純情恋唄


「俺、カナのこと好きなんだけど。俺じゃダメ?」

幼なじみ、と言っていいのかわかんないけど、小中が一緒で最近は家の事情で助けてもらった彼―――誠人くんと一緒にいることが増えていた。一緒に住んでいるというときとーも話しやすい奴で、私はすんなりと2人の間に馴染んでいったのです。お母さんは相変わらず家にいないことが多いから、2人の家に入り浸っちゃうことも増えたしね。もちろん、そのお礼にご飯作ったりしてるけど。
…まぁ、そんなことは置いておいて。この日はときとーが珍しくいなくて、彼らの家に誠人くんと2人だったんだ。そしたら冒頭の言葉が発せられたわけでして、私は間抜け面のまま数分固まりました。…いやだって固まりもするでしょ?!急に告白なんかされちゃったら…!

「えっあっの、…?!」
「面白いくらいに動揺してんね」
「動揺するよっいきなり何言ってくれちゃってんの!!」
「俺としては最高のシチュエーションかな、と思ったんだけど」
「う、…確かにときとーがいたら言えないとは思うけども!」

返事は今すぐじゃなくていいよ、ゆっくり考えてくれたら嬉しい。
この日はそう言われて私は真っ直ぐ家に帰ったんだ。帰ったらお母さんが珍しくいて、ご飯を作ってくれていた。わ、平日の夕方にお母さんがいるってすっごい久しぶりな感じだなぁ。
ただそれだけのことなのに嬉しくて、急いで手を洗ってお母さんのいるキッチンへと向かった。

「あら、奏おかえりなさい」
「ただいま!今日は早かったんだね」
「ええ、仕事がひと段落したのよ。もう少しでご飯出来るからね」
「あ、カレーだ」

誠人くんとときとーと仲良くなってからは1人でご飯食べることは少なくなったけど、でもやっぱり家族と一緒に食べるご飯っていいなぁ…幸せってこういうことを言うのかも。
久しぶりにお母さんの手料理をお腹いっぱい食べて、のんびりお風呂にも入って、テレビを見ながらアイスを食べていたらお母さんに声をかけられた。何だか楽しそうな声音で、もしかして何か良いことでもあったのかなぁ?企画が通ったとか、昇進できたとか。にこにこ笑ってるお母さんになぁに?と返せば、思わぬ言葉を紡がれたのであります。

「……へ、」
「だぁから、貴方、好きな人でもできたの?」
「なっななななな、なんで急にそんなこと聞くの?!」
「今日、ちょっと様子がおかしいし…でも最近、楽しそうにしていたでしょ?だからもしかして、って」

お、恐るべしお母さんの観察眼…!私自身、そんなに変わった感じなかったのに!今日だって上手く隠してたはずだったのになぁ…というか、毎日、朝のちょっとした時間しか顔を合わせてなかったのにそんなのわかっちゃうのって、やっぱり家族ってすごいのかも。
…どうしたらいいかわかんなくなってたし、お母さんに相談してみるのもいいかな。意を決して今日、誠人くんに告白されたことを言ってみた。助けてもらった時に2人は顔を合わせてるし、何気にお母さんも誠人くんのこと気に入ってたからよく覚えてたみたい。小中一緒だったから、その時の記憶も少しあるみたいだし。

「ああ、あの眼鏡の久保田くんね」
「うん…どうしたらいいんだろ…急にあんなこと言われても、」
「あんな事件があった後でもあるしね。…怖くはないの?久保田くんのこと」
「え?うん、怖くないよ。誠人くん優しいし」
「触れられたら嫌だ、って思う?」
「…今はまだ、ちょっと怖いって思うかもしれないけど、でも誠人くんなら嫌だとは思わない。…かも?」

疑問形にはなっちゃうけど、でも、うん、想像してみても鳥肌立たないし、気持ち悪いとも嫌だとも思わないと思う。誠人くんはあの人とは似ても似つかないし、あんなこと―――しないって、信じてるから。
恥ずかしいけど素直にそう言えば、ならそれが答えなんじゃないかしら?って微笑まれた。

「好き、なのかな…」
「それは奏、貴方本人にしかわからない感情よ。だけど、特別な存在なのは確かじゃないかしら」
「とくべつ、」

お母さんの言葉を反芻して、私は彼のことをどう思っているのかもう一度考えてみる。
飄々としていて何を考えているのか全くわかんないけど、笑った顔は存外可愛いし、時々見せる真剣な顔はすごくカッコイイと思う。それに結構優しいから私もつい甘えたくなっちゃうんだよね…でもそれについて何も言ってこないから、また調子に乗っちゃいそうになる。
好きだ、って言われた時、びっくりしちゃったけど、でも…嬉しいって感じた自分が確かにいたの。誠人くんの傍にずっといられたらいいのに、って思うのも―――私が彼を好きだから?





「―――誠人くん!」
「カナ?珍しいね、学校帰りに会うなんて」
「ちょっと話したいことあるんだけどさ…ときとー、誠人くん借りてもいい?」
「おー。んじゃ先に帰ってる」
「ごめんね、時任」

手を振ってまたね、とときとーの背中を見送ってから、私達は近くの公園のブランコに腰を下ろした。この時間だとさすがにもう子供は遊んでないんだなぁ…。
よし、いつまでも黙っていたって仕方がない。腹を、括らなきゃ。勢いをつけてブランコから飛び降り、きょとんとした顔で私を見上げてくる誠人くんの前に静かに立った。

「カナ?」
「…あのね、私、あの日からずっと考えてたの。告白の返事」
「うん」
「私、…好きって気持ちがよくわからない。けど、誠人くんの傍にずっといられたらって思うんだ…ハッキリしろって言いたいと思うんだけど、それじゃ…ダメ、かな?」

好きって気持ちを、君が教えて。

「ダメなわけないっしょ?…いーよ、何年かけてでも俺に惚れさせてあげるから」

そう言って笑った誠人くんは、今までで一番嬉しそうに笑っていた気がする。






「カナ、カナってば、いい加減起きなさいって」
「んぅ、…あれ、」
「お、小鳥遊ようやく起きたのか」
「ほら奏、もう正門閉められちゃうから帰るわよ?」

揺さぶられて目を開くと、そこには誠人くんとときとーとかずちゃんの姿。一瞬、此処は何処だって思ったけど、執行部の部室にいたことを思い出す。
そうだ、誠人くんとときとーが公務執行に駆り出されてる間、することなくて暇だったから窓際の席にいたら…日差しがびっくりするくらい温かくて気持ち良かったんだ。自分でも気が付かないうちに爆睡しちゃってたってことか。
それにしても、懐かしい夢を見ちゃったな…懐かしい、って言っても、ほんの2年くらい前のことだけどさ。

「奏ー!置いてっちゃうわよ」
「わっ今行く!」

あの時。私は本当に好きってどういうことなのかよくわからなくて、でも誠人くんを失うのは嫌だって思って。それでようやく導き出した曖昧な答え。
それなのに誠人くんは受け止めてくれて、嬉しそうに笑ってくれて、…間違ってはいなかったかも、って思ったんだ。
だって今の私は、確実に誠人くんに恋をしているから。

「誠人くん。今はちゃんと好きだからね」
「?なーに、急に」
「ふふっ伝えたくなっただけ!」

好きになってくれてありがとう。傍にいてくれてありがとう。…好きって気持ちを教えてくれて、ありがとう。
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