繰り返される悪夢
文化祭は無事終わり、騒ぎに騒がれた男装&女装コンテストの影響も少しずつ落ち着いてきたような気がする。とは言っても、結構長い期間、追い掛け回されたんだけどね私。+告白も増えた。それも男女問わずで。
まあね?可愛い女の子達に好きです!って言われるのは案外嬉しいものなんだけど、…男たちからの告白がなー…何とも言えないものだったんだ。
普通に好きだ、って言われるんだったら断ればいいだけの話なんだけど、そうじゃなかったんだもん。抱いてください、とか、そんなんばっかで。…言っておくけどね!私は男装をしただけであって、性別は女なの!!それなのに何でそんな告白されなくちゃいけないのよ。
これじゃあときとーが言ってた通り、抱かれたいランキングに入っちゃいそうな気がして怖い…シャレになんないっつーの。
「そういえば奏、ちょっと気になってたんだけどさ…」
「なぁに?かずちゃん」
「アンタって男嫌いなの?」
珍しく静かな放課後。いつものように執行部の部室でお菓子を食べながら、誠人くん達とのへーっとしてたら本を読んでいたかずちゃんが疑問の声をあげた。突拍子もない質問に私はポッキーを咥えながら、文字通りビシッと固まってしまった。
…あれ?私、彼女の前でそんな疑問を持たれるような行動をしたことあったっけ?質問に質問で返すのは失礼かな、と思いつつも気になって仕方ないのは明らかなので、素直に口に出させてもらった。どうして?って。
「それは俺もちょっと気になってました。小鳥遊先輩、時々、そんな風に見えますよね」
「私、そんなあからさまな態度とってた?」
「注意深く見てないとわかんないと思うから、あからさまじゃないわよ」
かずちゃんと藤原曰く。最近告白の呼び出しをされてた時、女の子が相手の場合は終始ニコニコ笑ってたけど、男相手の場合は笑ってはいるんだけど苦笑に近いというか…どう見ても愛想笑いにしか見えなくて、もしかして男嫌いなのかもって思ったんだってさ。
成程ねー…2人共、よーく見てるなぁ。此処にいる時に呼び出されたのってほんの数回なのに。かずちゃんは同じクラスだから、その時に見かけたこともあったみたいだけどね。それに普段はかずちゃんといることも多いし。
…っと、それより彼女の質問に答えなくちゃいけないわよね。正直、藤原はどーでもいいんだけど。
「んー…まぁ、そういうことになるのかなー。女の子の方が好き」
「そうだったの?」
「うん。だって女の子の方が柔らかいし、可愛いし、愛でたくなるでしょ?」
首を傾げてそう言葉を投げかけてみるものの、同意を示してくれたのは誠人くんとときとーのみ。
藤原は元々、誠人くん大好きっ子だから同意してくれるとは思ってなかったけど、かずちゃんもかぁ…ちょっと残念だけど、私の考え方がもしかして一般的じゃないってことなのかな?
「じゃあ何で久保田先輩と付き合ってるんですかっ!女性の方がいいなら俺に譲ってくださいよー」
「何言ってやがんだ藤原ァ!!」
「べっつに時任先輩には言ってないでしょー」
あーあ…まぁた始まっちゃったよ、ときとーと藤原の喧嘩。別にいいけどね、部室の物を壊したり私達に被害がこなければ。
でもまぁ、藤原の言ってることもわからないでもないんだけどねぇ。それでも誠人くんとときとーだけは誰にも譲ってあげない、渡さない、奪わせたりなんかしない。この2人は私にとって誰よりも大切な人達なんだから。
「悪いわね、藤原」
「え?」
「誠人くんは譲らない。…というか、私が手離すわけないでしょ?力づくで奪いに来たって絶対に渡したりしないから」
だから、いい加減諦めなさい。
にっこりと笑ってそう言えば、藤原はむーっとした顔になって即座に嫌です!って吐き捨てた。ま、そーでしょうねぇ…そう簡単に諦めてくれるような性格をしてたら、私達が付き合ってるって教えた時点で諦めてるに決まってるわよね。
それなのにいまだに誠人くんを自分のものにしようと頑張ってるんだから、その辺りの度胸というか…努力は認めざるを得ないけど。
「だいじょーぶ?奏」
「誠人くん、…へーき。ちょっと考え事してただけだよ」
「あっごめんね、奏。もしかして聞かれたくないことだった?!」
「別にかずちゃんのせいじゃないから気にしないで。…うん、でもこれ以上は触れないでいてくれると助かるかなぁ」
へらっと笑みを浮かべてそう言うと、かずちゃんはやっぱり申し訳なさそうな表情を浮かべて、消え入りそうな声でごめんね、ともう一度呟いた。ああ、そんな顔をさせたかったわけじゃないんだけどなぁ私。
そんな彼女にごめんね、と言いたくなるけれど、それを告げてしまったらこの優しい親友はきっともっと悲しそうな顔になってしまうだろうからそのままグッと飲み込んだ。だって大好きな友達にはずっと笑っていてほしいでしょう?それも自分のことで表情を曇らせてしまうのは嫌だもの。
「今日は平和みたいだし、私、先に帰るね」
「あ、待てよ小鳥遊!それなら俺達も一緒に…」
「1人で帰れるよ、子供じゃないんだから。それに誠人くんとときとーは下校時刻までいた方がいいでしょ?エースなんだから」
「…気を付けてよ?カナ」
誠人くんの言葉に笑って頷き、私は部室を後にした。
私の過去、というか…事情を知っている誠人くん達は、思っていた以上に過保護で。大丈夫だと言っているのに、校外を1人で歩くのをよしとしない。心配してくれるのは嬉しいんだけど、すぐにどうこうあるわけじゃないし…逆に今はとても平和なのだ。あの頃に比べれば、断然。
だからあんなにも過保護にならなくたって、何の心配もいらないって何度も言っているのになぁ。それを言う度にいつどうなるかわかんないんだから、と怒られてしまうんだ。誠人くんは静かに、ときとーは感情的に怒りを表していたんだっけ…仲は良いのに、そういう所は対照的なんだよね。あの2人。
下駄箱で上履きからローファーに履き替えた時、ブレザーのポケットに入れっぱなしにしていたケータイが震えていることに気が付いた。あれ?誰だろ、…もしかして誠人くんかときとーかな。もしくはかずちゃんとか。
何も考えずに出たその電話が、全ての歯車を狂わせていく合図だったなんて…私はこの時、微塵も疑っていなかった。