精一杯の大好きとありがとうを


「馬鹿だ馬鹿だと思ってはいたが、…ここまで大馬鹿だったとはな」


数日ぶりに戻ってきた屋敷。出迎えてくれたのは安心した表情を浮かべた使用人'sと、ひどく怒っている主でした。そしてそのまま僕は主の書斎へと連れていかれ、かれこれ2時間ほど主+セバスからお叱りを受けている最中だったりします。主は静かに淡々と言葉を並べ、セバスはにっこりネチネチと言い募り…正直、僕泣きそう。
いや、悪いのは僕だから2人が怒るのも当然のことなんだけれども!それでも2時間、怒られ続けるのは辛いっすよ…!でもそんなこと言えるはずもなく、2人の怒りが静まるのを待つしかないんだけどさ。


「聞いてるのか、クロード!」
「ちゃんと聞いてますよ、主。…やっちゃったなぁ、って後悔もしてますって」
「…次、勝手に消えたりしたらただじゃ済まさないぞ」
「はい。もう二度と、いなくなったりしません」


もう一度、貴方に誓いましょう。お守りすることを。望みを叶えるその時まで剣となることを。その命の灯が消えるその時まで、お傍を離れないことを…もう一度。
小さなその体をぎゅうっと抱きしめて、ごめんねと小さく告げれば。殴られることを覚悟していたのに、主も背中に腕を回して抱きしめ返してくれたんだ。そして僕にしか聞こえないくらいの小さな声で「おかえり」、と一言。
ああ、僕はそれだけで幸せですよ?主。貴方に受け入れてもらえたことが、見捨てずにいてくれたことが。やっぱり貴方は、僕が生き続ける理由そのものだ…貴方の存在が、言葉が僕をこの世に繋ぎ止めてくれる。


「………今日のおやつは、お前が作れ」
「いいですけど、何が食べたい?」
「とびっきり美味いケーキと、…ホットチョコレート。それ以外は許さない」
「ふはっ、…くくっはいはい、承知致しました。腕によりをかけて作りましょう」


こんな風に僕におやつを作れ、と言ってくるのはすっごく珍しいんだよね。昔はちゃんとシェフがいたし、今はセバスがいる。だから、僕が作ることなんてほっとんどなかった。本当に時々、この方が望んだ時くらいだったかなー。ホットチョコレートは寒くなるとよくねだられたけどさ。
もしかしたら、これが主なりの僕への甘えなのかもしれない。許す代わりに作れ、っていう感じ?ふふ、こんな可愛い甘え方ならいっくらでもしてくれて構わないけどなぁ。滅多に甘えてくれないから、正直嬉しい。


「そんじゃ、僕は一度離れますね。15時になったらおやつ、持ってきますから」
「ああ。……あと、今日は僕の部屋で寝ろ。命令だ」
「それはまた可愛らしい命令だね?貴方が望むなら喜んで」
「おやおや、大人びて見えてもまだお子様ですね?坊ちゃん」
「うるさい黙れ。それとも、…嫉妬か?セバスチャン」


―――ビシッ

主の一言で部屋が凍り付いたような雰囲気に変わったんだけど、これ、僕の気のせいじゃないよね?きっと。ああ、もう。なーんで帰ってきて早々、一触即発になってんだこの2人は。契約で成り立ってる主従関係だから、仲がよろしくないのはわかってはいたけどさー…それでも僕を挟んでバチバチ火花散らすのはやめてもらえないかなぁ。間近でやられると結構、怖いんだってば。
つーか、主の言う通り嫉妬だったとしてもさ?主である人に嫉妬すんなって話だと思うわけさ。…猫に嫉妬する僕も同じくらいバカでアホだと思いますが。別に寝取られる心配があるわけじゃないんだし、今日くらい大目に見てくださいな。普段、寝る時はセバスが僕を独占してるんだから1日くらい、ね。…ま、2人に大事にされてる感じがして悪い気はしないけどね。言ったら怒られそうだから絶対言わないけど。


「ほらほら2人ともー、いい加減火花散らすの止めてよね!セバス、まだ仕事残ってんだろ?行くぞ」
「ですがクロード、」
「ですが、じゃねーの。主も書類に目ェ通し終わってないんでしょ?僕らも仕事に戻るから、おやつの時間までにある程度は片づけちゃってくださいね」
「…わかった」


不服そうな表情を浮かべたセバスを引っ張って、僕達は書斎を後にした。全く…主相手にマジになってどうすんだ、この悪魔は。普段はムカつくくらいに冷静で、余裕綽々な笑みを浮かべてるクセしてさ!ちょっとだけ、余裕ないセバスの顔っていーな、とか思っちゃったじゃないか!!
時々、こういう風にむきになるとこ、意外と嫌いじゃない。四六時中、嫉妬されんのは嫌だけど…たまーに独占欲をむき出しにされんのは、正直言うと嬉しいんです、愛されてんだな〜ってわかって。…それに、悪魔っぽくなくてちょっと可愛いなぁとも思う。


「何を笑っているんですか、クロード」
「んー?余裕にしてるのが常なアンタがそういう顔してんの、好きだなーと思ってさ」
「はぁ…私にはよくわかりません。ようやく貴方を連れ戻したのに、今度は坊ちゃんに奪われてしまうとは」
「奪われて、って…相手は主だよ?ただ甘えたいだけだって。それに今日だけなんだから我慢しろっつの」


だけど、セバスはいまだ不服そうな顔を崩さない。昨日だって真っ直ぐ屋敷には戻らず、あの湖畔の畔で散々触れてたくせになー。何度したか、覚えているんだろうかコイツは。ポツリ、とそう零せば、あれくらいじゃまだ足りないとか言いやがりました。あれで足りないとか…!逆にどれだけ触れば気が済むっつーんだよ、セバスは。
まぁね?僕だってもっと触れたい、とは思うけど…主のことだって大切なんだ。だから、主が望むことなら僕はそれを出来るだけ優先したいって思ってるし、セバスにだってそう伝えてある。だから、さ…今日だけは、主の傍にいさせてよ。


「僕らは人ならざるものだ、これから先の時間だってたっぷりある。焦らされた方が、いいスパイスになるんじゃないの?」
「…言うようになりましたね。最初は真っ赤になることだってあったというのに」
「少しずつ慣れてきたのかもなー」


クスクスと笑いながら告げれば、掠めるような口づけを1つ。一瞬すぎて思わず呆けてしまったけど、まだ勤務中だってことを思い出した瞬間、ぶわっと顔に熱が集まってきた。絶対、顔真っ赤になってる…!
いきなり何すんだ、と怒ろうと口を開こうとした瞬間、またもや唇を塞がれた。今度は啄むようなキス、それが何度か繰り返され、最後は舌が入り込んできて抵抗する力すら奪われる。コイツとのキスは気持ち良すぎて、考える力とか抵抗する力とか、あらゆるものを奪われてしまう気がする。それで気が付けば腰が抜けそうになるくらい、溺れてるんだ。…セバスのことだ、それすらも見抜いてるんだろうけど。


「本当に貴方は蕩けそうな表情をしますね。好きなんですか?私とキスをするの」
「ん、…好きな相手とするキスなんだ、嫌いなわけないだろ」
「こういう時は素直ですね。もっと、…触れたくなる」
「それは僕も一緒だけど、仕事しないとだろ。明日の夜までお預け、な?」


その代わり、好きにしていいから。
頬にキスを1つ落とし、耳元で囁けば。僅かに頬を赤くしたセバスが、その言葉嘘にしないでくださいね?と呟いた。
ふふ。嘘になんかするかっつーの。そういう冗談は言ったりしないから安心しろ。


「さってと、仕事するかなー」

―――ギュッ

「アリス、」
「セバス?」
「…もう、黙って姿を消すなんて馬鹿なこと…しないでください。心臓に悪い」
「うん…わかってる。主の傍からも、セバスの傍からも、」


離れたり、しないから。だからどうか、そんな泣きそうな顔をしないで?愛しい貴方。
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