不思議な易者


 side:ファイ


辿り着いた新しい国。小狼くんと黒様、彼らの願いを叶える為に手掛かりはいまだ何一つ見つからないけれど、それなりに楽しい旅になっていたりする。
オレ自身も…あの頃と違って、何にも縛られることがないから。あの頃よりもずっと、ずーっと気が楽だ。
本音を言うと、ここにさくらちゃんと彼女がいてくれたら…なんて思っちゃうんだけど。

皆と出会った時に何にも縛られていなかったら。サクラちゃんの羽根が飛び散っていなかったら。あの男が…オレと同じ願いを抱かなかったら。何よりも、あの男が存在していなかったら。

全ては"もしも"の話だけれど、1つでも本当に起きていたら、オレ達の関係は何か変わってたのかな。…そもそも、出会うことも出来なかったか。


「ファイ?どうかしたの?」
「何かあったのか?」
「ううんー。ちょっと考え事してただけ」
「珍しいな。てめぇが考え事してるなんざ」
「それはちょーっと失礼じゃない?黒様」


皆、笑えてる。色んなもの抱えてるだろうし、小狼くんに至ってはまだ…全てが終わったわけでもない。
それでも、心から笑えてる。あの頃よりも、ずっと。


「もし。お主らは旅のもんか?」


不意に掛けられた、しゃがれた低い声。
全く気配なんて感じなかったんだけど…ずっとそこにいたのかな?人の気配に敏感な黒様さえびっくりした顔してるし。

敵か、味方か。
見た目からじゃあ、何の情報も仕入れられなくて、黒様はあからさまに殺気を纏っちゃってる。小狼くんも眉間にシワが寄って、臨戦態勢。
やだなー、皆して殺気立っちゃうなんて。…まぁ、オレも人のこと言えないんだけどさ?


「…てめぇ…何者だ?」
「ヒヒヒ…そう殺気立つでないわ。なーにもしやせんよ」
「それで、おれ達に何か用か?ご老人」
「ヒヒッ主らは不思議な気を纏っておるなぁ…別次元から来おったか?」
「「「「!!!」」」」


びっくりするしか、なかった。この人から魔力なんて一切感じないのに、オレ達が別の次元から来たって…気がついた。
正しくは気がついた、ってわけじゃないかもしれないけど、でもそれでも普通に暮らしてたら、別の次元があるだなんて思いつかないよね?
そんなものあるわけない、存在するわけないと思うのが普通だ。オレや小狼くんのように魔力がある者なら、その可能性は決して否定しないけど。
本当に、何者だ?この人。

よくよく話を聞いてみれば、この人は"易者"と呼ばれる職業をしているらしい。
初めて聞いた言葉だけど、どうやら黒様と小狼くんは知っていたらしく、簡単に説明をしてくれた。
易者っていうのは、易占などの占いを職とする人らしいんだ。所謂、占い師ってことみたいだね。次は易占って何だ、ってなっちゃったけど。
でも何て言えばいいのかなー?んー……あ、そうか。うさんくさいんだ。
魔術師も占いくらいするけど、この人は何でかわからないけれど…嘘しか感じなくて。本当のこともたくさんあるんだろうけど、信じようって気にはならないし、占ってもらおうとも思えない。
見た目って大事なんだなーって改めて思うくらいにね。…まぁ、見た目だけでそう思ったわけじゃないけど。


「ヒヒヒッ主らは正直よのう…全て顔に出ておるわ。気にいったわ。特別に無料で占ってやろう」
「ああ?」
「占い……」
「占ってほしいことがないわけではないけどー…きっとどんなに有能な人がやっても、無理だと思うけどなぁ」


だって、オレ達が知りたいのは"魂に現身を渡す術"だもん。その方法があるかどうか占ってほしい、なーんて言っても…きっと叶わない。
あるかどうかだって不確かなんだから。オレ達がそれを実現したいって思っているだけだからね。そもそも、実例がどこかにあったわけじゃないし。

易者って職業、そしてこの人の実力に興味がないわけじゃないけど、これ以上は時間の無駄かなぁ?今日の宿も探さなきゃならないし、移動しないとー。
そんなことを考えていたら、ご老人が黒様にずずいっと寄って来た。…これはびっくりするだろうなぁ。


「な、何だっ…!」
「―――…主は、探し物があるな?とても、とても大切な…愛しい探し物じゃ」
「ッ?!」
「その探し物を見つけて、捕まえて、傍に留めたいと…そう願っておる」

―――亡き者を、この世に呼び戻したい。

「お、まえ…何故、それを」
「ヒヒッ言うたじゃろ?我は易者…占いを生業とする者。見えるんじゃよ」


フードの下から僅かに見える双眸の瞳は、仄暗い光を灯している。
人とは言えないような…暗く、全てを引きこんでしまいそうな―――まるで、闇のような瞳。


「愛しき探し物に逢いたいか。ならば、その望み―――」


しゃがれた声が言葉を紡ぐ。
最後の方は何を言ったか聞き取れなかったけど、言葉を紡ぎ終わった瞬間…黒様の体がゆっくりと傾いでいった。


「黒鋼?!」

―――ガシッ

「ちょっ…黒様!どうしたの、急に!」


慌てて支えようとしたけど、彼の方がオレよりガタイ良いし、でっかいんだよね。
支えられるわけがなかったんですよ、よくよく考えれば。
まぁ、当然の如く地面に倒れこんでしまったわけで。頭強打、ってことは避けられたけど。


「意識を失ってる…眠ってるとも、違うみたいだ」
「もしかして何かされた…?!」


何をしたのか問い質そうと、さっきの人がいた方を向いたら、そこにはもうご老人の姿はなかった。
行き交うのは楽しそうに街を歩く人だけ。
まるで初めからそこには誰もいなかったんじゃないか、って思う程…忽然と姿を消していた。



―――さあ…賽は投げられた。
ヒヒッはてさて、運命はどちらに転ぶのか。じっくり見学させて頂くとしよう。
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