いつまでも宙ぶらりん
工藤くんと2人きりで出かけてから、早一週間が経とうとしています。
でも私達の関係は特に何の変化もなく、今まで通り。進むことも、戻ることも…していないのです。
せっかく2人で出かけたのに私はただ映画と、彼とのお喋りを楽しんだだけで終わりました。いや、それで全く問題ないのだとは思うのだけど。…けど、今思えば、告白をすることだってできたのに…私はそれをしなかった。というより、全く考えてなかったっていう方が正しいかも。元々、工藤くんと2人きりだったわけじゃないしね。
だから最初からそんな大それたこと、これっぽっちも頭になかった。
チャンスだったんだと、思う。今までにないくらいの大チャンス。それもしっかり理解してはいるんだけど、でもようやく普通に喋れる間柄になったのに…って思う自分がいるのも本当で。
仲が良くなったからって告白する、なんて…そんなこと私には出来やしないんです。最近まで全く話すことはおろか、挨拶すらまともにできなかったんだしね。
「ええ?!じゃあ告白もせずに帰って来たわけ?!」
「ちょっ…園子ちゃん声大きい!」
「大きくもなるわよっ!せっかく2人きりにしてあげたっていうのに…!」
「まあまあ、園子。ほら、美緒ちゃんだってまだ新一と仲良くなったばっかりだし」
あまりの剣幕の園子ちゃんを蘭ちゃんが宥めてくれる。彼女の言葉を聞いて園子ちゃんも「それもそうか」と思ったらしく、大人しく座ってくれました。
はあ、良かった…でもこんなに怒られる?とは思わなかったなぁ。というか、やっぱりドタキャンしたのは園子ちゃん案なんだね。うん、蘭ちゃんに聞いた時にそんな気はしてたけどさ。
応援してくれる友達がいるっていうのはとても心強いし、嬉しいけど、やっぱり気恥ずかしいなぁ。そんなことを考えながら自販機で買ったパックジュースをズズーッと啜る。園子ちゃんの逆鱗には触れたものの、それ以外は比較的穏やかな放課後であると思う。
でも告白、かぁ…確かに工藤くんのことは大好きだし、いつかこの密やかな想いを告げられたらと思ったことがないわけじゃない。だけど、不思議と恋人になりたいって思ったことはなくて。
そりゃ、もっと近づけたら幸せだなーと思うよ?思うけど、今までの関係を思えば挨拶したり、本の貸し借りをしたり、時々メールをしたり、お喋りしたりすることが出来てるから…それだけで十分幸せなんだ。
これ以上を望むのはきっと、ダメ。それにこれ以上の関係になっちゃったら私、パンクする自信あるもん。
ポツリ、と声に出したら、お喋りしていた蘭ちゃんと園子ちゃんの耳にも届いたらしく「ええ?そうなの?!」って驚かれてしまいました。え、そんなに意外かな?
「友達になってから知ってはいたけど、美緒ちゃんって本当に謙虚というか何というか…」
「多くを望まない子、よね。アンタ」
「え?そう?十分、多くを望んでると思うけどなぁ」
「好きな人がいる奴は大体、相手の一番になりたい!って思うと思うんだけどなぁ」
うーん、確かにそれが一般論だよなーと思うけどね。ああそうか…蘭ちゃんと園子ちゃんの言う通り、私は多くを望んでないのかもしれない。でもそれは裏を返せば、ただの臆病者だってことだとも思うの。だって、この関係が崩れてしまうのが嫌だからこのままでいい、って思ってるのと同義だと思うから。心地良い関係を、失ってしまうのがとても怖いから。
工藤くんが私と同じ気持ちだってわかってるなら、きっと突進していくこともできると思う。けど、それはきっと確率がとても低い…ただの私の願望でしかない。確かにあの時、また一緒に出掛けようって言ってくれたけど…よくよく考えてみれば彼は「友達」としての私にそう言っただけで。恋愛感情とか、そういうのが一切ない言葉だったと思うんだ。私が、深読みしてしまいそうになっただけで。
「……ねぇ、蘭ちゃんはさ、工藤くんのこと好きだったんじゃないの?」
これ以上、考え込んでしまうとどんどんネガティブな方へ進んでしまいそうだったので脈絡も何もない話題を蘭ちゃんへと投げてみる。
すると、思っていた通り、びっくり顔の蘭ちゃんが出来上がりました。でもその顔もすっごい可愛い。すごい。
「え、なに?急に」
「だって2人って幼なじみでしょ?同じ高校に来るくらいだし、好きなのかなぁって」
「ははーん?美緒、アンタ、蘭と新一くんが付き合ってると思ってたんでしょ!」
「そりゃあ、…まぁ」
園子ちゃんの言葉に素直に頷けば、彼女も「そう見えるわよね〜」と頻りに頷いている。当の蘭ちゃんは苦笑を浮かべて頬をポリポリと掻いていて。どう説明しよう、とか考えてるのかな?別に私に隠れて付き合ってる、とか言われてもそんなにびっくりしないけど……いや、ショックは多分に受けると思いますが。そしてやっぱりびっくりするのも確定だと思いますが。
内心、とってもドキドキしながら言葉を紡ぐ蘭ちゃんの声に耳を傾けることにした。
「確かに私と新一は幼なじみだし、アイツのことは好きよ?でも、美緒ちゃんが心配するような関係じゃないんだ。それは本当だよ?」
「中学の時から誤解されること多かったけど、ほんとに付き合ってないんだよ。それは私も保証するわ!」
「…そ、か」
「うん。…だからね、美緒ちゃんの恋を応援したいって気持ちも本物だから」
そう言ってにっこり笑った蘭ちゃんは女神様みたいだった。私も彼女みたいに優しくて、可愛くて強い女の子だったら工藤くんに好きになってもらえたのだろうか。
一度傾き始めた暗い気持ちはそう簡単に消え去ってくれなくて、それはとうとう涙になってぼたぼたと流れ始めてしまった。
急に泣き出した私を見て2人は慌てた様子でどうしたの、と声をかけてくれるけど、嗚咽で引きつってしまってる喉では上手く言葉を紡ぐことができない。何も言えずにただ涙を流す面倒なことこの上ない私に、2人は次第に黙って傍にいることを選んでくれたらしい。その優しさがとても温かくて、また泣きそうになってしまったのは…私だけの秘密。
「ぐす、…」
「泣き止んだ?はい、タオル」
「ありがと、園子ちゃん…」
「急に泣き出しちゃったからびっくりしちゃった…私、何か傷つけること言っちゃったかな?」
私の顔を覗き込みながら心配そうな顔をしている蘭ちゃんに頭を振る。違うよ、と行動で示せば、そっかっと安心したように笑ってくれたけど。変な誤解をさせてしまったことに内心、シュンとなってしまう。
「違うの、蘭ちゃんのせいとかじゃなくて…っ!…蘭ちゃんみたいに、優しくて、可愛くて、強かったら…好きになってもらえたのかな、とか考えたら…」
園子ちゃんが貸してくれたタオルで涙で濡れてしまった頬をゴシゴシ拭きながら言えば、しーんと静まり返ってしまいました。
あれ?と不思議に思って顔を上げてみると、蘭ちゃんと園子ちゃんは何とも言えな表情で頭を抱えてる。…本当にどうしちゃったんだろ、それとも私が変なこと言っちゃったのかなぁ?
「あのねぇ…アンタ、何で急にそんな方向へ話が飛んだのよ」
「何で、と言われても急にとしか言いようがないんですけど…」
「ねぇ美緒ちゃん。私は私で、美緒ちゃんは美緒ちゃんなんだよ?美緒ちゃんにはたっくさんいいとこあるし、私はそんな美緒ちゃんが好きなんだけどなぁ…」
「でも、」
「自分と他人は全く違うから、羨んじゃう気持ちもわかるけどねぇ。…でもさ、美緒。アンタはそのまんまでいーの!」
そのまんまのアンタじゃないと、意味ないのよ。蘭と同じになったって、それは美緒自身じゃないの。
にぱっと明るい笑みを浮かべながら、園子ちゃんは豪快に私の頭を撫でてくれた。撫でた、っていうより、確実に髪の毛を乱してくれたっていう表現の方が正しそうな気もするけど。…でも2人の言葉に、どこか救われたような気がした。
私は私、蘭ちゃんは蘭ちゃん。違う人生を生きてきた人間なんだから、違って当然。
うん、そうだよね。同じなわけないし、園子ちゃんの言う通り、蘭ちゃんと同じになってしまったらそれはもう私ではなくなってしまう。彼女のようになりたい、って気持ちはきっと消えないけど、それでもそれを羨む時間があるんなら自信がない所を少しでも直していく努力をしていった方がいいのかもしれない。
今の私を、今までの私を―――いつか、好きになってもらえるように。
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