笑ってください
私は今、ものすごーく!悩んでいます。何に悩んでいるかって?もうすぐ八戒さんの誕生日だって教えてもらったんだけど、何をプレゼントすればいいかわかんなくって…!だって、今まで男の人にプレゼントしたのってお父さんと悟空だけ。三蔵さんにはあげたことなかったなぁ…今思えば。
だから尚更わかんないんだよね。男の人が、…というより、八戒さんが何を好むのか。図書館の司書をやっているくらいだから本は好きだと思うんだけど、私自身が本を全くと言っていいほどに読まないからオススメとかないし。そもそも八戒さんの好みわからないし。あとはお酒とか?でも一応、未成年だからなぁ…買う時にツッコまれちゃったら、即アウトだ。
悟空だったらご飯とか、ケーキを作ってあげればOKなんだけどなぁ…………あ、でもそれはアリかなぁ。八戒さんより上手に作れる自信はないけど、お菓子くらいなら何とか作れると思うんだよね。味はともかく。…いや、それも良くないんだけどさ。
「最近、仕事が忙しいって疲れた顔してたし…お菓子とお弁当、作ってみようかなぁ」
それでお昼に誘ってみよう。八戒さんの誕生日当日は、まだギリギリ夏休みだし。よし、そうと決まったら何を作るか考えなくちゃ!
『こんにちは。突然なんですが、明日のお昼ご一緒しませんか?』
昨日の夕方、必死に考えて悩みまくった結果、送ったメールなんだけど…まぁ、シンプルだよね。シンプル・イズ・ザ・ベストとは言いますけれども、女らしさの欠片もないのはいかがなものか。お誘いメールだし、もう少し可愛くデコッてみるとか…あったよな、と思ったけど、私のキャラクター的にそれはないわ。と思い直した。うん、そんな私は気持ち悪い。
そんな事情はともかく。八戒さんからはいいですよ、と返事をもらいました。もちろん、ちゃんと手ぶらで来てくださいと付け加えて。
「梨花さん!」
「あ、八戒さん!…すみません、忙しいのに…」
「いいえ。お昼休みですから大丈夫ですよ」
此処は暑いですから、あっちのベンチに移動しましょうか。
彼が指差した先には大きな木が陰になっている、とても涼しそうな場所。確かに陽射しが遮られているから、お弁当を食べるには良さそうだ。
「あの、…八戒さん、私ですねお弁当を作ってきまして…!」
「梨花さんが…?」
「は、はい…お口に合うかどうかわかりませんが、よろしければ…!!」
カバンの中に忍ばせていたお弁当箱をズイッと差し出した。ああマズイ、すっごく緊張してきた。味見はしたし、見た目も悪くないのは確認済みだけれども、やっぱりあげるご本人の−−−というより、第三者の反応がどうしても気になってしまう。今までに他人に料理を振る舞ったこと、ないんだもん。不味かったらどうしよう…!
そんな私の気持ちなんて露知らず(当たり前だけど)な八戒さんは、あっという間にお弁当を広げて、今正に口にしようとしている所でした。うわ、さっきよりも緊張してきた!!
「―――…美味しい」
「………へ?」
「ですから、とても美味しいですよ」
「ほっ…本当ですか?!変な気遣いとかいらないですよ?!」
「本当に美味しいですよ、料理上手なんですね。梨花さん」
「ッ!…あ、ありがとう…ございます」
ニコニコと笑いながらそう言ってくれた八戒さんの顔が、正面から見れない。嬉しすぎて言葉にできないし、そんな風に褒められると顔に熱が集中しちゃうから、顔も上げられないし…!
私、今ものすごく失礼な態度をとっている自信がある。本当に。
「八戒さんって、甘いもの…苦手だったりしませんか?」
「いいえ?好きですよ」
「じゃ、じゃあ…良かったらこれも、」
差し出したのは綺麗にラッピングをしたマドレーヌ。本当はブラウニーとかパウンドケーキを焼こうと思っていたんだけど、作り方を調べてみたらマドレーヌの方がイケるかも!って思っちゃって。何でそう思ったのかはわかんないんだけどね。マドレーヌだって難しかったし…無難にクッキーにしておけば良かったなー、と思ったのは、私だけの秘密です。
これは両親や悟空に食べてもらったから、味は大丈夫!見た目は…ちょっと焦げ目があるけど、不味そうには見えないから多分セーフだと、思う。うん。
「…うん、これも美味しいです」
「よ、良かったぁ…」
「けど、どうして急にお弁当やマドレーヌを?」
「八戒さん、…今日、誕生日なんでしょう?」
何をプレゼントしようか悩んで、最近仕事が忙しいって言っていたから、外でご飯を食べれば気分転換になるかなぁって思ったんです。
考えていたことを素直に口に出せば、八戒さんは少しだけ驚いた表情。もしかして誕生日を忘れてたのかな、って思ったんだけど、そうではなくて私が誕生日を知っていたこと、そして祝ってくれたことに驚いたんだって。意外、だったみたいです。
「改めて、誕生日おめでとうございます」
「…ありがとう、梨花さん。とても嬉しいですよ」
「喜んでもらえたのなら、私も嬉しいです」
ようやくホッとした。そっと息を吐いて、ほとんど手を付けていなかったお弁当を食べることに。感想を聞くまでは何て言うか、こう…食べる元気がなかったと言いますか。私だってそれなりに緊張はするんだよ、何てたって片思いしてる人、ですし。
でも美味しいって言ってもらえて、本当に良かったな。
「―――あの、梨花さん」
「え?」
「良かったら、貴方の誕生日を教えてもらえませんか?祝ってもらったお礼をしたいので」
「い?!い、いいですよ!そんなお気遣いしなくても…!」
「気遣いというより、僕が梨花さんの誕生日を祝いたいんです。いけませんか?」
そ、そんな風に言われちゃったら断れない…でも好きな人に祝ってもらえるなんて、こんなに嬉しいことはないと思う。そう思い直して私は、熱くなる頬を隠して口を開いた。