桂の顔を見た瞬間に、これは面倒事に巻き込まれるなという確信があった。にも関わらず、話を聞いてやったのが運の尽きだったらしい。なんで俺が、桂の恋愛相談を受ける羽目になったのか、誰でもいいから説明をしてくれ頼むから。確かにこいつは戦友はいても、友人はいねぇタイプではある。それは認める。けどさ、こんな時こそあの、いつも一緒にいるバケモンの出番じゃねーの? まぁ、喋ってるとこ見たことねぇけど。自分で用意した茶をすすりながら、ぼんやりしてると、ちゃんと聞いてるのか!なんて注意されるから、二重に面倒くさい。彼女かよお前は。

「だからアレだろ、ほら、告ってフラれたんだろ? 結果でてんじゃねーか。そっからなんて、どうしようもできねぇだろ」
「そんなことはない。だからお前に相談しているのだ銀時」
「は? お前さ、ここは万事屋だって何回言ったらわかんの? 恋愛相談所じゃねーの、駅前のスタバじゃねぇんだよここは。ダベりたいだけなら、そっち行け」
「俺が相談したいのは、万事屋ではなくお前なのだ銀時」

なんで今日に限って誰も居ないんだよほんとに。いつもは居なくていい時もいるくせに。定春までどっかいっちまって、静かすぎて気持ち悪ィったらねぇ。ヅラも少しは空気読めよな。後、髪を切れ鬱陶しい。

「どうやら俺が告白した相手は、お前に好意を寄せているらしいのだ」
「……どこのドエムのくノ一だそりゃ」
「誰かは言えんが、くノ一ではない」

なるほど、だからさっきからちょっと不貞腐れてる訳か。そこで恋敵に相談しに来るところが、やっぱり頭がおかしいっていうか、ちょっと変わってるっていうか。まぁそんなことはどうでもいいとして。

「誰だよソイツ、俺の知ってる奴か?」
「当たり前だ」
「……俺の知ってる女って、ほぼ事故物件なんだけど、お前そんなのが好きなの?」
「そんなのとは、失礼な! それに事故物件などではない!」

いやいやいや、ほぼ全壊の物件しか知らねぇよ俺は。見た目は割と良かったとしても、住めたもんじゃねぇよ。それとも知ってるってことは、下の階のババアや風俗のお姉ちゃん達も含まれる? そんくらいしか女知らねぇんだけど。だとしても、とんでもない女を好きになったなコイツ。

「で、なに? 俺に、フってくれとでも言うのかよ」
「そっ……そんな手が……! いや、ここは頼んでおいた方が後々……」
「テメーが気付いて無かったのはどうでもいいとして、俺、告白されてもねぇんだけど?
そもそも、誰かも知らねぇし」
「俺には銀時が好きだと伝えてきたぞ?」

うん、それ多分俺に言っちゃダメな奴だよね。今更遅いけどさ。旧友に友達ができない原因を見た気がして悲しいよ俺は。

動揺から逃げるように手をつけた湯呑みに、もう茶は一滴も残っていない。桂は相変わらずなるほどなるほどと壊れたように繰り返している。それ以外に何の目的があって俺に相談にきたんだよ! 相手にとっては嫌がらせでしかねぇんだけど、誰だかは知らねぇが。

「それで銀時、お前はどうするんだ」
「どうもこうも、誰かわからねぇような奴をフれって、いくらなんでもめちゃくちゃすぎんだろ」
「成る程、それがお前の答えか……。やはり銀時、お前は一筋縄ではいかないらしい。今日はそれが分かっただけ、ひとまず良かったとしよう」
「何がひとまず? 俺はなーんにも良くねぇよ? オイヅラ、とんでもねぇモヤモヤを俺に押し付けて、何でそんな晴れ晴れとした顔してるわけ?」
「ヅラじゃない桂だ! アディオス! また会おう、銀時……いや、戦友よ!」

流石は一級テロリスト、逃げ足だけは評価してやる。額の青筋を丁寧に伸ばしながら、状況を整理する。
桂が告白した女に、俺が好きだからとフられた。以上。
え?内容これだけ?いままでこんだけ尺使っといて、内容薄すぎじゃない? カルピスだったら味しねーよもう。ほぼ水だよ?

まぁ、要するにアレだな、銀さんモテキってことだな。長澤まさみや真木よう子なんかに言い寄られまくるってことか。なるほどなるほど、なんて妄想でもしなきゃ混乱を処理出来そうにない。半狂乱の貴公子だがなんだか知らねぇが、相変わらずとんでもねぇ奴だ。やっぱり関わるんじゃなかった。そもそも、関わっていいことなんてあったか? いや、無かった。

「つーか、誰なんだよ一体……」

それから案の定気になって気になってしょうがなくなった俺は、知り合いの性別女に会うや否や「お前、桂に告白されたりした?」なんて聞きまくった。勿論、好感度は地に落ちたことは言うまでもないし、あのメスゴリラに聞いた時に、たまたま用があって床下にいたと言い張るストーカーゴリラが案件を聞いてしまったらしく、真選組では今、冬のテロリスト大捜索祭りを開催しているという。ざまあみろ。

「銀ちゃん、結局見つからないアルか?」
「やっぱり桂さんに、からかわれてたんですよ。銀さんのことを好きになる女性なんて、いるわけないじゃないですか」

部下の心無い言葉も、今はどうやって外道丸抜きで結野アナに聞きだそうかと策を練っている最中なので、容赦無く無視する。

「そういえば、あの人には聞いたんですか? 」
「あの人?」
「ほら、銀さんの幼馴染とかって前言ってた。僕はあんまり会うことないんで面識無いんですけど、あの人も女性ですよね?」

まさか、コイツからそんな指摘が入るとは夢にも思わなかったが故に、硬直してしまった。

あ、これはマズいぞ。だってほら、そんなの反則じゃん? 確かにアイツは桂とも幼馴染なわけだから、告白とか十分あり得るけど? でも、アイツとはほら、良き友達っていうか、そういう仲って一回壊しちゃったらどこぞの中2病高杉みたいに修復不可能だし? そもそも別に好きとかよくわかんねぇし? どうせアイツだって彼氏の一人や二人いんだろ、敢えて聞かないから知らないけど!ていうか興味ないし!!

「…………いや、アイツはホラ、そーいうんじゃねーから」
「そーいうのって何アルか? 何で銀ちゃん顔真っ赤ネ? 変なもんでも食べた?」
「あれ?もしかして銀さんその人のこと」
「ハァ? 意味わかんないこと言わないでくれるかな新八くんに神楽くん?」
「私は何も言って無いネ」

このタイミングで、ピンポンと玄関のチャイムが鳴り、まさに今ここで話していた奴のものと思わしき声が「銀時いるー?」と無邪気に尋ねてきたもんだから、こーいうのなんて言うんだっけ、ああそうだそうだ。

「……飛んで火に入る夏の虫?」
「もしかして、例の人じゃないですか? 神楽ちゃん、僕達ちょっと外出てようよ」
「了解アル! 銀ちゃん、休憩は2時間までヨ〜」

ここまでの速さは秒数でいうと、およそ5秒程度。いつの間にこんな連携が取れるようになったんだお前達! そしてどこにいるんだ定春! そんでもって、銀さんを一人にしないでく

「久しぶり〜 さっきの子たち万事屋一緒にしてる子でしょ? 可愛いじゃん」
「お、おう、久しぶり」
「……何その、いかにも何かありますよっていう動揺っぷりは」

流石、目敏くていらっしゃる。客用の茶を震える手で出しながら、頭の中に「ドウシヨウ」の五文字が増えていく。聞けばいいんだ、今までの女共のように! 聞いて殴られればいいんだ! そしたら、コイツは……コイツは……

「お前、ヅラに告られたってホント?」

ガッシャン。あ、割れた。床で大小の破片に変わった元湯呑を眺めてから、ゆっくりと犯人の顔を見る。
そして確信する、コイツだったのだと。

「それ…………誰から聞いた? ロン毛バカ? ほほほ他に、何か言ってた?」
「何かって?」
「いや、聞いて無いなら、いいや」

いいや、全く良くは無い。何故なら俺は、バッチリと聞いてしまったからである。そして、今の俺なら容易く想像できる。コイツが慌てふためき赤面して、まさに今、俯いて困っている理由を。だがしかし、これから俺がどんな行動を取れば良いのかは全くもってわからない。
幼馴染みとのかつてないほどの重い空気。いつもの俺なら、葬式かお見合いかと華麗にツッコんで見せるのだが、今そんなことができるほど、肝が座っている訳は無い。

「と、とりあえず、お前ちょっと退けろ。足の下危ねえから」

そう、今の俺ができることといえば割れた湯呑みを片付けることだけなわけで、そもそも湯呑みに気付いていなかったコイツが慌てふためくのを大人しくさせ、いつもの三倍くらいの速さで片付けてから、本当の地獄が始まったのだった。
くそ……せめてヅラから告られたことしか知らなければこんなことには……! 今頃、絶賛逃走中なヅラのことを思い出しながら、冷や汗が止まらない。

「ていうか、桂、お前のこと好きだったんだなー。全然気づかなかったわ」
「いや、私もびっくりした。いきなりだったから」

だよなー俺もいきなりだったからびっくりしたわ、二つの意味で。これは言えない。

「つーかさ、お前、ヅラのことフったんだよな? なんで?」
「なんでって…… い、いきなりだったから、つい」

オイオイ嘘をつくな嘘を。銀さんのことが好きだったからだろ? 言っちゃえよ! 言って楽になっちゃえよ! ほんと! 楽にしてよ俺を! お願いします! これも言えねーよ勿論。

「フーン、いきなりだったらフるんだ? じゃあ改めて告白されたら、付き合うってこと?」
「…………そんなの、銀時に関係ないじゃん」
「関係ねぇわけねぇだろ!!大アリだチクショウ!!」
「え?」
「え?」

あれ?これ俺、勢いに任せて言っちゃった?もしかして。今までのシラを切って誘導作戦、自分で壊しちゃった?

「あーー、えっとね、その、ホラ。桂とか俺に相談してきて超鬱陶しかったしさ、ね? だってアイツ犯罪者なのに、もっと他に相談ある筈なのに、どうでもいい恋愛相談を何時間もベラベラと喋りやがってさ、な? 大アリだろ?」
「そう、だよね……。銀時関係無いのに巻き込んで、私がフったばっかりに…………ごめん」

あ、違う流れになっちゃってるわこれ。
どうしたらいいか分からない奴だわ。もう銀さんパニックだわ。何が二時間だ神楽この野郎!休憩の意味わかってんのか!

「私、桂のこと、もう一回ちゃんと考えてみる……」
「え? 俺のことは?」

どんだけ自爆するんだよ俺は。こんだけ爆発してたら、俺の方が立派なテロリストじゃねぇか。ほら、コイツ今までの人生で見たこと無ぇような顔してるじゃねぇか。

「ほら、気分転換にさ、桂のことばっかり考えてても煮詰まっちゃうだろうから。俺のことも、考えてたら良いんじゃね?っていう」
「あ、あー、気分転換にね!」
「そうそう!気分転換に!ほら、俺って天パだし!」

髪質は関係無いけどね!一切!

「私さ、その……銀時のことも、考えてもいい……?」
「そりゃ……まぁ」
「ほんとに? 迷惑じゃない? 嫌だったりしない?」
「ンな訳ねぇだろ!……要するにさ、アレだよアレ」
「……アレってなに?」
「お前は他の男なんかより、俺のこと考えてりゃいーの」

こんな臭いセリフだって言えちゃうんだから、俺ってやっぱりすごいな、うん。さすが主人公。何はともあれ、より変な空気にはなったけど、もうどうでもいいかなって。今はとりあえず幸せなので、大人しく爆発でもしとくわ。ただ、ヅラが今度来たら容赦無く警察につき出そうと思います。



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