私とそつぎょう
どんなに仲良くなったとしても、話せるようになったとしても、あの人にとって私はただの生徒でしかない。それ以上になんてなれるわけが、なかったんだ。
それをわかっていても最後くらい、きちんと向き合いたいって思ったんです。
月日は流れに流れ、私達もついに高校を卒業することになった。当然ながらその後の進路先なんてバラバラで、これからは今までのように毎日会うことは不可能に近いのです。いや、一人暮らしをすることがなければずっとこの街にいるだろうし、それに連絡先だって知ってるんだから会うことはできる。それこそ、いつだって。
けど、それは友達の場合。先生とは、もう気軽に会うことができなくなるんだなぁって思うと、やっぱり寂しいなぁって思うんだ。此処に来れば会えるだろうし、OGだったら先生も警戒することなく会ってくれるんだと思うけど、でも先生達にも転勤というものがあるわけでして…いつまでこの学校で先生をしているかなんて、卒業してしまったらわかるわけもないんですよねー。
卒業式も無事終わり、最後のHRも終わった。これで本当に3年間の長いようで短かった高校生活は、終わりを迎えたのだ。今思えば、もっとしておけば良かったなーとか思うこと、たくさんあるけど…でもまぁ、それもいい思い出ってことで胸にしまっておこうと思います。門出であるこの日に後悔しまくってたら意味がないからね。
この後、皆でカラオケでも行こうって話になっていたんだけど、どうしても済ませたい用事があった私はかすがちゃんに少しだけ待ってて、と伝えてこっそり教室を抜け出した。捜し人はもちろん、片倉先生。もう会えないかもしれないんだ、最後かもしれないんだって思ったら、勇気を出して伝えなくちゃって思ったの…迷惑にしかならないと思うけど、私の恋心を。
「あっあの!片倉先生!」
「浅野?どうした、もうHRは終わって下校していい時間だろう」
「そ、うなんですけど、…少しだけ先生に伝えたいことがありまして」
辿り着いた生徒指導室にはラッキーなことに片倉先生しかいなくて、ドキドキしながら中へ足を踏み入れた。
うう、今にも逃げ出してしまいそうだけど、覚悟もどこかへ飛んでいってしまいそうだけど、でもいつか伝えておけば良かった、と後悔する日が来ないように―――頑張ろうって、決めたんじゃないか。ここで引き下がったら何も変わらない。
拳をギュッと握って、私は改めて顔を上げた。真っ直ぐにこっちを見つめてくる先生の瞳に、自分の瞳をかち合わせる。ああ、ドキドキしすぎて心臓が口から出てきてしまいそう。
「…浅野?」
「わ、たし、…初めて先生に会った時から、ずっと好きでした。一目惚れだったんです!」
見た目は強面だし、いつだって眉間にシワを寄せてるし、仏頂面だし、怒るとめっちゃ怖いけど…でも笑った顔は少しだけ幼く見えて、見た目に反してとても優しくて面倒見が良い先生。私はそんな先生がずっとずっと好きだった。
お手伝いをする回数が増えて、たくさん話をしていくうちに知らなかった部分を知っていける気がして、あの時間がすっごく好きで。だからこそ、卒業してしまうのが寂しいって思うようになったの。もっともっと、先生の傍にいたいなぁって思うようになったから。
想いの丈を伝えれば、先生は虚をつかれたようなびっくりした顔をしていたけれど、すぐにふっと表情を緩めて笑ってくれた。今まで見た中で、一番、優しい表情。
そんな顔をしてくれたことに少しだけ希望を持ってしまいそうになったけれど、でもきっと、そんな都合のいいことが起きるわけはないんだ。だってほら、私の頭を撫でながら片倉先生は―――ごめんな、と謝罪の言葉を紡いだ。
「ごめんな、浅野。けど、そう言ってもらえて嬉しい。…ありがとう」
「っ、うー…」
「ああ、泣くなよ。目ぇ腫れちまうぞ」
「いいんです今日は卒業式なんですからー!」
初恋は実らない。いつか誰かが言っていたことは本当だったな、とぐすぐす泣きながら思い出していた。叶わなかったことは悲しいし、今は辛いけど、でもどこかスッキリしているのも本当で。
いつかきっと、この恋を、告白を思い出として笑って思い出せる日が来る…そんな気がしてるんだ。
「せ、んせっ…好きです、ほんとに大好きでした…!」
「…おう。元気でな、たまにはあいつらと遊びに来い。茶ァくらい出してやる」
「はいっ…先生、ありがとうございました」
最後は笑顔で。そう決めていたから、私は涙を流しながらも笑顔でさよならを告げた。
「あ、紗代ちゃん戻ってきた!」
「紗代!…どう、だったんだ?」
「えへへ…案の定、フラれちゃった。でも大丈夫、スッキリしたよ!」
「紗代殿〜〜〜…!立派でござるああああぁああ!!!」
「ああもう旦那うるっさい!…ほら、カラオケ行ってもっと発散しちゃいなよ。紗代ちゃん」
「うん。待たせちゃってごめんね、行こ!」
ねぇ、先生。私ね、先生を好きになって良かったよ。初恋が先生で、本当に良かったって思ってるの。だから、だからね?そんな風に謝らなくていいんです。だってきっと、答えが欲しかったわけじゃないから…自分の気持ちにけじめを、つけたかっただけだと思うから。
でもね、今日のことは忘れない。絶対、絶対…忘れません、先生の困ったように笑った顔も、一番優しい笑顔も、絶対に。
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