それは可愛い殺戮人形
わたしはわたしであり、でもわたしじゃあなくて。わたしの体はわたし自身のものでもあるけど、でも最初から最期まできっとあの人―――ニイ博士のモノだ。
あの人の手によって生み出された、あの日からずぅっと。
「―――おいで、ウサギちゃん。お片付けの時間だよん」
「はぁい、ニイ博士」
てててっと走り寄れば、大きくて無骨な少しだけ冷たい手がわたしの頭を撫でた。この人は何を考えているのかよくわからない人だけど、でも何でだか好きだなーって思う。わたしに向けられる笑顔も、優しさもすべてまがい物だったとしても…別に構わないとさえ、思ってる。
だってわたしにとっての真実は、目の前にあるものだけだから。ニイ博士の存在だけがわたしの真実なの。
博士に連れられて来たのはいつもの場所。そこにはうじゃうじゃと、それはもう数えきれないほどの人間と妖怪が混在していた。…いっつも思うけど、どうして此処に閉じ込められている妖怪達は人間を食べようとしないんだろう?人間は妖怪を恐れて、妖怪は人間を食料としてしか見てないんだと思ってたのに。
外の世界をほとんど知らないわたしの知識はぜーんぶ博士がくれたモノ。あの人が話して聞かせてくれたり、与えてくれた本で得たり…媒体は様々だけど。どれも面白くて大半を1日で読破したら、さすがの博士も驚いた顔をしてたのをよく覚えてる。でもすぐに面白そうに笑って「よく頑張りました」って頭を撫でてくれるのが嬉しくて、わたしはずっとこの人の役に立ちたいって思ったの。
…だからね?博士の為ならわたし、何でも出来ちゃうんだよ?人だって、妖怪だって、動物だって、…何だって殺してあげる。それが博士の望みなら、わたしは喜んでこの力を使うって決めてる。だってこの力はあなたがくれたモノだもん。それならあなたの為に使うのが、一番正しいでしょ?
「さあウサギちゃん。…お片付け、しないとね?」
「うん、博士。―――『縛』、…『燃え尽きろ』」
すう、と息を吸い込んで言葉を吐き出せば、妖怪達が悲鳴を上げて真っ赤な炎に包まれた。炎は衰えるどころか、どんどん勢いを増していく。
私の力、ニイ博士が与えてくれた力は『言霊』。そのままの意味で、わたしが紡ぐ言葉は妖怪達を滅する力を持っていた。どういう理屈かはわかんないけど、人間にはこの力は効かないみたい。いいんだけどね、そんな理屈とかそういうのはどうでも。大事なのは、わたしがこの力をもっともっと使いこなして博士の役に立つことだから。
「ひ、ばっ…バケモノ……!」
「あれ?妖怪はぜーんぶ燃やしたと思ってたのになぁ」
「まだまだ使いこなせるようになるまでは時間がかかりそうだね、ウサギちゃん?」
「んー…今回こそはカンペキ、だと思ったのに」
掌に力を込めて小型ナイフを取り出し、地を思いっきり蹴った。不覚にも生き残らせてしまった妖怪との距離はあっという間に縮まって軽くナイフを横に薙げば相手の首を深く抉り大量の血が吹き出した。それはパラパラと頭上から雨のように降り注ぎ、わたしの体を頭のてっぺんから足の先まで真っ赤に染め上げていく。
…これで1人。残すはあと―――人間も含めて、十数人。
だいじょうぶ。このくらいの数ならきっと、ちょっとだけ頑張れば全部真っ赤に染められるはず。これまでの特訓を思い出して、わたしは再度地を蹴った。それと同時に色んな所から血飛沫が上がり、更には耳障りな断末魔までが聞こえてくる。うーん、真っ赤に染まっていく光景を見るのは好きだけど、あの最期の声だけは何度聞いても好きになれない。だからいっつもその声を聞かないように一発で殺すようにしてるんだけどー…ちょっと失敗しちゃったみたい。
むぅ、と眉間にシワを寄せつつも博士に言われたお片付けを終了させると、わたしの周りは真っ赤な血の海となっていた。これもいつものことだ、とたいして気に留めることもなくパシャパシャと博士に歩み寄る。
「スピードと的確さは格段に良くなったけど、でもちょーっと上品さにかけるかな?」
「じょうひん?何かを殺すのに、それは必要なもの?」
「必要はないけど、君はきっと美人になる。そんな綺麗な顔や体に返り血はイラナイでしょ」
「ふぅん…博士がそう言うなら頑張る」
「よしよし、ウサギちゃんは本当に従順だね」
博士がよく言うじゅーじゅんって言葉はよくわからないけど、でもきっといい言葉なんだろうと思う。だってその言葉をいう時の博士はとても楽しそうで、とても嬉しそうだから。
「もっと従順に、それでもっと残酷になってちょうだい。―――ボクを飽きさせない為に、ね?」
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