始まりは、
何事も諦めるな、と昔、誰かが言っていたような気がする。諦めないことは美しいことだとは思うけど、だからと言って諦めなければ全ての望みが叶うわけでもないのになぁ…とか考えてた。
だからいつしか私は、最初から諦めていたように思うんです。
「メール…?」
用事は早々に終わり、自分の部屋でのんびり本を読んでいたら携帯がメールを受信した。かなり集中していたらしく、外はもう夕焼けで真っ赤に染まっている。帰ってきたのが4時前だったはずだから…もう5時過ぎって所かなぁ。
読んでいたページに栞を挟んでから、机の上に放置したままだった携帯に手を伸ばす。再びベッドに寝転がってメールを開いてみたら、送信者はまさかの方。
あまりにびっくりして送信者の名前を二度見して、一度携帯を閉じてまた開いて、更にはガン見してみた。…けど、何をしてみてもその名前は変わることなくそこに存在している。ってことは、これは夢じゃないってことで。
震える指でボタンを操作して未読のメールを開く。うわ、ヤバイ、これ何でかわかんないけどめっちゃ緊張する!!一体、何が書かれているんだろう…?
『急にごめん。話したいことがあるんだけど、近くの公園まで出て来れねぇ? 工藤』
何度視線を滑らせてもそこに書かれているのは、呼び出しの文面。てか、話したいことって何さ工藤くん…!その話を聞きたいような、聞きたくないような…うう、すっごい複雑だ。
でっでも出て来れないかって書いてあるってことは、きっと工藤くんはもう公園に来てるってことだよね?行かない、って選択肢もあるけど…どうしてだろう、今ここで行かないことを選択したら私、この先ずっと後悔するような気がしてるんだ。どんなことを話されるかもわからないのに。
ギュッと携帯を握って、私は部屋を飛び出した。
「っ工藤くん!」
「…七瀬」
運動が苦手ながらも自分に出せる全速力で公園までダッシュ!呼吸困難になりそうなくらいに苦しいけど、でも早く早くと気持ちが逸ってしまって仕方なかったんだ。気が付いた時にはもう、私は全速力で走っていた。そのおかげか歩くと10分くらいかかる公園まで5分ちょっとで着くことが出来ました。…でもこれ、話できる状況じゃないよね…!ああ、やっぱり私は馬鹿かもしれない。
体を折り曲げて必死に呼吸を整えようとしていると、大丈夫か?と差し出された缶ジュース。どうやら私が息を切らせているのを見て、たった今そこの自販機で買ってきてくれたらしい。わー、優しいなぁ工藤くん。
立ったまま話すのはアレなので、空いてるベンチで話をすることにしました。
「ごめんな?急に呼び出しちまって」
「ううん、大丈夫!用事はとっくに終わって家で本読んでたくらいだし…」
それに、緊張はしているものの…工藤くんに呼び出されたの、結構嬉しかったんだよ?こんなの好きだ、って言ってるようなものだから心の内にそっと閉じ込めておくけどね。だって言えるわけないもん、こんなこと。
さわさわと柔らかな風が私達の髪を揺らす中、何も言葉を発することなくただベンチに腰掛けていた。何か話さなくちゃ、とは思うんだけど…ほら、工藤くんが話したいことあったみたいだしそれを遮っちゃうと良くないかなぁ、って思ったりしてるんですよ。それに、…何となく話しかけにくい雰囲気でして。ベンチに座ってから工藤くんは難しい顔したまま何かを考え込んでいて、いつもは自由に動かされている口元も今はきゅっと一文字に結ばれてしまっている。
どうにもできないのでもらったジュースを飲みながら、大人しく待とうと思います。
「(あ、このジュース美味しい…てか、お金払ってないや!)」
「…なぁ、七瀬」
「へっ?!は、はい!」
しまった、財布忘れた!とか全く関係ないことを考えていたら、不意に工藤くんに名前を呼ばれた。案の定、びっくりして返事した声はバッチリ裏返ってました!…これ、初めて話した時にもあったなぁ…なーんて、ちょっと遠い目になりますよ私。
ブッと吹き出した工藤くんはくつくつと楽しそうに笑ってらっしゃいます。笑われたのはとてつもなく恥ずかしいけど、でも彼が笑ってくれたから良かったかなー。さっきみたいな顔もカッコ良くて好きだけど、やっぱり楽しそうに笑ってる工藤くんが一番好きかもしれない。カッコいいし、可愛いって思うから。…っと、また思考が飛んじゃう所だった。話したいこと、まとまったのかな?
「はー、笑った!」
「そこまで大笑いされると逆に清々しいよ…」
「ワリーワリー。……で、さ。話したいこと、なんだけど」
「あ、うん。なに?」
グッとこっちに向き直った工藤くんの表情はとても真剣で。思わずドキッとしてしまいました。それと同時に、彼の口から紡がれる言葉にとても不安を覚えてしまった。何を言われるかはまだわからない、でもこんなに真剣な表情になるってことはあまりいいことではないんだろうなって。死刑宣告された人ってこんな気持ちなのかなぁ…誰かに確かめることなんてできやしないけど。
口から心臓が出てくるんじゃないか、ってくらいにドキドキしてるんだ。それこそ今すぐ逃げ出してしまいたいくらい、に。…いや、いくら何でもそんなことしたりしないけど!!
汗ばんで震える両手をギュッと握って、ひたすらにじっと待つ。
「俺、さ。…美緒が好きなんだよ」
「………へ?」
ようやく耳に届いた工藤くんの声は、言葉は私の妄想?それとも幸せすぎる夢?
理解力が低いのか、それとも頭が機能していないのか、工藤くんが言った言葉をしっかり受け止めるまで数分時間がかかってしまった。え、ちょ、待って…本当に?これは、…言葉通りの意味で受け取ってもいいの?信じた途端、ドッキリでしたー!ってネタばらし、ないよね?看板持った蘭ちゃん達が出てきたりしないよね?!
「す、き…?工藤くんが私を?」
「おう。オメーが好きだ、七瀬。言っとくけど友達としてじゃねーかんな!」
「本気にして、いいの?」
きっと私の声は震えてたと思う。それでも隣に座ってる彼にはしっかり届いていたようで、当たり前だろと声が返ってきました。嘘、でしょう…?こんなに嬉しくて都合のいいことが起きちゃっていいのかな?
嬉しすぎてじわじわと目に膜が張り始めた。ダメ、まだ泣いちゃダメだ…だって私、工藤くんに何も言ってない。好きだって言ってくれた彼に、何も返してないんだよ。私も、って言わなくちゃ、私も貴方が好きなんです、ってちゃんと言葉にしなくちゃ。
せっかく、工藤くんがきっかけをくれたんだから。
「…七瀬?」
「あの、わたし、…私も、工藤くんが好き。大好きなんです」
顔を見ることが出来なくて、でも私の気持ちが本物だって知ってほしくて、膝の上に置かれていた工藤くんの手をぎゅうっと握ってそう言葉を紡いだ。
「だから、あの…」
「マジか!すっげー嬉しい!!」
「くっ工藤くん…?!」
思いっきり引っ張られたと思えば、次の瞬間には工藤くんの腕の中。あまりの出来事に今度こそ脳の処理が追いつかなくてパンクしてしまいそう…!
ああでも、とってもとっても幸せだぁ…工藤くんが同じ気持ちでいてくれたことも、また違う形で…彼の隣に立つことが出来ること。貴方にとって私は特別な女の子なんだ、って自惚れてもいいんだよね?
(聞いたわよ〜美緒!新一くんとくっついたんだって?)
(えっ何で知ってるの?!今日、会ったら言おうと思ってたのに…!)
(私が新一に聞いたんだ。良かったね、おめでとう!)
(あ、ありがとう蘭ちゃん…園子ちゃん…!)
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