人に悩みを相談するにあたって、気を付けるべきことは、どれだけ自分の悩みを整理してから相手に伝えるか、これが悩みなのか愚痴なのか明瞭に区別できているのか、など丁寧にあげているとキリがない。
殊更、悩みが恋愛に関するものだった場合、最も注意すべきことはなんだろう。
「成る程な、話は粗方理解できた」
「うん、でさ、私どうすればいいかな?」
混雑する時間帯にも関わらず、店内にいる客は珍しくまばらで、客同士の存在を忘れてしまうほどの間隔で広い店内に散っているため、時折水を注ぎにくる店員以外に気を払う必要がない。悩み相談にはうってつけの喫茶店である。頼んだ珈琲はもう無くなってしまい、元々あった水を少し飲んで喉の渇きを潤す。
目の前の桂は、腕組みをして真剣に私の悩みを受け止めてくれているみたいだ。内心、こいつに相談して大丈夫かなんて思っていたことを申し訳なく思ってしまう。
「要するに、銀時に想いを寄せているものの、古くからの友人であるという距離感を壊したくないため、告白する勇気が無い、ということだな?」
「その通りです……」
わたしが1時間ほどかけて話したことが、コンパクトにまとめられていることに少し感動を覚えてしまった。話す前から手にかいた汗が尋常じゃないことになっている。
ただの相談でこんなことになるんだったら、告白なんてとんでもない。と思うのだが、そろそろ夜毎に飲み屋や風俗街に消えていくちゃらんぽらんに片思いなんてしてるのがキツくなってきたというのが本音なのだ。銀時が私に気が無いことも知っているから、尚更。
しかし、そんな簡単に吹っ切れるなら、こんな何年も告白を渋っている筈がない。分かってはいるものの、いざ振られたら立ち直れる自信は無いし、もし距離を置かれたらなんて思うと、振られるよりもずっと嫌だ。でも、かといって告白しない、となると……。堂々巡りを何周もしても埒が明かないので、誰かに助言を頼むことにした。
それが、銀時と私の旧友、桂である。
こいつはとんでもなく真面目な馬鹿というか、頭のおかしい所があるが、なんだかんだと攘夷志士達の中では尊敬されたりもするので、そういうカリスマ的な頼れる所を一か八かで買ってみたのだ。
「そんなもの、答えはとうに出ているであろう」
「え、そうなの?」
「胸に手を当てて考えてみるがいい、お前が今まで誰と共に在り、これからも、誰と共に在りたいかということを」
やっぱり頼れるところもあるじゃない。今まで影でロン毛バカなんて呼んでてゴメンね。幼少時代からの態度を猛省しながら、自信満々に笑っている桂を再び見ると、突然手を差し伸べられた。わけのわからないままに、その手を取ると、ぎゅうと握られる。ああ、励まされてるのかな。桂ありがとう、私頑張って告白、するよ。そう言おうと口を開いた瞬間、遮るように桂が口を開いた。
「銀時なんてやめて、俺にしちゃいなよ」
「…………え? ごめん、ちょっと耳の調子が、なんて言った?」
「俺はな、お前のことが、その、す」
「た、タンマ!!」
「何故止める!」
ようやくわかった。
恋愛相談をする時に、最も注意すべきは、相談相手であるということが。
すごい勢いで握られていた手を振りほどき、再度桂を見る。すると赤面しているようにも見える。卒倒しそうになりながらも、桂、いやロン毛バカの言い分を聞くことにした。
「あのさ桂、私、さっき何て相談した?」
「銀時が好きでどうすればいいか」
「うん、で、桂はそれを踏まえて?」
「お前に交際を申し込んでいる」
「なんでだ!!なんでそうなる!!」
「なんでって、それは、お、お前のことが、す、す……」
「あーもう照れるな!!」
思わず声のトーンが大きくなってしまう。店員や、あんなに遠くに座っているカップルからの目線が痛い。しかし今となっては、そんなことに気を払っている場合ではない。分かってください。私は被害者なんです!
「成る程な、好いている相手に気持ちを伝えるとは、これほどまでに難しいのか。お前も、さぞかし苦しかったろう」
「え、桂……もしかして、それを知るために?」
「しかしもう大丈夫だ。俺を選べば、こんなに辛い思いはしなくても良い。さぁ!」
いずれにせよ、狂乱の貴公子の告白からは逃げられないらしい。しかし、恋愛相談されて告白するってどんな感情を経たらそうなるのか全くわからない。
どうしたら良いのだろうか?なんてすこし考えたが、答えは簡単だ。なぜか自信の満ち溢れた顔をした桂にちゃんと向きあって、咳払いをひとつ。それから、
「付き合う訳無いだろ、バーカ」
「なっ……! お前、正気か?」
「アンタに言われたくないわ」
「……俺は、振られたのか?」
勝手に告白して振られて、ショック受けてるんだからめちゃくちゃな奴である。なんだか可哀想に思ってしまったのはきっと、相談に対しては真摯に向き合ってくれたからだろう。あくまで、相談中に限ったことだけど。
「まぁなに? 私は銀時が好きだけど、それでもっていうんなら、振り向かせてみれば?」
「フン、当たり前だろう」
「てかさ桂、アンタ人妻が好きなんじゃないの?」
「それはあくまで性癖であってだな、恋愛に関して言えば付加価値のようなものだ。有れば嬉しいが、無くても困らん」
「それにはちゃんと答えるのね……」
ひとまず、銀時への告白で悩むのはやめようと消極的解決をしてしまったのだが、後日訪れた万事屋で、銀時から「お前、ヅラに告られたってほんと?」と聞かれ、再びこの残念なテロリストへの殺意が満たされることになるとは思わなかった。
xxx
あんたとキスするくらいなら
せいぜい蛙の方がマシ
xxx
殊更、悩みが恋愛に関するものだった場合、最も注意すべきことはなんだろう。
「成る程な、話は粗方理解できた」
「うん、でさ、私どうすればいいかな?」
混雑する時間帯にも関わらず、店内にいる客は珍しくまばらで、客同士の存在を忘れてしまうほどの間隔で広い店内に散っているため、時折水を注ぎにくる店員以外に気を払う必要がない。悩み相談にはうってつけの喫茶店である。頼んだ珈琲はもう無くなってしまい、元々あった水を少し飲んで喉の渇きを潤す。
目の前の桂は、腕組みをして真剣に私の悩みを受け止めてくれているみたいだ。内心、こいつに相談して大丈夫かなんて思っていたことを申し訳なく思ってしまう。
「要するに、銀時に想いを寄せているものの、古くからの友人であるという距離感を壊したくないため、告白する勇気が無い、ということだな?」
「その通りです……」
わたしが1時間ほどかけて話したことが、コンパクトにまとめられていることに少し感動を覚えてしまった。話す前から手にかいた汗が尋常じゃないことになっている。
ただの相談でこんなことになるんだったら、告白なんてとんでもない。と思うのだが、そろそろ夜毎に飲み屋や風俗街に消えていくちゃらんぽらんに片思いなんてしてるのがキツくなってきたというのが本音なのだ。銀時が私に気が無いことも知っているから、尚更。
しかし、そんな簡単に吹っ切れるなら、こんな何年も告白を渋っている筈がない。分かってはいるものの、いざ振られたら立ち直れる自信は無いし、もし距離を置かれたらなんて思うと、振られるよりもずっと嫌だ。でも、かといって告白しない、となると……。堂々巡りを何周もしても埒が明かないので、誰かに助言を頼むことにした。
それが、銀時と私の旧友、桂である。
こいつはとんでもなく真面目な馬鹿というか、頭のおかしい所があるが、なんだかんだと攘夷志士達の中では尊敬されたりもするので、そういうカリスマ的な頼れる所を一か八かで買ってみたのだ。
「そんなもの、答えはとうに出ているであろう」
「え、そうなの?」
「胸に手を当てて考えてみるがいい、お前が今まで誰と共に在り、これからも、誰と共に在りたいかということを」
やっぱり頼れるところもあるじゃない。今まで影でロン毛バカなんて呼んでてゴメンね。幼少時代からの態度を猛省しながら、自信満々に笑っている桂を再び見ると、突然手を差し伸べられた。わけのわからないままに、その手を取ると、ぎゅうと握られる。ああ、励まされてるのかな。桂ありがとう、私頑張って告白、するよ。そう言おうと口を開いた瞬間、遮るように桂が口を開いた。
「銀時なんてやめて、俺にしちゃいなよ」
「…………え? ごめん、ちょっと耳の調子が、なんて言った?」
「俺はな、お前のことが、その、す」
「た、タンマ!!」
「何故止める!」
ようやくわかった。
恋愛相談をする時に、最も注意すべきは、相談相手であるということが。
すごい勢いで握られていた手を振りほどき、再度桂を見る。すると赤面しているようにも見える。卒倒しそうになりながらも、桂、いやロン毛バカの言い分を聞くことにした。
「あのさ桂、私、さっき何て相談した?」
「銀時が好きでどうすればいいか」
「うん、で、桂はそれを踏まえて?」
「お前に交際を申し込んでいる」
「なんでだ!!なんでそうなる!!」
「なんでって、それは、お、お前のことが、す、す……」
「あーもう照れるな!!」
思わず声のトーンが大きくなってしまう。店員や、あんなに遠くに座っているカップルからの目線が痛い。しかし今となっては、そんなことに気を払っている場合ではない。分かってください。私は被害者なんです!
「成る程な、好いている相手に気持ちを伝えるとは、これほどまでに難しいのか。お前も、さぞかし苦しかったろう」
「え、桂……もしかして、それを知るために?」
「しかしもう大丈夫だ。俺を選べば、こんなに辛い思いはしなくても良い。さぁ!」
いずれにせよ、狂乱の貴公子の告白からは逃げられないらしい。しかし、恋愛相談されて告白するってどんな感情を経たらそうなるのか全くわからない。
どうしたら良いのだろうか?なんてすこし考えたが、答えは簡単だ。なぜか自信の満ち溢れた顔をした桂にちゃんと向きあって、咳払いをひとつ。それから、
「付き合う訳無いだろ、バーカ」
「なっ……! お前、正気か?」
「アンタに言われたくないわ」
「……俺は、振られたのか?」
勝手に告白して振られて、ショック受けてるんだからめちゃくちゃな奴である。なんだか可哀想に思ってしまったのはきっと、相談に対しては真摯に向き合ってくれたからだろう。あくまで、相談中に限ったことだけど。
「まぁなに? 私は銀時が好きだけど、それでもっていうんなら、振り向かせてみれば?」
「フン、当たり前だろう」
「てかさ桂、アンタ人妻が好きなんじゃないの?」
「それはあくまで性癖であってだな、恋愛に関して言えば付加価値のようなものだ。有れば嬉しいが、無くても困らん」
「それにはちゃんと答えるのね……」
ひとまず、銀時への告白で悩むのはやめようと消極的解決をしてしまったのだが、後日訪れた万事屋で、銀時から「お前、ヅラに告られたってほんと?」と聞かれ、再びこの残念なテロリストへの殺意が満たされることになるとは思わなかった。
xxx
あんたとキスするくらいなら
せいぜい蛙の方がマシ
xxx