※大学生パロディ/捏造注意

20才になっても、成人した自覚なんて結局芽生えない。そんなの、知らなかった。知らないままでも良かった、なんて。
窮屈でしか無かった前撮りの写真をぱらぱらと流し見て、相変わらず笑うのが下手くそな自分の顔に嫌気が差した。食べ飽きた蜜柑に手を伸ばしながら、年が明けて何日か経っても相変わらず元気なテレビに、ぼんやりと視線を移した。
「明日、成人式よねぇ」とアナウンサーに相槌を打つように気の抜けた声を上げたのは、私じゃ無くてお母さんだった。聞こえないフリをして、スマホをいじる。初期搭載されたままのスケジュールが、後2時間で約束があることをしつこく通知した。といっても、設定したのは私なんだけど。写真をお母さんに渡して、コタツの誘惑から逃げ出した。



高校の時、目立つグループにいた女子が提案した同窓会にのこのこ参加するなんて、18歳の私に言ったら何て言うだろう。
仲の良かったクラスメイトと差し障りの無い会話を続けながら、一向に減らないファジーネーブルを眺めた。時々上がる派手な大声に小さく笑いながら、友達にバレないように違うテーブルに目を泳がす。
それも何度目かに失敗に終わり、目が合った近藤が笑ってしまうくらい大声で私の名前を呼んだ。顔だけ申し訳無さそうにしかめてから、女子の甘ったるい空気から一目散に逃げ出した先には、私以外の風紀委員が勢揃いしていた。最初からここに混ざれば良かった。二年前と何も変わらないようで、何かが少しだけ違う彼らに迎えられ、ようやく緊張がほぐれた。

「しかし、ちょっと見ない内にすっかり女子大生だなぁ」
「近藤さん、親父臭いですぜィ」
「え!臭い!?ちゃんと風呂入ってきたのに匂う!?」
「……近藤って彼女いないでしょ」
「絶賛、片想い中だとよ」

向かいに座った土方が、そう言って煙をため息に混ぜて吐き出した。その姿を見て、大して驚かなかったのは、変わらないやり取りの中に隠しきれない成長を感じ取っていたからだろう。
二年の空白を感じさせない空気の下で、それぞれが経てきた二年間から目を逸らすことは許されなくて、胸がじわりと痛んだ。

「相変わらず、剣道やってんの?」
「近藤さんの道場には、たまには集まってるな。何も変わんねぇよ、こっちは」
「そっか、」
「……お前は?」
「え、私? 特に何も、バイトして大学行って、っていう」
「大学、楽しいのか?」
「……うん」

答えながら意味も無く笑った。土方はどんな話でも真面目に聞いてくれるから、そうしないと続けられない。薄まったカクテルはジュースのように、喉をどろっとおりていった。

仲の良かった友達は大体皆、地元に留まった。遠くても、せいぜい隣の市とかその辺だ。そもそも附属高校だから、持ち上がりで大学に上がるのが普通だった。久しぶりに集まった同窓会といっても本当に二年ぶりなのは、私含め、地元を離れた数人だけだ。

「土方のことは、お母さんが電話でしょっちゅう話すから、全然久しぶりな気がしないよ。おばさん、元気?」
「あぁ、元気すぎるくらいだ。よくお前がどうしてるかって言ってる」
「ほんと? うれしいなぁ」
「下手したら押しかけるぜ、あれは」

充満している浮かれた空気は、なんなく私達の前を素通りする。沖田や近藤は相変わらず楽しそうに騒いでるのに、私と土方には見向きもしない。幼なじみとの再会に、柄にも無く気を遣ってるんだろうか、余計なお世話だ。
今にも溢れ出しそうな本音にかけた鍵が、久しぶりに音を立てて軋む。

「……でも良かった。お前が、向こうでちゃんとやれてるんだったら」
「めちゃくちゃ怒ったもんね、私が外部受験するって言ったら」
「ったりめーだろ。お前みたいな、ぐうたらで考え無しな奴が一人暮らしなんて、せいぜい野垂れ死ぬのがオチだからな」
「そんなわけ無いじゃん!!」

土方が呆れ顔で笑う。ずるい、そんな顔。
言いたくて言えないことが、まだ増える。
二年でゼロにしたはずの胸の中が、一気に塗り替えられる。仕方ないから笑う。
本当はひとりが寂しくて泣いたことも、皆と同じ大学に行けば良かったって悔やんだことも。
数え切れないくらい、頭の中で土方の名前を呼んだことだって、バレないように。
あちこちで上がる笑い声が、自分に向いてるように感じる。
アルコールと副流煙のせいだ、きっと。
無理やり山崎に絡んで終わらせた二人の会話が名残惜しいのも、土方の視線だけが気になるのも、全部。



「二次会、ほんとに行かなくて良かった?」
「お前送れってお袋に言われてんだよ」

二次会のカラオケになだれ込む集団を苦笑いで見送って、ぱらぱらと交わされる「またね」の間をくぐり抜け、私と土方は二人、帰路についた。登下校に使っていた道も日付が変わる頃では、ガラリと様子が違う。高校生じゃない土方と私が肩を並べて歩くと、尚更だ。無理した高いヒールが、ダルそうに音を立てる。
特に話題も無かったし、通学路のことを言おうとして、やめた。土方は高校の隣の敷地に通ってるんだから、深夜にこの道を通ることだって珍しくも何とも無いはずだ。今日みたいに飲み会の帰りとか、他の女の子と歩いたことだって、あるだろう。二年ってすぐに経つくせに、ゾッとするほど長い。すっかり取れたグロスをなぞるように唇を舐めた。

「……そう言えば、明日って成人式だよな」
「あぁー、言われればそうだねぇ」
「振袖、着るんだろ? ちゃんと見せに来いよ」
「写真でどうせ見たんでしょ?」
「すげぇ顔してた、お前」

人通りの無い夜道、かすかにするのは土方の煙草の匂い。おかしそうに笑う土方が、咳払いをひとつ、ちかちかと頼りない電灯の下で落とした。少しだけ煙草で掠れた声が、もう私達は自覚など無くても大人になってしまって、子供には戻れないのだと念押ししてくる。

「明日、振袖楽しみだな」
「裏切るから期待しない方が良いよ」
「まぁ顔は置いといて、ちゃんと似合ってたから安心しろ」
「……明日、早いからさ」
「あからさまに照れんなよ。じゃあ、また明日な」

土方の背中が玄関の扉に消えたのと、私のちぐはぐな笑顔が崩れたのがほぼ同時だった。同時に耐え切れずに、大粒の涙がぼろぼろっと頬を濡らした。それでも口はなんとか笑おうとしてるから、情けない。
とっくに仕舞い込んだ振袖を思いながら、私も家に入る。遅い帰宅に対する母親の愚痴に謝りながら、中途半端に投げ出していたトランクの整理に取り掛かった。さっき泣いたのとは裏腹に、自分でも驚くくらい冷静だった。
高校の時、土方から逃げた意気地なしの私が、今更幸せになんてなれる訳無いの。
明日、私は下宿先に帰る。
同窓会に行ったのだって、自分の中でケジメをつけるためだった。そんなの、簡単につけられるわけ無いのに。
きっと土方は、明日写真で見た振袖姿の私を捜すんだろう。捜してくれるんだろう。
それだけで、私は充分だ。無理やり閉めたトランクに鍵をかけて、瞬きをしただけでまた溢れた涙をぬぐってみても、もう笑えなかった。


咲いたのは徒花でした



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