眠りについた王子様
side:ファイ
突然倒れた黒様。あれから1日経ったけど、一向に目覚める様子はない。
呼吸はしてるし、心臓もちゃんと動いてる。
この町のお医者さんにも見てもらったけど、特に外傷もないし脳にも異常は見られない…らしい。
恐らく深い眠りについているだけだろう、という見解だったけど…オレと小狼くんは何だか胸騒ぎがして仕方ないんだよね。
何て言うか…このまま、黒様が目覚めないんじゃないかなーなんてさ。
そもそも急に眠りにつくっていうのが、どうも納得いかない。
だって、倒れる少し前まで普通にしてて、オレ達とも普通に会話していたはずだったのに…何でなんだろう?やっぱり、あの奇妙な易者のせい…なのか?
「…どう思う?小狼くん」
「何も異常がないと言うのなら、原因はあの時会った易者だと思う。何か―――黒鋼さんに呟いていた気がするんだが…聞こえなかった」
「やっぱりー?オレもそう思ってたんだよねぇ…眠りについたきっかけは、最後の一言か」
「このまま黒鋼目覚めないの?眠ったままなの?」
「大丈夫だ、モコナ。きっと…何か手立てはある」
「そうだね。とりあえず、町に出てあの易者を探してみよっか」
「ああ。モコナは黒鋼さんのことを頼む」
「わかった!」
このままただ、見ているだけ、待っているだけでいるわけにはいかない。
お医者さんも異常はないけど、ずっと眠ったままの状態では危険だって言ってたしね。どうにかして彼が目を覚ます方法を見つけないと。
それにオレ達の願いを叶える手立ても、探さないといけないし…どっちにしろ、町には行かないといけないんだ。
はてさて、些細なことでもいい。何かしら手掛かりがあるといいんだけどなぁ。
黒様をモコナに任せて、オレと小狼くんは町に来ていた。
相変わらず此処は賑わってるなぁ…最初に降り立った時も思ったけど、何も争い事は起きていないし、住んでる人達も楽しそうに笑ってる。
旅に出て、最初に降り立った国…阪神共和国に似てるかもしれないね。
あの国も此処と同じで、活気づいていて、賑やかで、安全…とは言い切れないけど、危険な国ではなかったし。…と。感傷に浸っている場合ではないなぁ。
「あの易者に会ったのってこの辺だったっけ?」
「ああ。確かあの辺りに座っていた記憶がある」
「うーん…だけど、もういないみたいだねぇ」
座っていたであろう場所には、もうお店が開かれていて…いた形跡でさえ不確かだ。
この町には易者が多いのか、と町の人に尋ねてみれば、不思議そうな顔をして「そんなの1人もおりゃせんよ」と言われてしまった。
思わず小狼くんと顔を見合わせてしまう。なら…俺達があの時会った易者は、本当に何者だったんだ?生きている気配は…あったはずだけど。まっさか、生きていないとか…そういうんじゃないよねぇ?
突拍子もない自分の考えに、背中が僅かにゾクリと粟立った。
有り得ない、と思う反面…そういうことがあってもおかしくないのでは、と思う部分もあって。
馬鹿馬鹿しいと思えど、完全に否定できない自分がいる。
「一体…何なんだ?この奇妙な感覚は」
「あ、やっぱり小狼くんもおかしいって思う?オレもなんだよね…ちょっと背中がうすら寒くなったよ」
「だが、確かにあの時生きている人の気配だったはずだ。風貌と雰囲気は、思いきり怪しかったが」
「そう。そうなんだよ…問題はそこなんだよねぇ」
こうなったら仕方がない。あの易者の似顔絵を描いて、町の人に聞き回ってみるしかないかー。
さらさら〜っと似顔絵を描いて、町の人に聞き回ってみたものの…収穫はゼロ。
一緒にこの国や町に伝わる伝説とか、そういうのも聞いてみたけれどそっちも収穫はなくて。
ならこの国の文献を、って思ったんだけどね?そういうのもこの町にはないんだって。
此処から7日程歩いていけば、もっと大きな街があるからそこに行けば文献が揃ってるらしいんだけど…黒様とモコナを置いて、そこに行くわけにはいかないし。
モコナがいないとオレ達、言葉が通じなくなっちゃうからね。その街にまでモコナの翻訳機能が届くかは微妙だからなぁ。
「参ったねぇ…易者は見つからないし、オレ達の願いに関する手がかりもゼロ!行き詰っちゃった」
「願いに関する手がかりは気長に探すしかない。そんな術があるのかも不確かだから…優先すべきなのは黒鋼さんの方だ」
「…うん、そうだね。でもどうしよっか〜なーんにも手掛かりなくて、どうすればいいのかさっぱりだよ」
「どのような術が掛けられているのかもわからないしな」
「じゃあ聞いてみようよ!」
「うん?誰にー?」
「もしかして…彼、か?」
「うん!新しい店主に聞いてみよー!」
モコナの額についている赤い石がホログラムを映し出す。
そこに映し出されたのは、眼鏡をかけた1人の男の子。
『こうやってお会いするのは初めてですね。ファイさん。初めまして。侑子さんに代わり、店主を務めている四月一日と申します』
「あ、初めまして…ファイ・D・フローライトです」
『小狼くんは久しぶり、でいいのかな?』
「あぁ…久しぶり」
『それでどうしたんですか?通信を繋いでくるなんて、初めてですよね?』
「あのね、あのね!モコナ達、ちょっと困ってるの!」
『…ほう?"願い"、というわけですか?』
「うん、そうなるかなぁ…聞いてもらえる?」
相応の対価を払う、という約束をしてオレ達は今の状況を話した。
黒様が突然倒れ、そのまま眠ってしまったように動かないこと。
1日経ったけど、目を覚ます気配がないこと。
昨日、怪しげな易者に会ったこと。
四月一日くんは黙ってオレ達の話を聞いていて。一通り話し終えると、うーんと考え込み、黒様の姿を映してくれないかと頼んできた。
モコナに黒様が寝ているベッドを映してもらえば、四月一日くんの眉間に僅かにシワが寄った。…どうやら、何かわかったみたいだね。
「何かわかったのか?」
『どんな、とまではわからないけれど…彼には術がかけられていますね』
「あー…やっぱり?」
『かけたのは、恐らくファイさんの言っていた怪しげな易者で間違いないと思う。だけど、少し危険だな…』
「どういうことだ」
『術がかけられているのは躯じゃなく、魂だ。強い術で魂を夢の世界へと引きずりこんでいる状態…これが長期間続いたら、戻れなくなる』
「え!それって黒鋼が死んじゃうってこと?!」
「そういうことみたいだねぇ…状況は思ったより深刻ってことか」
「何か俺達に出来ることはあるのか?」
小狼くんの投げかけた疑問に、四月一日くんは黙って首を振った。
どうやら黒様にかけられている術は、黒様自身がどうにかする以外解く方法がないらしい。
オレ達がいくら探しても、努力しても、どうにもならない。目を覚ますのをひたすら待つしか…出来ることはないってことだ。
何も出来ないっていう事実は、思っていた以上に重いけど…ここは黒様の精神力を信じる他ないってことだよね。
…待つことが辛くても、そうするしかない。君が教えてくれたことだね、黒様。