私とせんせい


ちょっとしたことでもいいから進展したい、なんて考えるだけ無駄だと思うけど。
それでも少しだけ、他の生徒より特別扱いしてくれないかな、って思うのは…やっぱりダメかな?

何かしら部活に入っている友達とは違い、帰宅部である私は放課後、割と暇です。たまにかすがちゃんや真田くん達の部活を見学に行ったり、応援に行ったりはしてるけど…基本的には、暇です。委員会だって月に1回あるだけだしね。
今日も今日とて皆が部活に行ってしまった後、まだ少し賑やかな教室で本を読んでいたんだけどキリがいい所まで読み終わったから、さて帰ろうと教科書や筆箱をカバンにしまっていた時。担任である片倉先生がひょっこりと顔を覗かせた。
うわわ…っ!放課後に先生の顔見れるなんて、ラッキー!少しだけ残ってて正解だったかも。

「浅野、ちょっといいか」
「へっ?…あ、はい!」

いきなり名前呼ばれたからビックリして、反応が一瞬遅れちゃった…!
カバンを机の上に置いて先生に走り寄れば、時間があるなら少し手伝ってほしい、と言われました。どうして私に?と思ったけど、でも密かに恋をしている先生のお役に立てるのならば、断る理由なんてどこにもないよね!それに今日は何も予定なかったし、ちょうどいいや。
にっこり笑っていいですよ、と返事をすれば、そのまま職員室に…と思いきや、まさかの生徒指導室に案内されました。…そういえば忘れてたけど、片倉先生って生徒指導もしてるんだっけ。風紀委員の友達が片倉先生のチェックは厳しいんだ、って前に教えてくれたことがあったな。
でも此処で何をするんだろ?お手伝いはてっきり数学の授業で使うプリントの準備とかだと思ってたのにな。

「何をすればいいんですか?」
「これをホッチキスで綴じてくれ。ちょっと量が多いが、…頼む」
「……本当に多いですね」

ドサリ、と置かれたプリントはなかなかの枚数だ。話を聞いてみれば、明日生徒に配るプリントらしいのだけど…さっきまで綴じていた生徒が逃げ出してしまったらしい。それで校内を捜していたら私を見つけたので、これ幸いとお願いされてしまった…らしい。てか、そんな理由だったの?!
ま、まぁ…理由はどうあれ頼まれるの嫌いじゃないし、何より片倉先生の為だし…頑張ろう!うん。肝心の先生は顧問をしている剣道部の様子を見に行かなきゃいけないらしく、ご退出されちゃいましたけどねー!一緒に出来るんだ、とさっきまでウキウキしていた私、とても恥ずかしい。
そんなこんなでちょっと沈んだ気持ちで始めたプリント綴じ。こういう黙々とやる作業は案外好きなので、ちっとも苦じゃない。1人でやってるから話しかけられて注意力散漫になることもないし、…静かな環境での作業ってやりやすいんだなぁ。
そんな変な感動をしながらパチン、パチンとプリントをホッチキスで綴じていく。大分集中していたらしく、プリントの束があと数センチというところまできた時にはすでに1時間半が経過していた。

「お、あと少しじゃねぇか」
「片倉先生!」
「悪ィな、浅野。貴重な放課後にこんなこと頼んじまって」
「大丈夫ですっ帰宅部で何も用事ないですし、こういう地味な作業って結構好きだから」
「そうか」

コトン、と机の上に置かれたのはオレンジのパックジュース。どうしたんだろ、コレ。先生が飲む為に買ってきたのかな?でも先生はジュースっていうよりコーヒーのイメージだよね。それもブラック!
置かれたパックジュースの意図が読み取れず首を傾げていると、飲めと言われました。どうやらこれは先生が私の為に買ってきてくれたもの、らしいです。

「えっ、え…?!」
「手伝ってくれた礼だ。…ああ、もちろん他の奴らには内緒にしとけよ」

意地悪く笑って、しーっと指を口元にもっていく仕草は反則だと思います…!
というか、先生ってこんなお茶目?な仕草することがあるんだ。何て言うか、…すごく意外。こんな柔らかく笑うってことも知らなかったし、意外な一面を発見しちゃった。
さっきの仕草も、今の笑みも、普段の先生からは全く想像がつかないし、きっと今回のお手伝いがなかったら私も知ることなく卒業することになっていたんだろうなぁ。不意打ちで見ちゃったから心臓がうるさいくらいにドキドキいってるけど、いいもの見ちゃった…!何だか秘密を知っちゃった気分だ。

―――キーンコーン…

「最終下校の鐘か。すまんな、遅くまで残らせちまって」
「大丈夫ですよ、まだそんなに暗くなってないですし」

綴じ終わったプリントをまとめていると最終下校時刻を知らせる鐘が鳴り響いた。
ああでも、何とか綴じ終わって良かったな、この時間までに終わらなかったら正門しめられちゃって裏門から怒られながら帰ることになる所だった。…あ、でも先生のお手伝いで残ってたなら怒られることはないのかな?もしかしたら。
そんなことを考えていたら、片倉先生に片付けは大丈夫だからもう帰れと言われてしまった。うう、もう少しお話とかしていたかったけど…先生にそう言われちゃったら帰らなくちゃいけないよね。

「じゃあ、先生。さようなら」
「ああ、気を付けて帰れよ。…それと今日は助かった。ありがとな」
「いいえっ!ま、またお手伝いすることあれば何なりと…!」

斜め上の返答をしてしまったらしく、生徒指導室を出る時に見た先生は大爆笑していました。
笑われたことは恥ずかしいけど、でもあんなに笑った先生は一度も見たことなかったしちょっと得した気分にはなった。…でもやっぱり複雑。
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