せかいで一番だいじなもの
わたしのものはぜんぶ博士のもの。わたしだけのものなんてきっと、生まれたその時からないに等しいんだと思う。だってわたしのことを造ってくれたのは博士、居場所をくれたのも博士、わたしを作り上げるすべてを与えてくれたのだって博士だもん。
だけど、だけどね?そんなでもわたしだけのものが、1つだけあるんだよ。やっぱり博士がくれたものだけど、でもこれだけはあの人のものじゃない。わたしだけの…たからもの!
「ウサギちゃん、まーたソレ見てるの?」
「だって好きなんだもん」
パソコンをいじっていた博士がクルッと振り向いたかと思えば、あきれた顔をしながら溜息を1つ吐いた。わたしがたからものをじーっと見てると、博士はいつもそんな顔をしてるような気がする。あきれたような瞳でわたしを見つめて、「飽きないコだね、君も」って笑うんだ。
だからわたしも同じセリフを返すの。「だって好きなんだもん」って。そうすると博士はくしゃくしゃってわたしの頭を撫でてくれるんだよ。それが気持ち良くて、嬉しくて、何度も何度も同じことを繰り返す。それはきっと、博士が飽きちゃうまで続くんだろうなぁ。
…わたし?わたしはきっと飽きないよ。博士のことを嫌いにならない限り、絶対に。
「ねぇ博士ー何でコレ外しちゃダメなの?」
「とーっても大切なモノだから。あげた時にも言ったけど、時期がくるまで外しちゃダメだよ?ウサギちゃん」
「むー…博士の言うことは時々、よくわかんない」
「ま、ちょーっとだけ難しいかもね。言葉を覚えたてのウサギちゃんには」
くつくつ笑う博士はとても楽しそう。そんな博士を見るのが好き。きっとコレを外したらそんな顔を見せてくれなくなっちゃうんだと思う。わたしの大好きな笑顔は見えなくなって、怒った顔になっちゃうんだ…それで、イラナイって捨てられちゃうんだ。
外したらどうなるのか。すっごく気になるんだよ?自分のことだし。でも博士に捨てられるのはイヤ。だからね、こうやって眺めるだけに留めるの。そしたら博士は笑ってくれるし、私も傍にいることが出来るもん。えっと、こういうのって一石二鳥って言うんだよね!確か。
博士がくれたわたしだけのたからもの。それは左手首につけられた綺麗な腕輪。それから首輪!首輪は外さないと見れないから、起きた時とお風呂に入る前と出た後、それと寝る前に鏡でじーっと眺めてるんだ。お部屋にいる時は腕輪をじーっと見てる。
どんな理由でくれたのかは、結構どうでもいい。わたしが嬉しかったのは博士がわたしの為だけに選んでくれた、ってことなんだもん。あの人のことだからそんなに悩んでないとは思うけど、それでもちょっとは悩んでくれたかもしれないし、ちょっとはわたしの顔を思い浮かべて選んでくれたかもしれないでしょ?
わたしの思い違いってやつかもしれないけど、博士が選んでくれたってことだけで嬉しいんだからいいのだ。それがどんなものだって、わたしだけのたからものなんだから。
「そんなにソレが好き?」
「好き。だって博士がくれたモノだから」
「…ボク?」
「そう、博士。博士がくれたものじゃなきゃ、こんなに好きになれないよ」
博士が選んでくれたものだから。博士が買ってくれたものだから。博士がつけてくれたものだから。
…だから、わたしはこの腕輪と首輪が好き。博士にとっては違うだろうけど、これをつけてる限りわたしは博士のモノだって証になるでしょ?所有物でいられるでしょ?
「だから好きだし、ずっと見てたいの」
「ほーんと、…君って変な子だね。それでとても物好きだ」
「ものずき?それはイケナイこと?」
「…さあ?その答えをボクは持ってないけど、まぁいいんじゃないのかな」
君が満足してるなら。
博士はそう言ったけど、わたしは博士がくれるモノならきっと何でも喜べるし何でも満足できる。自信があるよ。イタイのはあんまり好きじゃないけど、…でもそれを与えてくれるのが博士なら少しくらい耐えられる。
「博士、だっこ」
「んー?急にどうしたの」
「どうもしないけど、だっこ」
「変なとこお子様だね、ウサギちゃんは。おいで」
ぎゅーっと抱きつけばふわり、と香るタバコの匂い。初めてタバコの煙を吸った時は盛大に噎せたけど、今となっては体の一部になったみたいに感じる。噎せることはなくなったし、このタバコの匂いがないと落ち着かないくらいになってしまったくらいだ。
つまり、わたしは博士がいないと生きていけないってこと。そんなのきっと生まれた時からずっとそうなんだけど、でもわたしというものを持ってからは特にそう思うようになった。
博士が好き、だいすき。その気持ちがどういうものなのかはよくわかんないけど、でも好きなんだもん。この人がいてくれれば、他にはなにもいらない。
-3-
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