大切なものはじぶんでまもるの


「ふぅん…そっか、全ての能力はあの子に受け継がれていたわけか」


博士が何か画面?を見ながら楽しそうに笑っていた。ここ最近、この部屋にいる間はずーっとその画面を見たままでわたしに構ってくれない。何か別のことに興味がある時はいつもわたしのことはほったらかしだし、そんなのいつものことだって思ってたんだけど…なんかすっごく面白くない。博士が楽しそうに笑ってるのはいいことだけど、でもやっぱりわたしのことを見てほしいって思うの。

だって博士がずっと見ているのは、きれいなお姉ちゃんの姿なんだもん。ぎんいろの髪をしてて、強くて、ふんわり笑うとってもとってもきれいな人。

だぁれ?って聞いてみたら、『さんぞーいっこうのこういってん』だよって教えてくれたけどよくわかんない。おとこのひとばっかりの中に1人だけいるおんなのひとのことをそう言うらしいけど。


「(博士のいちばんはずっと、わたしだったのに)」


それなのにいまの博士はわたしのことより、そのお姉ちゃんばっかり。胸の奥がきゅーってして、チクチクして、かなしいって思う。
ねぇ、ねぇ博士。わたしは博士のすぐそばにいるんだよ?画面の中じゃなくて、あなたのとなりに、すぐ触れられる所にいるんだよ?それなのにどうして、私じゃなくて画面ばっかり見ているの?私はもう、イラナイの?


「博士はこのおんなのひとが欲しいの?」
「ん〜?…そうだねぇ、手に入ったら面白いだろうね」


ちらっとこっちを向いた視線はすぐに画面に戻される。
それがすっごくかなしくて、すっごく嫌で、すっごく―――このおんなのひとが邪魔だと思った。わたしから博士を奪う人は、だれであろうと許さないんだから。


「紋那?どーしたの」
「あのね博士、わたし外に行ってみたい」
「外?それまたどうして」
「だってずっとお城の中にいるし、本も読み終わっちゃったしツマンナイんだもの。ちゃんと夜には帰ってくるから、あの…飛竜、だっけ?借りたい!」
「んー…ま、そろそろ外の世界を見てみることも大切かな。いいよ、行っておいで」


飛竜がいる場所はわかるよね?
博士のその言葉に頷きを返せば、博士は私に向けていた視線をさっさと画面へと戻してしまった。それにまたくやしくなるけど、もうその画面にさっきまで映し出されていた映像は一切映っていなかった。映っていたのは博士がカタカタと打ち込んでいる文字だけ。いつの間にかおしごとをはじめていたらしいです、それがわかったとたんわたしの機嫌は降下するのをやめた。
さっきのおんなのひとに博士がとられるのはイヤ。でもおしごとに博士をとられるのはいい、仕方ないもん。おしごとしないと暮らしていけないんだよ、って教えてくれたから。画面に向かいっぱなしの博士にもういちどいってきます、と声をかけてわたしは部屋を飛び出した。

わたしだけのなまえをもらったあの日から、博士はわたしを少しずつ部屋の外に出してくれるようになったの。お城の外までは連れ出してくれなかったけど、でもお城の中だけなら好きなように動いていいよ、っておゆるしももらった!
だから飛竜がいる場所もわかるし、こうがいじお兄ちゃんとやおねお姉ちゃんがいる部屋にもあそびにいったことがあるんだ。その時にこうがいじお兄ちゃんの妹のりりんちゃんと、じゅうしゃ?のどくがくじお兄ちゃんとも知り合いました。
りりんちゃんとはツマンナイ時によく遊んでるの。


「あっ紋那だ!」
「りりんちゃん」
「何処行くの?お出かけ?」
「うん。飛竜に乗ってね、わるものをたいじしに行くの」
「わるもの…?」
「そう、わるもの」


わたしから博士をとろうとするひとは、みんなわるものなんだよ。りりんちゃん。


「だから今日は遊べないんだ。帰ってきたらまた遊んで!」
「そっかぁ…残念だけど仕方ないね!明日、オイラから紋那に会いに行くからね」
「うんっ!じゃあね、りりんちゃん」
「バイバイ、紋那」


りりんちゃんとおわかれしてから向かったのは、飛竜がいる部屋。その扉をそっと開ければたくさんの飛竜がそこら中でまるくなって眠っていた。むぅ、みんなお昼寝中なのかなぁ…わたし急いで外に出たいのに…1匹くらい起きてる子はいないのかなぁ。キョロキョロと見回していると、キュウと鳴き声。
声がする方に歩いていくと、ちょっと小さめの子がくりくりした可愛い目でわたしを見上げていたんだ。
…起きてる子、この子だけみたいだし、なんか可愛いし…うん、よし!この子に決めたっ!その子に近寄ってわたしを乗せて、と言ってみるとまた元気な声でキュウッと鳴いた。どうやらいいよ、ってことみたい。
背中に跨れば、その子は迷わず羽根を広げて空へと舞った。


「う、わぁ…!たかいっすごーい!!」


はじめて出たお城の外。本で見ていただけの大空は本当に真っ青でとってもきれい。外はこんなにも広くて、こんなにも大きいんだ…今度は博士と一緒にお出かけしたいなぁ。それでいろんな所に行って、美味しいもの食べるの!こういうのデート、って言うんだよね?

目に映るすべてのものがはじめてでむねがおどる。すっごく楽しいけど、でもやっぱり1人は寂しいなーって思っちゃう。一緒だったらきっと、もっと楽しいもん。
ウキウキする気持ちと、モヤモヤする気持ちを抱えながら空のたびを続けていると、ここ数日博士がじっと見ていたせいでおぼえてしまった『さんぞーいっこう』を見つけた。きんいろの髪とあかい髪とちゃいろの髪とくろい髪と―――ぎんいろの髪をした5人組。
わたしの博士をとろうとする、わるものだ。


「飛竜ちゃん、きゅうこうかして!」


そう命令すればピ!と鳴いて、こうどを一気に下げた。それによってスピードも上がって、5人組の姿が大きくなった頃にはものすごいスピードになっていて。でもそんなの全然こわくない、むしろ楽しいって思ってるくらいなんだよね。


「ッなんだ?!」
「…死んじゃえ。『燃え尽きろ』」


紡ぎ出した言葉は炎に変わって燃え上がるけれど、外しちゃったみたい。5人はびっくりした顔をしてるけど、でも傷一つおってないことに気がついてムカムカする。…なんで、なんで当たらないの?なんでまだ生きてるの。


「ぎんぱつのお姉ちゃん、…あなた邪魔なの。だから死んで」
「…?!貴方は、一体……」


博士。ねぇ、博士。このおんなのひとを連れて帰ったら博士はよろこんでくれるの?…でもきっと、こんどこそわたしのこと見てくれなくなるんだよね?イラナイって言うんだよね?

―――それだったら、わたしはこのおんなのひとを殺すよ。

だって邪魔だもん、わたしと博士を引き剥がそうとしてるんだもん。わたしのせかいをこわすひと、博士を奪うひと、…そんなの、この世にそんざいしている必要なんてないでしょ?博士は、私だけのものなんだから。
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