※軽い性描写があります
土方さんは、私のお客さんのことを違う男と呼ぶ。余りにも憎々しげにいうものだから、キツイ目元が余計こわくなる。
そりゃ仕事だしと思いながら、へらへらと笑っていると今まで咥えていた煙草を灰皿に押し込んで、そのまま私の首を捕まえた。あ、キスされる。思った時にはされていて、腕の力に反して不器用な優しいキスを何度か落とされた。中学生みたい、と思ったのを知ってか知らずか、離れる時に鼻をつままれた。
「こうしたら、少しは美人になるかもな」
「ひどい!」
「お前の方がひどいんだよ」
「美人になったら、もっと好きになってくれる?」
「馬鹿かお前」
それは、どの馬鹿だろう。鼻の頭を撫でながら、無意識で煙草を探る右手を目で追った。そんなに好きっていうなら、恋人にしてくれればいいのに。これだけはどうしても言えないから、相変わらずの事後の気だるさに身を任せられるだけ任せる。
今日は久しぶりに会ったから、余裕無かったなぁ。色んなところが痛む。こりゃ明日筋肉痛だ。思いながら、いつの間に着たのかわからない着物に頬を寄せる。
「今日はゆっくりするんだね。いつもすぐに仕事に行っちゃうのに」
「早く行って欲しいのか?」
「ううん、ずっとこうしてたい」
今度は馬鹿とは言われなかった。思ってるんだろうけど。すぐに出て行けば、別の人のところに行くの知ってるんでしょ? これは怒ってくれないんだね。机の上で光ったり暗くなったりしてるスマホの画面を、遠目に見る。
「演技が上手ェのな、お前は」
「何が演技なのか、土方さんわかんの?」
「全部だろ」
本当は、ラブホで普通のテレビ番組を流しながら、こうしてダラダラしてるのもあんまり好きじゃない。セックスは誰としても気持ち良くない。お金だって特別欲しいわけじゃない。夢も欲しいものも、貞操観念も無いからこんなことになってるだけ。
「演技含め、私だもん」
「もんとか言うな」
「だったら土方さんも演技って言わないで」
本当は、セックス抜きで会いたいなんて言えるわけないでしょ。だから、土方さんもそんな困ったみたいに笑わないで、私のことが好きなフリしないで。
スルリと土方さんの横から抜け出すと、何もつけていないから寒かった。シャワー浴びなくちゃ。そう言いながら背中を向ける直前に、私の背中を見た顔が歪んだ気がした。気のせいだ、きっと。全部。
「ひとつだけ言っていいか」
「なんですか?」
「俺は、こういう見返りが欲しくて助けたわけじゃねぇ」
「知ってるよ、警察だからだよね?」
いつだったか客とこじれて人通りの少ない道端で、襲われそうになったことがある。
もちろん、そういうタイプのご奉仕なんかじゃない。必死に抵抗していた時に、見兼ねて助けてくれたのが、よりによって真選組のお偉いさんだったもんだから、二重に驚いた。あっという間に、客は強姦未遂でお縄について、私も事情聴取を受けた。
それが土方さんとの最初の出会い。
二度目の出会いから私達は、サービスする側とされる側になってしまった。どちらが望んだ訳でもなく、自然と。
店は通さず、あくまでプライベートでのお付き合いだが、私達はホテルの外で会うことはない。それがどういう意味か、わからない程馬鹿じゃないつもりだ。
私はただ、土方さんに恩返ししたかった。
私には体を提供することしかできないから、迷わずそれを選んだのだけど。もしかしたら他の道があったんだろうか、今となっては考えたくもない。バスルームに入る前にちらりとソファーに脱ぎ散らかした服を確認する。もしかしたらこの逢瀬は、とっくに恩返しでもなんでもなくなってしまってるのかもしれない。
(だとしたら、なんだろう?)
馬鹿な私には分からない。分からなくていいように思えた。気付いてしまえば、それだけ辛くなるのを知っているから。
*
「風呂長すぎんだよ」
「……もう、帰ったと思ったのに」
「んな訳ねえだろ」
ニヤニヤと綺麗な顔に似合わない嫌な笑顔を浮かべる土方さんを、じとっとした目で見返す。そして巻いていたタオルを恥もかき捨て取り去って、纏っているのは下着のみになる。そのまま、見せつけるように仁王立ち。下着で覆っているところもいないところも、痛々しいほどに無数のキスマークという名のうっ血が散っている。
「おー、いい感じについてんな。頑張った甲斐あった」
「どうしてくれんの、これじゃ仕事が」
「やめりゃいいだろ」
「そんな、簡単に……っ」
嫌がらせにしては多すぎる所有の印を隠すように、ほどいたタオルを再び纏おうとするとそれを阻もうと二本の腕がむき出しの腰に絡み付いた。気付けば再び信じられないほど近くに土方さんがいて、何度も味わってきたはずの距離感に目眩がする。
「お前な、ここまで俺に跡つけさせる女なんて他にいるとでも思ってんのか?」
「私が、知るわけ無いじゃん……」
「だったら教えてやるよ、違う男のところに行くのが嫌になるくらい」
唇を重ねた時に囁かれた私の名前に、どうしようもないくらい泣きたくなって、思わず目をつむってしまった。こんなの、いつぶりだろう。味わったことのないほど優しいキスに、全身の跡が疼く。恥ずかしいくらい土方さんのことが好きで、どうしていいのか分からないから、今だけは全てのしがらみを捨てて愛されることを望んでもいいかな。答えるように土方さんが微笑んだ。こんな顔するなんて、ずるい。
「お前な、何て顔してんだよ」
「……土方さんだって、ひどい顔」
「へえ、俺はどんな顔してる?」
私のことが大好きで仕方ない顔、なんて言えるわけ無いから、下手くそなキスで誤魔化させて。
土方さんは、私のお客さんのことを違う男と呼ぶ。余りにも憎々しげにいうものだから、キツイ目元が余計こわくなる。
そりゃ仕事だしと思いながら、へらへらと笑っていると今まで咥えていた煙草を灰皿に押し込んで、そのまま私の首を捕まえた。あ、キスされる。思った時にはされていて、腕の力に反して不器用な優しいキスを何度か落とされた。中学生みたい、と思ったのを知ってか知らずか、離れる時に鼻をつままれた。
「こうしたら、少しは美人になるかもな」
「ひどい!」
「お前の方がひどいんだよ」
「美人になったら、もっと好きになってくれる?」
「馬鹿かお前」
それは、どの馬鹿だろう。鼻の頭を撫でながら、無意識で煙草を探る右手を目で追った。そんなに好きっていうなら、恋人にしてくれればいいのに。これだけはどうしても言えないから、相変わらずの事後の気だるさに身を任せられるだけ任せる。
今日は久しぶりに会ったから、余裕無かったなぁ。色んなところが痛む。こりゃ明日筋肉痛だ。思いながら、いつの間に着たのかわからない着物に頬を寄せる。
「今日はゆっくりするんだね。いつもすぐに仕事に行っちゃうのに」
「早く行って欲しいのか?」
「ううん、ずっとこうしてたい」
今度は馬鹿とは言われなかった。思ってるんだろうけど。すぐに出て行けば、別の人のところに行くの知ってるんでしょ? これは怒ってくれないんだね。机の上で光ったり暗くなったりしてるスマホの画面を、遠目に見る。
「演技が上手ェのな、お前は」
「何が演技なのか、土方さんわかんの?」
「全部だろ」
本当は、ラブホで普通のテレビ番組を流しながら、こうしてダラダラしてるのもあんまり好きじゃない。セックスは誰としても気持ち良くない。お金だって特別欲しいわけじゃない。夢も欲しいものも、貞操観念も無いからこんなことになってるだけ。
「演技含め、私だもん」
「もんとか言うな」
「だったら土方さんも演技って言わないで」
本当は、セックス抜きで会いたいなんて言えるわけないでしょ。だから、土方さんもそんな困ったみたいに笑わないで、私のことが好きなフリしないで。
スルリと土方さんの横から抜け出すと、何もつけていないから寒かった。シャワー浴びなくちゃ。そう言いながら背中を向ける直前に、私の背中を見た顔が歪んだ気がした。気のせいだ、きっと。全部。
「ひとつだけ言っていいか」
「なんですか?」
「俺は、こういう見返りが欲しくて助けたわけじゃねぇ」
「知ってるよ、警察だからだよね?」
いつだったか客とこじれて人通りの少ない道端で、襲われそうになったことがある。
もちろん、そういうタイプのご奉仕なんかじゃない。必死に抵抗していた時に、見兼ねて助けてくれたのが、よりによって真選組のお偉いさんだったもんだから、二重に驚いた。あっという間に、客は強姦未遂でお縄について、私も事情聴取を受けた。
それが土方さんとの最初の出会い。
二度目の出会いから私達は、サービスする側とされる側になってしまった。どちらが望んだ訳でもなく、自然と。
店は通さず、あくまでプライベートでのお付き合いだが、私達はホテルの外で会うことはない。それがどういう意味か、わからない程馬鹿じゃないつもりだ。
私はただ、土方さんに恩返ししたかった。
私には体を提供することしかできないから、迷わずそれを選んだのだけど。もしかしたら他の道があったんだろうか、今となっては考えたくもない。バスルームに入る前にちらりとソファーに脱ぎ散らかした服を確認する。もしかしたらこの逢瀬は、とっくに恩返しでもなんでもなくなってしまってるのかもしれない。
(だとしたら、なんだろう?)
馬鹿な私には分からない。分からなくていいように思えた。気付いてしまえば、それだけ辛くなるのを知っているから。
*
「風呂長すぎんだよ」
「……もう、帰ったと思ったのに」
「んな訳ねえだろ」
ニヤニヤと綺麗な顔に似合わない嫌な笑顔を浮かべる土方さんを、じとっとした目で見返す。そして巻いていたタオルを恥もかき捨て取り去って、纏っているのは下着のみになる。そのまま、見せつけるように仁王立ち。下着で覆っているところもいないところも、痛々しいほどに無数のキスマークという名のうっ血が散っている。
「おー、いい感じについてんな。頑張った甲斐あった」
「どうしてくれんの、これじゃ仕事が」
「やめりゃいいだろ」
「そんな、簡単に……っ」
嫌がらせにしては多すぎる所有の印を隠すように、ほどいたタオルを再び纏おうとするとそれを阻もうと二本の腕がむき出しの腰に絡み付いた。気付けば再び信じられないほど近くに土方さんがいて、何度も味わってきたはずの距離感に目眩がする。
「お前な、ここまで俺に跡つけさせる女なんて他にいるとでも思ってんのか?」
「私が、知るわけ無いじゃん……」
「だったら教えてやるよ、違う男のところに行くのが嫌になるくらい」
唇を重ねた時に囁かれた私の名前に、どうしようもないくらい泣きたくなって、思わず目をつむってしまった。こんなの、いつぶりだろう。味わったことのないほど優しいキスに、全身の跡が疼く。恥ずかしいくらい土方さんのことが好きで、どうしていいのか分からないから、今だけは全てのしがらみを捨てて愛されることを望んでもいいかな。答えるように土方さんが微笑んだ。こんな顔するなんて、ずるい。
「お前な、何て顔してんだよ」
「……土方さんだって、ひどい顔」
「へえ、俺はどんな顔してる?」
私のことが大好きで仕方ない顔、なんて言えるわけ無いから、下手くそなキスで誤魔化させて。