視線の先
授業を終えて教室に戻ろう、と席を立った時、ふと机の上に何かが置いてあることに気が付いた。いつもだったらそのままにしてしまうはずなのに、この時ばっかりは気になってその机に近づいたんだ。
それが、始まりだった。
side:新一
「新一さ、美緒ちゃんに好きって言わないの?」
蘭、園子、七瀬と4人で帰ることが割と定番になってきた頃。用事がある、という七瀬は先に帰り、俺達はファーストフードに寄り道中。
ポテトを食べながら駄弁ってたら蘭が急に変なこと言い出すもんだから、思いっきり噎せた。くっそ、噛み砕いたポテトが変なとこ入った…!
ゲホゲホ噎せてたら、園子まで蘭に便乗しやがってニヤニヤしながら「早く告白しちゃいなさいよ〜」とか言ってやがんだけど。お前ら他人事だと思ってめちゃくちゃ楽しんでんだろ!!
「…何で急にそんな話になってんだよ」
「だってじれったいのよ、新一くん。どー見たってアンタの視線はいつだって美緒に向いてんじゃない!」
園子の言葉にグッと黙り込んでしまう。
…そう。コイツの言う通り、俺はいつだって七瀬のことを追ってる。最初はただのクラスメートだったのに、話してみたら案外気が合って、本の貸し借りとかするようになって…そうすると感想とか、そういうのでメールもするようになってさ。気が付いたらただのクラスメートから、気になる女の子になってた。好きになるまで、そんなに時間はかからなかったんじゃねぇかなぁ。
この前、初めて七瀬と2人で出かけてすっげぇ楽しかったんだ。いきなり2人きりになっちまったのはどうしようかと思ってたけど、でも学校じゃ見れない一面を見れたような気がして。
だからこっそり来れなくなった蘭と園子に感謝してたりする。…けど、まだ告白するような間柄じゃねぇだろ、どう見ても。
「はぁ…そんな悠長なこと言ってると、知らない誰かにとられちゃうかもしれないわよ?」
地味に見えるかもしれないけど、笑うと可愛いしねぇ。
その言葉に、俺は文字通りビシッと固まった。そう、七瀬は目立つのが苦手なのか、教室では静かに本を読んで過ごしていることが多い。でも友達と話してる時に見せる楽しそうな顔は、園子が言った通り可愛いと思う。思いっきり笑ってる時は尚更だ。惚れた欲目だと言われようと何だろうと、笑顔がめちゃくちゃ可愛い。
それにクラスの奴らも笑った七瀬を見て、可愛いよなーあの笑顔!って言ってんのを聞いた記憶があるし。
普段と違う可愛い一面があると、人間は恋に陥りやすい傾向にある。実際に俺もそうだった、気が、するし。だから、七瀬に恋してる奴がいないとは断言出来ねーっつーのが現実ってわけ。
だから…今のこの状況に甘んじてぐずぐずしてっと、他の誰かのモンになっちまうかもしれねーってことなんだけど。
「それは、…嫌だな」
「でっしょー?ならさっさと告白しちゃえばいいのよ!男なら当たって砕けろ、でしょ!」
「砕けたくねーから言ってねーんだろうが!!」
「新一、園子、ここお店の中だから声のボリューム落として…」
「「あ。」」
俺も園子もヒートアップしちまったらしく、蘭に止められるまで此処が店ん中だってことすっかり忘れてた。ヤベーヤベー。
…告白、か。確かにさ、この前出かけた時だってそれを思わなかったわけじゃあない。彼女の隣にいつだっているのが自分だったら、って考えると、勢いに任せて言いたくなった時だってあった。でもよ、必ず受け止めてくれるわけじゃねーだろ?成功する確率なんて、めちゃくちゃ低いだろうし。
蘭と園子が来れないって聞いた時、俺と2人きりなんて嫌だろうけど、って言った時。必死にそんなことない、嬉しいって言ってくれた彼女の顔…すげー真っ赤だったんだ。まるで全身で俺のことを好きだ、と言ってくれてるみてーで勘違いしそうになった。いや、マジで。
あれが勘違いじゃない、とかだったら俺、舞い上がる自信あるわ。ま、んな都合のいいことないだろーけどな!
「でもさ、新一。美緒ちゃんのことが好きで、誰にもとられたくないのは事実なんでしょ?」
「…おう」
「それなのに告白しようと考えてないのは、今の関係を壊すことが怖いから?」
蘭の言葉がぐさりと、胸の奥まで刺さったような気がした。
…そうだ。色々御託を並べようが何だろうが、俺は今の関係を壊したくないだけのただの臆病者。ようやく得ることが出来た彼女の隣を、友達としての立場を失いたくないって思ってる。今の関係を維持できんなら、別に告白なんざしなくていいとさえ思ってる。でも他の奴らにとられるのも、嫌だ。あー…自分で言うのも何だけど、矛盾してんなー俺。
素直にそう言えば、2人して苦笑しながら似た者同士だね、と呟いた。似た者同士って、…誰と誰がだよ?
「新一くんの言ってることもよくわかるけど、…いーい?もしあの子に彼氏が出来たとしたら、アンタは見向きもされなくなるのよ?」
「う…」
「それどころか、友達としてだって出かけられなくなる。隣にいられなくなるかもしんないってことなの、わかってる?」
そこまでは考えてなかった。今の関係のままでいられれば、それで幸せだと思ってたけど…そうもいかなくなるってこと、何で思いつかなかったんだろ。誰にも渡したくない、と思ってたって、それだけじゃ何にもならないのに。
彼女が誰かのモンになっちまったら俺は、今の場所にいることはできない…ちゃんと考えればすぐにわかることだってーのにな。
このままぬるま湯に浸かってるかのような幸せに身を委ねるか、それとも―――んなの、もう答えは決まってんじゃねぇか。
「ワリィ、用事思い出したから帰る」
「はいはい。頑張ってきなさいよ〜新一くん!」
「うっせ!」
店を飛び出し、夕陽で赤く染まる街へと駆け出した。
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