もう一度
"アイツ"が消えた後、俺達は姫の城でしばらく世話になっていた。
side:黒鋼
あの時、もう1人の姫も小僧も…"アイツ"、も…体が解けて羽根だけが残った。姫と小僧の羽根はそれぞれの中に入って、もう1枚の羽根は姫の中に入っていったのを見た。
もう1人の姫達は写されたから、"アイツ"は創られたから。
それぞれが基になったものに戻った…それだけなんだろうが、あいつらにとっても俺達にとってもそうは思っていねぇ。
ただ…いなくなったことが信じられねェだけなのかもしれねぇが。だからこそ、俺は決めた。
「で、旅に出るんだろ」
「…あぁ。皆は」
「オレねー、知っての通りもう帰る場所もないしね。魔法も戻ったし、料理も出来るし、お買い得だと思うんだけどどうかなぁ?」
「俺は行くぞ」
「日本国は?」
「知世にはしばらく留守にするって言ってあるしな。それに…あいつも姫も、今度こそぶん殴ってやる」
…それだけじゃねぇ。
俺が―――俺が本当に旅に出る理由は、
「あと、もう一度…"アイツ"を探す」
躯は確かに解けた。無数の蝶になり、散っていく様を見た。
…けれど、魂は、"アイツ"自身の想いは―――まだあるんじゃねぇかって思うから。それを具現化する術が何処かにあるんだとすれば、俺はそれを探し出す。
"アイツ"自身はそんなこと、望んでいねぇと思う。知ったら怒るだろうな、とも思ってる。
だが、俺はそれでも…もう一度逢いたいと願う。
伝えたい言葉が、聞きたい言葉がたくさんあるんだ。つーか、言い逃げなんざしやがって…それで済むと思ってるんじゃねぇぞ。
『黒鋼くん』
ただひたすらに、"アイツ"に逢いたいと思う。
あの声音で、笑顔で…もう一度、名前を呼んでもらいたい。
「…うん。オレも彼女に逢いたいなぁ…伝えたい言葉があるんだもん」
「モコナも行くよ。だってモコナ行かないと次元移動出来ないよ、ファイがいるけど」
「あれ、結構大変だからねぇ」
「それにね」
―――ポゥ
「これは今は離れてるモコナがずっと守ってたものなの。中にはね、記憶が入ってる。色んな人達の、大切な大切な記憶。この中の記憶が小狼達を覚えててくれる人達の所へ導いてくれるよ。一番記憶が入ってる、今サクラの中にあるサクラの記憶が、旅に出る小狼達をどの世界よりも多く玖楼国に還してくれる。
みんな、待ってるよ。小狼達に会えるのを。サクラの次に多いのは四月一日の記憶だから、店にもだよ。モコナにも会えるから心配しないで」
目を伏せ、「ありがとう」と紡いだ小僧。
…今度は小僧自身の為の旅だ。今までもそうだったかもしれねぇが、それは"姫の為"でもあった。
だが、今度は違う。本当に小僧が自分自身の為の願いを叶える為に…対価を払う為に…旅に出る。
俺達がその度に同行するのは、自分で決めたことだ。
自分で決めて、己の願いを叶える術を探す為に、一緒に行くと決めたから。
「(消えちまった相手に女々しい、とはわかってるが…)」
未練があり過ぎだろうが何だろうが…何でもいい。
そう簡単に諦めがつくんだったら、日本国で言われた時に諦められていたはずだ。忘れようとして忘れられるような…そんな気持ちじゃねぇんだよ。
この旅の結末がどうなろうと―――俺は"アイツ"を忘れないと決めたから。
「オレもほとほと女々しいなぁと思ってたけど…黒りんも相当だよねー?」
「うるせぇ」
「でもまぁ…勝手に決めて、勝手に覚悟して、勝手にいなくなっちゃったんだもん。そう簡単に忘れてなんかあげないよ」
「……"アイツ"も、一発ぶん殴ってやる」
「あはは。それもアリかもしれないねぇ」
どれだけお前自身が忘れてくれって願っても、俺達はきっと誰一人…お前のことを忘れねぇ。
忘れてなんかやらねぇし、もう一度逢えたら…今度こそ離してやらねぇから、覚悟してやがれ。