ヒミツの探検
ウサギちゃんの成長は目覚ましいね。
博士にそう褒めてもらったわたしは、何だかウキウキ気分で部屋で本を読んでいた。力のコントロールも段々、上手くいくようになってきたみたいで狙った妖怪だけを攻撃できるようになってきたんだよ!前はカンペキ無作為だったのに。
褒められたことを頭の中で反芻していたら、唐突に博士がいないことに寂しさを感じてきて。あんなにウキウキ気分だったのに、それは風船のように一気にしぼんでしまった。読んでいた本だって大好きな物語なのに、ちっとも頭に入ってこないし。
文字を追うだけになってしまったツマラナイ本を閉じて、ベッドに放り投げる。更に自分の体をも投げ出せば、シーツから香る博士の香り。慣れ親しんだその香りはとても安心できるものだったはずなのに、今は落ち着かない。安心するどころか、胸の中がザワザワしちゃってやな感じだなぁ。
『今日は遅くなるから。部屋で大人しくしてなさいね』
いつものお片付けを済ませた後、博士はそう残して何処かへ行ってしまったのだ。置いて行かれるのはいつものこと、一日のうちで博士と一緒にいられる時間はほんの少しだけ…そのことにも慣れていたはずだったのに、どうにもこうにも嫌だ。気持ち悪い。
お城の中の何処かにいるのは確かなんだから、ちょっと捜してみればすぐに見つかるとは思う。…けど、部屋で大人しくしてなさいって言われてるしー…きっと捜しに行ったら怒られちゃう。
「でもツマンナイよーはかせぇー」
ベッドの上でゴロゴロ転がって、しまいにはシーツに包まってみる。さっきよりもタバコの匂いが強く香った気がした。
「…博士に見つからなかったら、ちょっとくらい探検しても大丈夫かな?」
遅くなる、って言ってたから、きっと日付が変わらないと帰ってこないはず。まだ夕方にもなってないし、ちょっとだけ探検してすぐに戻ってくれば抜け出したこともバレないと思うんです。部屋の外に出ればこの変な感じも直るかもしれないし、寂しい気分も吹っ飛ぶはず!
よし!そうと決まれば早速、行動開始だー!!
「わ、広い…!」
部屋の外に出るのは初めてじゃない。だけど、お片付けがある時にしか出ないし、なによりあの場所以外のところへ行ったことがなかった。
わたしが行くのを許されていたのは、博士と暮らす部屋とお片付けの場所だけ。他のところは禁止、とまでは言われてないけど…たぶん、行っちゃダメなんだと思う。ダメとは言われてないけど、でも逆にいいとも言われてないし。きっとわたしなんかが見ちゃいけないようなヒミツがたーくさんこのお城には隠されてるんだろうなぁ…おっきいし。
見るものすべてがめずらしくてキョロキョロしながら歩いていたら、誰かと真正面からまともにぶつかってコケた。
「わっ…!」
「すまん、大丈夫だったか?」
「紅孩児様、お怪我は―――…あら、子供…ですか?」
「そのようだ。…お前、どこから来た?」
「どこ、って…博士のとこ」
私の博士、ニイ博士のところから来たんだよとお兄ちゃんとお姉ちゃんに告げれば、2人は少しだけみけんにシワを寄せた。なんだか怒ってるみたいだなぁ…でもなんで?わたしがぶつかっちゃったから怒ってるのかな?
「ニイ健一…そういえば、幼女を傍に置いていると噂を聞いたな。お前のことだったのか」
「お兄ちゃんとお姉ちゃん、だぁれ?」
「私は八百鼡、この方は紅孩児様と仰るんですよ。あなたは何て言うの?」
やおね、と教えてくれたお姉ちゃんにわたしのなまえを聞かれたけど…博士はわたしのこと、いつもウサギちゃんって呼ぶからそれがなまえってやつなのかな?
よくわからないけど、そう2人に教えてあげるとまた怒ったような怖い顔をしてしまってわたしは余計にわけがわからなくなる。どうしたの、と聞いてみればなまえをつけてもらってないのかってこうがいじ、っていうお兄ちゃんに聞かれた。たぶん、と頷けばまたそれをいやだって思ったことはないのかって聞かれたの。いやとかいやじゃないとか、そんなこと考えたことなかったから正直なところわかんないよ。だって困ったこともなかったし。
「あなた、名前を欲しいと思ったことはないんですか?」
「?だって博士、ウサギちゃんって呼んでくれるもん」
「うーん…言い方を変えてみましょう。ニイ健一から―――あなただけの呼び名を、欲しいと思わないんですか?」
「わたしだけ、?」
「そう、あなただけ。あの男があなたのことだけを呼ぶための、名前」
やおねお姉ちゃんはなまえっていうのは特別で、1人1人にあるものなんだって。博士がわたしのことをウサギちゃんって呼んでるのは、それとは違うものなんだって教えてくれた。
わたしだけの、なまえ。それならほしいな、博士になまえつけてもらいたい。博士がわたしのことだけを呼ぶためだけの、特別なもの。
-4-
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