら重いなぁとは思うけれども。でも自分の中で勝手に想っているだけなら自由だもんね。
じゃあ帰ろうか、と工藤くんの方を振り向く。振り向いた先で見た彼の表情は、ほんのり頬を赤く染めているように見えました。
「工藤くん?」
「…なぁ、七瀬。良かったら…さ、また一緒に出掛けねぇ?」
ねぇ、工藤くん。貴方のその言葉に、何か意味はあるの?
これ以上は何も望まないようにしようと、心に決めていたのに一体貴方はどれだけ私の心をかき乱してくれるのだろう。
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